浪曲 53曲中 1-53曲を表示
曲名 | 歌手名 | 作詞者名 | 作曲者名 | 編曲者名 | 歌い出し |
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江ノ島ひとり~歌謡浪曲入り~三代沙也可 | 三代沙也可 | 志賀大介 | 伊藤雪彦 | 丸山雅仁 | 寄せては返えす 波でさえ 又の逢う瀬が あるものを わたしの恋は 片瀬波 想い出します あの夜を ああ 江ノ島 もう一度江ノ島 わたしはひとり 海が心の 鏡なら 写してください あの人を 抑えきれない この恋ごころ せめてもう一度 逢わせてほしい 恋は女の命です 弁天さまの 琵琶の音か はぐれ千鳥の 鳴く声か あなたが住む町 鎌倉へ 風よ伝えて この想い ああ 江ノ島 もう一度江ノ島 好きですあなた |
王将一代小春しぐれ 浪曲歌謡篇椎名佐千子 | 椎名佐千子 | 吉岡治 | 市川昭介 | 紅い灯青い灯通天閣の、此処は浪花の天王寺。 女房子どもを質入れしても、将棋さしたい阿呆なやつ。 貧乏手づまり千日手、それでも惚れてついてゆく、小春、三吉の物語‥‥。 苦労かぞえりゃ 八十一の 桝目に風吹く 路地裏長屋 いまは歩だって いつかはと金 駒を握れば 眸(め)が生きる そんなあんたに 惚れてます 「小春、ほんまに死ぬ気やったんか? …‥すまなんだ、わいはほんまに悪い亭主やった。 大阪の素人名人やらおだてられてのぼせていたんや。 もう今日から、一生将棋はささへん。 女房子どもにひもじいめさすようなこと、金輪際しやへん」 「あんた、つろうおっしゃろ。 あれだけ好きで好きでたまらん将棋をやめなはれ言うのが無理や…‥ おさしやす、おさしやす、かましまへんがな。 そのかわり、そのかわり、さすからには日本一の 将棋さしになって欲しい…」「小春……わい、今日から命がけや!」 空を仰いだ三吉の、背に回ってそっと拭く、頬の涙かはた露か、 小春しぐれを誰が知ろ…‥。 女房子どもを 泣かせた罰(ばち)は あの世でわたしが かわって受ける さしてください 気のすむように 将棋極道 えやないの そばに寄り添う 駒がいる 時は流れて幾星霜 天下に坂田の名があがる…‥。 「小春、わい勝ったで…‥ すぐ大阪に帰るさかい、死になや、死になや、死んだらあかんで、小春!」 西の坂田に 東の関根 男の命を 茜に燃やす たとえ負けよと 日本一の あんたわたしの 王将と 小春三吉 めおと駒 | |
王将一代・小春しぐれ(浪曲歌謡編)神野美伽 | 神野美伽 | 吉岡治 | 市川昭介 | 紅い灯青い灯通天閣の、此処は浪花の天王寺。 女房子どもを質入れしても、将棋さしたい阿呆なやつ。 貧乏手づまり千日手、それで惚れてついてゆく、小春、三吉の物語…。 苦労かぞえりゃ 八十一の 桝目に風吹く 路地裏長屋 いまは歩だって いつかはと金 駒を握れば 眸(め)が生きる そんなあんたに 惚れてます 「小春、ほんまに死ぬ気やったんか?… すまなんだ、わいはほんまに悪い亭主やった。 大阪の素人名人やらおだてられてのぼせていたんや。 もう今日から、一生将棋はささへん。 女房子どもにひもじいめさすようなこと、 金輪際しやへんあんた、つろうおっしゃろ。 あれだけ好きで好きでたまらん将棋をやめなはれ言うんが無理や… おさしやす、おさしやす、 かましまへんがな。そのかわり、そのかわり、 さすからには日本一の将棋さしになって欲しい… 小春……わい、今日から命がけや!」 空を仰いだ三吉の、背に回ってそっと拭く、 頬の涙かはた露か、小春しぐれを誰が知ろ…。 女房子どもを 泣かせた罰(ばち)は あの世でわたしが かわって受ける さしてください 気のすむように 将棋極道 えやないの そばに寄り添う 駒がいる 時は流れて幾星霜 天下に坂田の名があがる…。 「小春、わい勝ったで…すぐ大阪へ帰るさかい、 死になや、死になや、死んだらあかんで、小春!」 西の坂田に 東の関根 男の命を 茜に燃やす たとえ負けよと 日本一の あんたわたしの 王将と 小春三吉 めおと駒 | |
歌謡浪曲 無法松の一生~度胸千両入り~神野美伽 | 神野美伽 | 吉野夫二郎 | 古賀政男 | 「小倉生まれは玄海の 荒波育ちで気が荒い 中でも富島松五郎は 男の中の男だと 人にも呼ばれ我もまた 暴れ車の名を背負い 男一代千両の 腕なら意地なら度胸なら 一度も負けた事のない 強情我慢の筋金を 解けてからんだ初恋の 花は実らぬ仇花と 知っていながら有明の 涙も未練の迷い鳥 風に追われて泣いて行く」 小倉生まれで 玄海育ち 口も荒いが 気も荒い 無法一代 涙を捨てて 度胸千両で 生きる身の 男一代 無法松 空にひびいた あの音は たたく太鼓の 勇駒 山車(だし)の竹笹 堤灯は 赤い灯(あかし)に ゆれて行く 今日は祇園の 夏祭 揃いの浴衣の 若い衆は 綱を引出し 音頭とる 玄海灘の 風うけて ばちがはげしく 右左 小倉名代(なだい)は 無法松 度胸千両の あばれうち 「山車(だし)の周りに吊り下げた 赤いほうずき堤灯の ゆれる灯に片肌を 脱いでさらしたたくましい 肩に力がもり上りゃ 目にも止まらぬ枹さばき 余る音は急流の 早瀬を飛び散る波音か 低く打つのは魔の渕の 波間を飛び散る波しぶき 腰をひねれば沖天(ちゅうてん)に 枹と枹とをからませて ドンと打ち込む勇み駒 駒が勇めば血が躍る 躍る右手が火を切れば 左は岩を打ち砕く 無法一代松五郎 総身の力を振り絞る 祇園太鼓の暴れ打ち」 泣くな嘆くな 男じゃないか どうせ実らぬ 恋じゃもの 愚痴や未練は 玄海灘に 捨てて太鼓の 乱れ打ち 夢も通えよ 女男波(みょうとなみ) | |
岸壁の母 ~歌謡浪曲~坂本冬美 | 坂本冬美 | 藤田まさと | 平川浪竜 | 吉田邦夫 | 昭和二十五年一月の半ばもやがて過ぎる頃…。 雪と氷に閉ざされたソ連の港ナホトカから、 祖国の為に命をかけた同胞を乗せ、 引き揚げ船 高砂丸が帰ってくるッ 父が夫が兄弟が舞鶴の港に帰ってくるッ、 日本中の神経はこの港にそそがれた…。 狂わんばかりの喜びはルツボの様に沸き返った。 母は来ました 今日も来た この岸壁に 今日も来た とどかぬ願いと 知りながら もしやもしやに もしやもしやに ひかされて 「また引き揚げ船が帰って来たのに、今度もあの子は帰らない。 この岸壁で待っているわしの姿が見えんのか…。 港の名前は舞鶴なのに何故飛んで来てはくれぬのじゃ…。 帰れないなら大きな声で…。」 呼んで下さい おがみます ああ おっ母さんよく来たと 海山千里と言うけれど なんで遠かろ なんで遠かろ 母と子に 「あの子が戦死したなんて、私は信じておりません。 満州の牡丹江に近い磨刀石で、新二の部隊が行軍中、敵の戦車に遭遇した! 十二人は散り散りに身を伏せた。新二はドブの中へ飛び込んだ…。 それっきり、後は判らないと知りました…。 でも、敵弾に倒れたとかハッキリしていれば 諦めもつきますがこのままでは思い切れないそれがどうでございましょう。 八月十五日の午後三時半頃だとは……。 その日こそ終戦の日なのでございます…。」 たった一人の 愛し子の 国に捧げた 命でも 戦さ終れば 母の手に 「返して下さい… どうぞ、返して下さい… 親の身で、わが子の生き死にも分からない、 こんなむごいことがあるのでしょうか。」 と云うてあの子が 死んだとは 何で思えよ 母として せめてお金が あったなら この岸壁に 小屋を建て ソ連の港 ナホトカの 空へ向かって 声あげて 新ちゃん早く 母さんの 胸にすがって おくれよと 呼んで叫んで その日まで 生きて行きとうございます 空を飛び行く 鳥でさえ きっと帰って 来るものを 「あの子は今頃どうしているでしょう。 雪と風のシベリアは寒かろう、 つらかっただろうと命の限り抱きしめて、暖めてやりたい。」 悲願十年 この祈り 神様だけが 知っている 流れる雲より 風より つらいさだめの つらいさだめの 杖ひとつ 「ああ風よ、心あらば伝えてよ、愛し子待ちて今日も又、 怒涛砕くる、岸壁に立つ母の姿を…。」 |
岸壁の母~浪曲入り~石川さゆり | 石川さゆり | 藤田まさと | 平川浪竜 | 若草恵 | 昭和二十五年一月の半ばもやがて過ぎる頃 雪と氷に閉ざされたソ連の港ナホトカから 祖国の為に命をかけた同胞を乗せ 第一次引揚船高砂丸が還ってくるッ 父が夫が兄弟が舞鶴の港に還って来る 日本中の神経はこの港にそそがれた 狂わんばかりの喜びはルツボの様に沸き返った。 母は来ました 今日も来た この岸壁に 今日も来た とどかぬ願いと 知りながら もしやもしやに もしやもしやに ひかされて ああその夢があればこそ 引揚船の着く度に この舞鶴へ来るのです なのにあの子は還らない と言てどうして忘らりょう 姿の見えぬ岸壁に 涙こらえてとぼとぼと すがった枝を筆にして わが子よ端野新二よと 泣いて書いたも幾度か 呼んで下さい おがみます ああ おっ母さんよく来たと 海山千里と言うけれど なんで遠かろ なんで遠かろ 母と子に 悲願十年 この祈り 神様だけが 知っている 流れる雲より 風より つらいさだめの つらいさだめの 杖ひとつ ああ風よ、心あらば伝えてよ。 愛し子待ちて今日も又、 怒涛砕くる岸壁に立つ母の姿を… |
木曽路の女(歌謡浪曲入り)原田悠里 | 原田悠里 | やしろよう | 伊藤雪彦 | 雨にかすんだ 御岳(おんたけ)さんを じっと見上げる 女がひとり 誰を呼ぶのか せせらぎよ せめて噂を つれて来て ああ恋は終わっても 好きですあなた 湯けむりに揺れている 木曽路の女 (歌謡浪曲) 木曽の棧(かけはし) 中山道 瀬音なつかし 宿に来て 解いた黒髪 お六櫛 男滝女滝の 水さえも はなればなれに 落ちるのに 何で今さら 恋しがる ひとり旅寝の 恋まくら 明日は馬籠(まごめ)か 妻籠(つまご)の宿か 行方あてない 女がひとり やっと覚えた お酒でも 酔えば淋しさ またつのる ああ恋は終わっても 待ちますあなた どこへ行く流れ雲 木曽路の女 | |
長編歌謡浪曲 あゝ松の廊下三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 伏見竜治 | 山倉たかし | 「吉良殿、吉良殿。勅使に対し奉りこの浅野長矩が お出迎えする場所はお玄関式台下にござりましょうか、 それとも上にござりましょうか、今一度お教え下されましょう。」 「何度言うたら解るのじゃ。さてさて頭の悪い田舎大名 それでも饗応役か、お主の様な人間を鮒侍と申すのじゃ、ウフフフ。 えゝッ!! そこを退かしちょれ!!」 「余りと言えば…。 己れ上野(こうずけ)!覚悟!!」 武士(もののふ)が 刃を一度び 抜く時は 死ぬも生きるも 命がけ 千代田の城の 奥深き あゝ松の廊下 花に恨みの 風が吹く 「放して下され梶川殿、五万三千石、家をも身をも省(かえりみ)ず、 上野介(こうずけのすけ)を討つは、 将軍家の御威光(いこう)と役職を笠に着て、 私利私欲に走る人非人を斬る為じゃ、 その手を放して討たして下され梶川殿!!」 武士の 情けを貴殿(あなた)が 知るならば 止めて呉れるな 手を放せ 男の怒り 燃ゆる時 あゝ松の廊下 床に流した 血の涙 武士の 厳しき運命(さだめ)が 恨めしや 明日の命は すでになく 無念が残る 千代田城 あゝ松の廊下 忠臣蔵の 幕が開く 「役儀に依って言葉を改める拙者御目付当番、 多門伝八郎、さて朝散の太夫浅野内匠頭長矩。 其方儀御大法をも辯えず今日、 松の廊下に於て争いに及ばれたるは如何なる御所存あっての事か。」 「恐れ入りました。上(かみ)へ対し奉りては、聊(いささ)かのお恨み もござりませぬが私の怨(うらみ)を持って 前後を忘れ刃傷(にんじょう)に及びました。」 「其方上野介を討ち果たす心であったか? 又、私ごとの怨(うらみ)とは?…」 「も早や此の場に於いては何事も…何事も… ただ無念なわ上野介を討ち損じたる事。 この身の未熟お恥ずかしく存じまする。 この上は御定法通り御仕置賜るよう、お願いを申しあげまする」 両手を突いた長矩の 顔の白さが痛ましや さすがに彼も武士よ 覚悟の程も潔(いさぎ)よし 噫ゝ(ああ) 外様大名の悲しさか 天下の法を振りかざし 将軍綱吉直々に 厳しく下る裁断は 家名断絶身は切腹 今朝の晴れ着と打ち変り 網乗物にて芝愛宕下(しばあたごした)の田村邸 泣くに泣けない家臣の一人 片岡源五は殊(こと)の外 おそば近くにつかえたが、 せめてはひと目御主君の 最後のお姿見届けん 又、二つには御遺言お聞きせねばと 田村邸 検死役なる伝八郎に 願い出でたるその時に 逢わしてやるぞ片岡よ 法に照らせばこの儂も 後でおとがめ受けようが 儂の知行の七百石など 惜しくはないぞ 武士の心は 武士の心は 武士が知る。 |
長編歌謡浪曲 あゝ松の廊下三山ひろし | 三山ひろし | 北村桃児 | 伏見竜治 | 伊戸のりお | -序- 元禄十四年三月十四日、この日は朝からの曇り空、 春とは言えど肌寒い日であった。 東山天皇の勅使前大納言(さきのだいなごん)柳原資廉(すけかど)、 前中納言高野保春、霊元上皇の 院使 前大納言 清閑寺熙定に対して徳川幕府が行う 年頭のしかも最後の儀式の日であった。 浅野長矩「吉良殿 吉良殿 勅使に対し奉りこの浅野長矩(ながのり)が お出迎えする場所はお玄関 式台下にござりましょうか、それとも上にござりましょうか、 今一度お教え下されましょう」 吉野上野介「何度言うたら解るのじゃ さてさて頭の悪い田舎大名 それでも饗応役か お主の様な人間を鮒侍と申すのじゃ ウフフフ えッ!! そこを退かっしゃれ!!」 浅野「うーむ 余りと言えば己れ!上野(こうずけ) 覚悟!!」 武士(もののふ)が 刃を一度び 抜く時は 死ぬも 生きるも命がけ 千代田の城の 奥深き あゝ松の廊下 花に恨みの 風が吹く 「放して下され梶川殿 五万三千石 家をも身をも省(かえりみ)ず 上野介(こうずけのすけ)を討つは、将軍家の御威光(いこう)と役職を笠に着て 私利私欲に走る人非人を斬る為じゃその手を放して討たして下され梶川殿!!」 武士の 情けを 貴殿が知るならば 止めて呉れるな 手を放せ 男の怒り 燃ゆる時 あゝ松の廊下 床に 流した血の涙 武士の 厳しき 運命が恨めしや 明日の命は すでになく 無念が残る 千代田城 あゝ松の廊下 忠臣蔵の 幕が開く |
長編歌謡浪曲 あゝ松の廊下(続編)三山ひろし | 三山ひろし | 北村桃児 | 伏見竜治 | 伊戸のりお | 多門(おかど)伝八郎「役儀に依って言葉を改める拙者御目付当番、 多門伝八郎、さて朝散の太夫浅野内匠頭長矩。 其方儀御大法をも辯えず今日、松の廊下に於て 争いに 及ばれたるは如何なる御所存あっての事か」 浅野「恐れ入りました。上(かみ)へ対し奉りては、聊(いささ)かのお恨み もござりませぬが私の怨(うらみ)を持って前後を忘れ刃傷(にんじょう)に及び ました」 多門「其方上野介を討ち果たす心であったか? 又、私ごとの怨(うらみ)とは?…」 浅野「も早や此の場に於いては何事も…何事も…ただ無念 なは上野介を討ち損じたる事。 この身の未熟お恥ずかしく存じまする。 この上は御定法通り御仕置賜るよう、お願いを申しあげ まする」 両手を突いた長矩の 顔の白さが痛ましや さすがに彼も武士よ 覚悟の程も潔(いさぎよ)し 噫ゝ(ああ) 外様大名の悲しさか 天下の法を振りかざし 将軍綱吉直々に 厳しく下る裁断は 家名断絶身は切腹 今朝の晴れ着と打ち変り 網乗物にて芝愛宕下(しばあたごした)の田村邸 泣くに泣けない家臣の一人 片岡源五は殊(こと)の外 おそば近くにつかえたが せめてはひと目御主君の 最後のお姿見届けん 又、二つには御遺言お聞きせねばと田村邸 検死役なる伝八郎に 願い出でたるその時に 逢わしてやるぞ片岡よ 法に照らせばこの儂も 後でおとがめ受けようが 儂の知行の七百石など 惜しくはないぞ 武士の心は 武士の心は 武士が知る |
長編歌謡浪曲 赤穂の妻三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 佐藤川太 | 山倉たかし | 仇を討つのか 討たぬのか 責める世間の 噂が恐い ここは山科 佇ずまい 耐えて忍んで 赤穂の妻は 祈る心で 月を見る 可愛い主税も 見納めか 生きて此の世で 逢われぬ運命 武士の妻なら 母ならば 何んで泣きましょ 赤穂の妻は 涙耐えて 別れゆく 「おりく身重のそなたに苦労をかけるのう。 内蔵之助はそなたを妻に迎えた事が 一生の裡で一番大きな倖せだった」 北は時雨て南は曇る はいた草鞋の緒が濡れる 実家の但馬の豊岡へ おりく悲しや戻り旅 星の流れは夢の間か 嫁十七白無垢姿 篭にゆられてお嫁入り あの日の儘に故郷の山も 吾が家も昔変らぬなつかしさ しばし佇む玄関先 いそいそいそと出迎える 優しい母のしわの顔 寄る年波の共白髪 父の顔見りゃ 一度にどっと溢れ出る涙を おりくは陰せよう 「おりくあんな昼行燈内蔵之助の処へ そなたを嫁につかわしたわ石塚源五兵衛一代の不覚じゃった! この度のお上の仕打ちは誰か見てもむごいもんじゃ。 山鹿流軍法の奥儀を極めた内蔵之助刈屋城に籠って 武士らしく一戦するかと思うたら、それはやらぬ、城はおめおめ明け渡す。 己は祇園や島原で遊びくさって、どこまで腑抜け腰抜けじゃ。 お前におこってもしょうがない。 這入れ遠慮するなお前の生まれた家じゃ。 何じゃ婆さん、孫達が挨拶も出来ずまごまごしている? 馬鹿もん孫は別じゃ、早ようこっちへ通さんか。 おうおう吉千代にお久宇か。可愛うなったな。 吉千代は十一、お久宇は十三そうかそうか、 山科からよくここまでこられた、疲れたであろう。 足をなげだして楽にするが良い。 兄の主税はどうしていた?父上がこれをおじい様にみせろと言うた。 どれどれこの短刀を…‥おう!一点の曇りなき長船祐定、 この刀を吉千代!お前に形見じゃと内蔵之助が渡したか。 あの形見じゃと!うむ!ウハハ ウハハハ… おりく、よくぞよくぞ離縁されて戻ったのう」 さてこそ婿殿内蔵之助 仇を討つ気であったのか 昼行燈ではなかったぞ 望みは大石江戸を睨んだ胸の裡 用意は充分出来てるわい 可愛い女房や二人の子供 離縁したのもまさかの時に 罪を被ちゃならないと さすが出かした天晴れじゃ おりく分かっているだろうが 去り状持って親元へ 帰るそなたの辛さより 去らせた良雄の悲しさと 息子主税の切なさを 想ってやれよこの子供 立派に育ててやることが 妻の道だぞ務めだぞ 説いて聞かすも親なれば 親なればこそ武士なれば 形見の短刀押し戴いて 孫を抱き寄せこの祖父が 怒って本当に済まなんだ 許してくれと詫びている 父の笑顔に又泣ける 母が運んだ手料理へ 思わずおりくは手を合せ 涙を押えた瞼の裏に 浮かぶ赤穂の天守閣 赤穂の妻は泣きませぬ 赤穂の妻の顔に 晴ればれ夕陽が紅い |
長編歌謡浪曲 赤穂城の内蔵之助三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 伏見竜治 | 山倉たかし | 春の風が 乱れて吹いて 雲が飛ぶ飛ぶ 赤穂城 殿の形見の かずかずに 心の奥で 問いかけて しみじみ泣いた 内蔵之助 「殿、御無念で御座りましたろう。 殿が家督(かとく)をお継ぎ遊したは御年九ツの時、 その頃内蔵之助も家老の重職を承わった、 私は十九で御座りました、 それより数えて二十何年勿体なき事ながら吾が弟とも、 わが子とも思い参らせて、お育て申しました。 殿、内蔵之助が江戸に居りましたなら、 貴方様の口惜しさもお慰め出来たものを。 ……何時ものあのお声でこの内蔵之助をお叱りなされて下さりませ」 殿が愛した 民百姓を 何んで見捨てゝ 良いものか 騒ぐ波風 おだやかに 必らず静めて 見せましょう 最後のこれが 御奉公 「殿が十七才、お輿入れなされた奥方様が十才の春、 御祝言の席上お祝いを申し上げました内蔵之助の目に まるで一対のお雛様のような可愛い御夫婦に見えました。」 今日が最後の 大評定(だいひょうじょう)と 覚悟みなぎる 赤穂城 されど人数は 五十六 すゝり泣きすら 洩れる中 静かに坐る 内蔵之助 「扨(さて)、御一同 赤穂浅野家最後の評定をとる者は、 わずか五十六人かと最前まで内蔵之助は残念に存じておりましたが、 各々方のお顔を見てこれこそ忠誠無二、 大石の心中を打ち開けて頼むに足る方々のみと、 私は嬉しく存じまする。本日まで馴れぬそろばんを手にして どうか領民の生活の立つようにと苦心致しましたのも御主君が 死して後まで陰口叩かれては家来として何んの面目が御座りましょう。 扨、各々方私が只今から申す一事(ひとこと)を どうぞお聞き捜しなきよう、お願いを申上げる。 この大石が今日まで密かに恐れおのゝいていた事は 一天万乗帝の勅使を迎えた当日、例え意趣であり遺恨であるにもせよ 刀を抜いて血で汚した主人内匠頭が犯せし無礼が 帝の御宸禁(ごしんきん)を如何に悩し奉ったかと云う事で御座った。 若しや勅使を蒙(こうむ)る身とならば死して尚、 末世末代内匠頭は皇室不敬の大罪人、我等一同とても日本国中、 身の置き処なき浪人となるで御座りましょう。 それが……それが昨夜京都留守居役小野寺十内どのが帰国致して申さるには、 近衛関白を初め勅使に立たれし柳原大納言様や 公卿の方々より吉良上野介を討ち洩した浅野は不便(ふびん)じゃと 手厚きお悔やみのお言葉を戴きました。 それのみか!それのみか各々方、 京都御所紫宸殿貴き御簾の内より 「浅野内匠頭 想いを達せずはまことに哀れな者」 と畏くも帝の御声を洩れ承わったのじゃ! 喜び召され御一同これにて亡君長矩(ながのり)様は 救われ……救われましたのじゃ!! この上は最早や何処を憚(はばか)り 何処を恐るゝ処もない。 決死の勇士五十六人力を合せて吉良上野介を討つ事で御座る。 又、二ツには幕閣につながる人々の悪政は限りを知らず、 当五代将軍御代に於て取り潰し又、改易となったるは、 大小四十八頭(かしら)その最も大きくは越前宰相五十二万石を始めとして 作州(さくしゅう)津山十八万六千石、その他、合せて、 二百七十一万四千石を幕府の手に取り上げ、 三万有余人の我等と同じ浪人を生むに至った。 御一同よいか、只ひとりの吉良殿を討つ事は 即ち日本国の政道に批判の一矢(いっし)を報ゆる事じゃ、 各々方の、その赤き血を以って連判状に只今から何卒御署名を 願いたいので御座いまする!!」 固き誓いの 連判状に 燃ゆる真心 鬨(とき)の声 一人一人を 見渡して 何時しか突いた両の手に 涙が落ちる 内蔵之助 |
長編歌謡浪曲「沖田総司」辰巳ゆうと | 辰巳ゆうと | 三波美夕紀 | 三波美夕紀 | 隼トシヒデ | 剣に 剣に生きると 決めたなら 熱い思いを たぎらせて ゆくぞ嵐の 只中へ 誠の道を まっしぐら 総司の闘志は 燃え上がる 時は幕末。京の都では、尊王攘夷、倒幕を目指す人々の動きが活発となり、 徳川幕府は、それを抑えるために新しい力を必要とした。 そして文久三年、「新選組」が誕生。局長・近藤勇、芹沢、新見。 副長・土方歳三、山南(やまなみ)。「誠」一字の旗印のもと、 結束固きこの集団の中で、一番の剣の使い手こそ、沖田総司その人であった。 「名乗ろうか。私は、新選組副長助勤、沖田総司だ」 歳は二十歳で目元涼しく、姿凛々しく美しく。 江戸に生まれて九つで、近藤の家の道場・試衛館に入門し、 十年の内に免許皆伝、師範代。皆に好かれた人柄は、 まことに明るく朗らかで。壬生の屯所の近所の子供たちとは鬼ごっこ。 「では、今度は私が鬼だ。さぁ、十数えるうちに逃げるんだぞ。よいか」 優しい心の持ち主なり。 新選組誕生の翌年、大きな事件が起きる。池田屋事件である。 あるとき、新選組は、尊王攘夷派の企みを知る。彼らは、京の町に火を放ち、 御所に押し入り、天皇を長州に連れ去るという。 また、近々、彼らが宿屋・池田屋に集まることを知る。総司は憤った。 「町じゅうに火をつけられたら、多くの人が家や身内を失うことになる。 許せぬ。絶対に阻止しなければ!」 斯くて、新選組は池田屋へ。その夜、六月五日は祇園祭の宵山で。 日が暮れかかり、鉾や山に灯がともり、祇園囃子が鳴り響く。 新選組のその日の出で立ち、鎖帷子(くさりかたびら)、 胴衣に鉢金(はちがね)、浅葱(あさぎ)の羽織に山道ダンダラ白き木綿の袖印。 沖田総司は筋金入りの鉢巻締めて、役者のような姿なり。 目指す池田屋。近藤勇は、総司、永倉、藤堂と、 試衛館仕込みの三名引き連れ、まっすぐ二階を目指したり。 敵の二十数名抜刀す。 沖田総司の燃える刀が唸りを上げて最初の一人を一刀両断。 それが口火で、大激闘。 新選組は勝利した。 と、その時、総司の体に異変が起きた。 総司は喀血をした。 然るに、この池田屋事件をきっかけとして、新選組の名は世に轟き、 幕府も大いに認めた。新選組は一層活躍を続けた。 「総司、体の具合はどうだ。咳がまだ続いているんだろう」 「土方さん、いやだなぁ、咳なんかしてませんよ。大丈夫です」 「ま、とにかく医者に行け。なんなら、俺が付いて行ってやる」 「あ、いえいえ、医者に行くのは気が進みませんが、 ちゃんと一人で行けますから」 医者にかかって見立てられたは、労咳で、命はあと二年。 言われて総司も観念して、医者の元へと通ううち、 折しも出会った医者の娘に、恋をした。けれど、なんで言えようこの思い 「好きだと打ち明けたところでどうなる。私の命は長くない。 私は… 、私は、人を恋してはいけないのだ」 生涯たった一度だけ、胸にともした恋の灯を、総司は自ら吹き消した。 そして、時代は激しく移り変わってゆく。 総司の体は次第に次第に悪くなり、剣の時代も終わりゆく。 菊は栄えて葵は枯れる。歴史の流れは止められず。 慶応三年、将軍・徳川慶喜は朝廷に大政を奉還し、王政復古の大号令。 それからほどなく、近藤勇は鉄砲により狙撃されて傷を負い。 明くる慶応四年、新選組は「鳥羽伏見の戦い」で新政府軍に敗れたり。 この合戦で共に戦えなかったことを、総司は深く悲しんだ。 やがて総司は、敵に見つかるのを避けるため、 江戸は千駄ヶ谷の植木屋平五郎の家の離れに移り住む。 そこは、総司の終(つい)の棲家(すみか)となる。 新選組は、その後の戦いでも敗れ、近藤勇は捕縛(ほばく)され、処刑された。 そのことを総司は知らず、そのふた月のち、総司は誰にも看取られず、 ひとり、死出の旅路のその間際、幻を見ていた。 「あ、近藤先生、土方さん、来てくださったんですか。 総司は、きょうまで、力の限り生きました… 」 慶応四年五月三十日 沖田総司は、この世を去った。 傍らには、愛刀・菊一文字則宗があった。 強く生き、儚く散ったその命。 享年、二十五歳であった。 巡り 巡り合わせた運命を ただまっすぐに生き抜いた 総司の心に 曇りなし 誠を尽くした その姿 語り継ごうぞ いつまでも |
長編歌謡浪曲 勝海舟三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 遠藤実 | 只野通泰 | 江戸で生れてああ長屋で育ち 今じゃ幕府の総大将 星の流れは皮肉なものさ 月にうそぶく勝海舟の 胸にゃ真っ赤な火が燃える 時代の流れと勢いは 誰が止めても止まらない 無心に遊ぶ子供らが 手まり唄にも口ずさむ 宮さん 宮さん お馬の前で ヒラヒラするのは何じゃいな トコトンヤレトンヤレナ あれは朝敵征伐せよとの 錦の御旗じゃないかいな 菊は栄えて葵は枯れる 西にひずめの音がする 「近代日本の暁を告げる刻の鐘は、 いんいんとして鳴り渡る慶応四年の春、 薩長土肥連合軍は、江戸を目指して怒涛の如く進撃を開始した。 有栖川宮を大総督と仰ぎ、全軍の指揮を取るは、 参謀筆頭薩摩の大南洲西郷隆盛。 これを迎えて江戸を守らんとする海舟、 勝麟太郎彼こそ正に真理を貫く天才的な人であった」 「なあ益満、西郷どんに逢ったら云っておくれ。 勝はホンニ臆病だからねぇ。 戦は恐がっていたよって。俺ら百五十万人の人間が住んでいる江戸が、 天子様の軍勢の為に丸焼けにされるなんて考えたら、 おちおち眠っちゃいられねえよってなア。 じゃ山岡西郷さんへの手紙はこれだ。 読んだらきっと唸るだろうさ。そこで、あんたも私も日本人、 いやさ!皆天子様の子供だと云っておやり…。 まあよろしく頼みましたよ」 軽くくだけてああ口では云うが 腹じゃ何時でも死ぬ覚悟 江戸を焼くのか花見とゆくか そちら次第と勝海舟が 賭けた天下の大勝負 錦の旗をなびかせて 東海道をひた押しに 軍勢進める西郷の 心の動きを見つめつつ 徳川二百八十年 舞台の幕を締める役 吾身ひとつに引受けて 八百八町の誰ひとり 殺しちゃならぬ守らにゃならぬ 迎えて立った勝海舟 時は熟した慶応四年 桜ほころぶ三月半ば 青毛よ走れと一鞭当てて 手網さばきも鮮やかに 蹄の音を響かせて パーッパカパーッパカパッパカパッパカ… 薩摩屋敷の門前に 駒を飛ばして乗りつけた 「おーい、そこの兵隊達!西郷参謀は何処に居る! 俺は海軍総裁勝麟太郎だ!」 慄然として呼ぶ声に 敵であるべき薩摩の兵士 思わず知らず捧げ銃威儀を正して迎えたり この時西郷隆盛は 自ら門を馳け出して思わず 両手を差し延べて 「勝先生!」 「おう西郷さん!」 握る手と手に万感の 想いが籠る両雄の 瞼に浮かぶ涙こそ あゝ幕末の動乱を 救う涙か 明治維新のあけぼのを 飾る涙か虹の色 薩摩隼人と江戸っ子が 共に語る人の為 共に語る国の為 腹が分ればああ話しは早い 渡しましたぞこの江戸を 頼みますぞこの日本を 祈る想いの勝海舟に 花の明治の夜が明ける |
長篇歌謡浪曲 九段の母天津羽衣 | 天津羽衣 | 石松秋二 | 能代八郎 | 上野駅から 九段まで 勝手知らない じれったさ 人とくるまに 追いかけられて 伜来たぞや 逢いに来た 「ほんに十年振りじゃのお。淋しかったろのう、堪忍して呉れや、 女手一つじゃで、そう ちょくちょくと来てもやれんのでの」 空を突くよな 大鳥居 見れば落ちます 一ト雫 遠いあの日の 道途(かどで)の朝が 今もこの目にありありと 「あの時御子息名誉の戦死ですよと、村長さまに頭下げられて… 両手をつかれて…伜も、これで一人前、 肩身が広うございます。 わたしゃ満足でこざいます。と言っただが… 一人息子が死んだのに、嬉しいなどとはそりゃ大嘘じゃ…」 いくら心が辛かろうと 口がさけても 人前で 泣いちゃいけない 軍国の 母の掟の 切なさよ 裏の畑に 馳け込んで 他人(ひと)に見せじと ため涙 窃と流した 親ごころ 「返してお呉れーおらの大切な伜を、返してお呉れ!」 おらに伜を 返してと 朝は朝星 夜は夜星 叫び続けた ふた昔 隣り村から 嫁もろて でんでん太鼓の 孫だいて 一家揃うて 倖せに わたしゃ気軽な 御隠居さまで 無事に暮らせて 居たものを 「お前と一緒に出征した、新田の三やんを見ろや、村会議員に納って、 えろう羽振りきかして居なさるわな。 五人の子持ちでの、上の娘っこは来春、嫁に行くだとよ、 村長さまの孫さんだとよ」 愚痴はよしましょ 折角の 十年振りの対面じゃ… 「ほら、ここへ鎮守様のお神酒(みき)を もろて来たで、 母子見ず入らずでよ、 ここで一杯やり乍ら、つもる話でもしようかの それにしても東京はえらくひらけたもんだのう。 おッたまげただよ。戦争には負けても、お前の働きは無駄じゃ なかったと、人は知らぬが、母はかとう信じるとるぞ、 今年は村も豊年万作で、大よろこびじゃった、二日二晩も、 ヨイヨイヨイヨイと、村の衆総出で踊り明かしたぞ。 こんな手振りでよ、たっぷり踊ってやったぞネ、 おらが村さの馬鹿踊りをよ…」 余り長居は別れが辛い。また逢う日をたのしみに、 待っててお呉れよ これ伜、 「そいじゃ…おッ母(かあ)は…もう行くぞよ…」 名残り惜しさに 振り返る 赤い夕陽の 九段坂 空を群れとぶ 親鳩子鳩 老いの瞼が また濡れる | |
長編歌謡浪曲 元禄桜吹雪 決闘高田の馬場三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 山倉たかし | 山倉たかし | 江戸は夕焼け 灯ともし頃に 夢を求めて みなし子が 国の越後の 空を見る 顔も赤鞘(あかさや) 安兵衛が 何時か覚えた 酒の味 喧嘩するなら 相手になろうか 俺は天下の 素浪人 真(まこと)武士なら 男なら やると決めたら 安兵衛は 行くぞ白刃の 只中へ のり屋のばあさんが差出した 手紙を開く 中山安兵衛 急ぎしたため 参らせ候 堀内源左衛門先生 道場で深く知り合い 叔父甥の、義を結んだるこの菅野 引くにひけない 武士の意地 村上兄弟一門と 高田の馬場で果し合い 六十すぎた拙者には 勝目は一つも御座無く候 後に残れる妻や子を お願い申す安兵衛殿 文武秀れたそなたじゃが 酒をつゝしみ身を修め 天晴れ出世なさるよう 草葉の陰から祈り参らせ候と 涙で書いた遺言状。 「ばあさん!今何ん刻だ!何に辰の下刻か、 うーむ高田の馬場まで後半刻、 南無や八幡大菩薩此の安兵衛が行きつくまでは叔父の身の上守らせ給え! ばあさん水だ! 水を呉れ!」 関の孫六わし掴み 牛込天竜寺竹町の長屋を飛出す安兵衛は 小石をけとばし砂巻き上げて 宙飛ぶ如く駆けてゆく 此れを眺めた大工に左官 床やも 八百やも 米やのおやじも 魚やも それゆけ やれゆけ 安さんが 大きな喧嘩を見つけたぞ 今夜はタラフク呑めそうだ 後から後から付いて行く 一番後からのり屋の婆さん息を切らして ヨイショコラショ ヨイショコラショ 安さん安さん!! 喧嘩は止しなとかけてゆく 高田の馬場に来てみれば 卑怯未練な村上一門 わずか二人を取り囲み 白刃揃えて斬りかゝる 哀れ菅野と 若党は次第次第に追いつめられて すでに危うく見えた時 馬場に飛込む安兵衛が 関の孫六抜く手も見せず 村上三郎斬り捨てゝ 天にも轟く大音声(おんじょう) 中山安兵衛武庸が叔父の菅野に助太刀致す、 名乗りをあげて さあ来いと脇差抜いて 左手に天地に構えた 二刀流右に左に斬り捲くる、 折しも叔父の背後(うしろ)から薙刀(なぎなた)持って 祐見が、斬り下ろさんとした時に 撥止投げた脇差が 背中を貫き見事倒した有様は、 さながら、鬼神か天魔の業か かたずを呑んで 見ていた群衆 どっとあげたる歓声が 高田の馬場にこだまする。 剣がきらめく 高田の馬場に 桜吹雪が舞いかかる 勝って驕(おご)らぬ 爽やかさ 花の青年 安兵衛の 顔に明るい 春の風 |
長編歌謡浪曲 元禄桜吹雪 決斗高田の馬場三山ひろし | 三山ひろし | 北村桃児 | 山倉たかし | 江戸は夕焼け 灯ともし頃に 夢を求めて みなし子が 国の越後の 空を見る 顔も赤鞘(あかざや) 安兵衛が 何時か覚えた 酒の味 喧嘩するなら 相手になろか 俺は天下の 素浪人 真武士(まことぶし)なら 男なら やると決めたら 安兵衛は 行くぞ白刃の 只中へ のりやのばあさんが差出した 手紙を開く中山安兵衛 急ぎしたため参らせ候 堀内源左衛門先生道場で 深く知り合い 叔父甥の 義を結んだるこの菅野 引くにひけない武士の意地 村上兄弟一門と 高田の馬場で果し合い 六十すぎた拙者には 勝目は一つも御座無く候 後に残れる妻や子を お願い申す安兵衛殿 文武秀れたそなたじゃが 酒をつつしみ身を修め 天晴れ出世なさるよう 草葉の陰から祈り参らせ候と 涙で書いた遺言状 「ばあさん、今何ん刻だ。何、辰の下刻か。うぅむ、 高田の馬場まで後半刻、南無や八幡大菩薩、 此の安兵衛が行きつくまでは叔父の身の上守らせ給え。 ばあさん、水だ、水を呉れ!」 関の孫六わし掴み 牛込天竜寺竹町の長屋を飛出す安兵衛は 小石を蹴とばし砂巻き上げて 宙飛ぶ如く駆けてゆく 此れを眺めた大工に左官 床やも八百やも米やのおやじも魚やも それゆけやれゆけ安さんが 大きな喧嘩を見つけたぞ 今夜はたらふく呑めそうだ 後から後から付いて行く 一番後からのりやの婆さん息を切らして ヨイショコラショ ヨイショコラショ 安さん安さん 喧嘩は止しなと駆けてゆく 高田の馬場に来てみれば 卑怯未練な村上一門 わずか二人を取り囲み 白刃揃えて斬りかゝる 哀れ菅野と若党は 次第次第に追いつめられて すでに危うく見えた時 馬場に飛込む安兵衛が 関の孫六抜く手も見せず 村上三郎斬り捨てて 天にも轟く大音声 中山安兵衛武庸が 叔父の菅野に助太刀致す 名乗りを上げてさあ来いと 脇差抜いて左手に 天地に構えた二刀流 右に左に斬り捲くる 折しも叔父の背後(うしろ)から 薙刀(なぎなた)持って祐見が 斬り下ろさんとした時に 撥止と投げた脇差が 背中を貫き見事倒した有様は さながら鬼神か天魔の業か 固唾を呑んで見ていた群衆 どっとあげたる喊声が 高田の馬場にこだまする 剣がきらめく 高田の馬場に 桜吹雪が舞いかかる 買って驕(おご)らぬ 爽やかさ 花の青年 安兵衛の 顔に明るい 春の風 | |
長編歌謡浪曲 元禄花の兄弟 赤垣源蔵三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 春川一夫 | 佐藤川太 | 酒は呑(の)んでも 呑まれちゃならぬ 武士の心を 忘れるな 体こわすな源蔵よ 親の無い身にしみじみと 叱る兄者(あにじゃ)が懐かしい 迫る討入り この喜びを せめて兄者に よそながら 告げてやりたや知らせたい 別れ徳利を手に下げりゃ 今宵名残りの雪が降る 兄のきものに盈々(なみなみ)と差して呑み干す酒の味 「兄上もはや今生(こんじょう)のお別れとなりました。 お顔見たさに来てみたが、 源蔵此れにてお暇仕(いとまつかまつ)りまする。」 兄の屋敷を立出でる 一足歩いて立ち止まり 二足歩いて振り返り 此れが別れか見納めか さすが気丈(きじょう)の赤垣も 少時(しばし)佇む雪の中 熱い涙は止めどなし。 「かくて果てじと気を取り直し 饅頭笠を傾けて目指す行手は両国か。 山と川との合言葉 同じ装束(いでたち)勇しく 山道ダンダラ火事羽織 白き木綿の袖じるし 横川勘平武林が大門開けば赤垣は宝蔵院流九尺の手槍、 りゅう!としごいてまっさきに吉良の屋敷に踏込んだり。 されど東が開け初めても未だに解らぬ吉良殿在処(ありか) さすがの大石内蔵之助天を仰いで嘆く時誰が吹くやら呼子の笛 吉良の手を取り引い出し吹くは赤垣源蔵なり」 一夜開くれば十五日 赤穂浪士が 引揚げと 聞くより兄の塩山は もしや源蔵がその中に 居りはせぬかと立ち上り、 「市助!市助はおらぬか!」 「おう、市助赤穂浪士が今引揚げの最中、たしか弟がその中に居るはずじゃ そなた早よう行って見届けてきて呉れ! もしも源蔵が居たならば、隣近所にも聞こえる様に 大きな声で叫んでくれ、よいか!」 もしも居らないその時は 小さな声で儂(わし)にだけ 知らせてくれよ頼んだぞ。 祈る心で待つ裡(うち)に 転がる様に戻り来て 「ヤァー源蔵さまが居りましたワイ」 嬉し泪の塩山は雪を蹴立てて真っしぐら仙台候の御門前 群がる人をかき分け、かき分け前に進めば源蔵も 兄は来ぬかと背延びして、探し求めている様子。 「源蔵!」 「兄上か!」 ひしと見交わす顔と顔、固く握った手の中に通う血汐の温かさ 同じ血じゃもの肉じゃもの。 夢を果した男の顔に 昇る旭が美しや 笑顔交して別れゆく 花の元禄兄弟(あにおとうと) 今朝のお江戸は日本晴れ |
長編歌謡浪曲 元禄花の兄弟 赤垣源蔵三山ひろし | 三山ひろし | 北村桃児 | 春川一夫 | 池多孝春 | ―序― 元禄十五年。赤穂浪士の一人・赤垣源蔵は、 芝・浜松町に浪宅を構え、高畠源五右衛門と名前を変えて 吉良邸の動静を探っていた。 かくて、討入りは十二月十四日と決まり、その二日前。 親の無い身であるゆえに父とも母とも 思い慕ってきた兄の塩山伊左衛門に、心中で別れの挨拶をと、 源蔵は兄の屋敷を訪ねたが不在。 しからばと、万感の思いとともに、衣桁にかかる着物を兄とみて、 暇乞(いとまご)いの盃を開けたのであった。 やがて、四十七士が本懐を遂げた十五日の朝、 浪士引揚げの隊列の中に、源蔵も歩みを進めていた。 沿道には見物の人垣。 「そうだ、兄も来るやもしれぬ。私の姿を見つけてくれるやもしれぬ。 最後に一目会いたいと、兄の姿を探す弟。」 元禄花の兄弟の物語。 酒は呑んでも 呑まれちゃならぬ 武士の心を 忘れるな 体こわすな源蔵よ 親の無い身にしみじみと 叱る兄者(あにじゃ)が懐かしい 迫る討入り この喜びを せめて兄者に よそながら 告げてやりたや知らせたい 別れ徳利を手に下げりゃ 今宵名残りの雪が降る 兄のきものに盈々(なみなみ)と 差して呑み干す酒の味 源蔵「兄上、もはや今生(こんじょう)のお別れとなりました。 お顔見たさに来てみたが、 源蔵此れにてお暇仕(いとまつかまつ)りまする。」 兄の屋敷を立出でる 一足歩いて立ち止まり 二足歩いて振り返り 此れが別れか見納めか さすが気丈の赤垣も 少時(しばし)佇む雪の中 熱い涙は止めどなし かくて果じと気を取り直し、饅頭笠を傾けて目指す行手は両国か。 山と川との合言葉。同じ装束(いでたち)勇ましく、 山道ダンダラ火事羽織、白き木綿の袖じるし。 横川勘平・武林が大門開けば赤垣は宝蔵院流九尺の手槍、 りゅう!としごいてまっさきに吉良の屋敷に踏込んだり。 されど東が明け初めても未だに解らぬ吉良殿在処(ありか)。 さすがの大石内蔵之助、天を仰いで嘆く時、誰が吹くやら呼子の笛。 吉良の手を取り引出し吹くは赤垣源蔵なり。 一夜明くれば十五日赤穂浪士が 引揚げと聞くより兄の塩山は もしや源蔵がその中に 居りはせぬかと立ち上り、 塩山「市助! 市助はおらぬか! おう、市助。赤穂浪士が今引揚げの最中、 たしか弟がその中に居るはずじゃ。 そなた早う行って見届けてきて呉れ! もしも源蔵が居たならば、隣近所にも聞える様 に大きな声で叫んでくれ、よいか!」 もしも居らないその時は 小さな声で儂(わし)にだけ 知らせてくれよ頼んだぞ。 祈る心で待つ裡(うち)に転がる様に 戻り来て、 市助「ヤァー、源蔵さまが居りましたワイ―っ!」 嬉し泪の塩山は雪を蹴立てて真っしぐら、 仙台侯の御門前。群がる人をかき分け かき分け前に進めば源蔵も兄は来ぬかと 背伸びして探し求めている様子。 塩山「源蔵!」 源蔵「兄上かぁ―!」 ひしと見交わす顔と顔、 固く握った手の中に通う 血汐の温かさ 同じ血じゃもの肉じゃもの。 夢を果した男の顔に 昇る旭が美しや 笑顔交して別れゆく 花の元禄兄弟(あにおとうと) 今朝のお江戸は日本晴れ |
長編歌謡浪曲 元禄名槍譜 俵星玄蕃三山ひろし | 三山ひろし | 北村桃児 | 長津義司 | 伊戸のりお | 槍は錆びても 此の名は錆びぬ 男玄蕃の 心意気 赤穂浪士の かげとなり 尽す誠は 槍一筋に 香る誉れの 元禄桜 姿そばやに やつしてまでも 忍ぶ杉野よ せつなかろ 今宵名残りに 見ておけよ 俵くずしの 極意の一手 これが餞(はなむ)け 男の心 涙をためて振返る そば屋の姿を呼びとめて せめて名前を聞かせろよと 口まで出たがそうじゃない 云わぬが花よ人生は 逢うて別れる運命とか 思い直して俵星 独りしみじみ呑みながら 時を過した真夜中に 心隅田の川風を 流れて響く勇ましさ 一打ち二打ち三流れ あれは確かに確かにあれは、 山鹿流儀の陣太鼓 「時に元禄十五年十二月十四日、江戸の夜風をふるわせて、 響くは山鹿流儀の陣太鼓、しかも一打ち二打ち三流れ。 思わずハッと立上り、耳を澄ませて太鼓を数え、 おう、正しく赤穂浪士の討ち入りじゃ、助太刀するは此の時ぞ、 もしやその中に昼間別れたあのそば屋が居りはせぬか、 名前はなんと今一度。 逢うて別れが告げたいものと、けいこ襦袢(じゅばん)に身を固めて、 段小倉の袴、股立ち高く取り上げ、白綾たたんで後ろ鉢巻眼のつる如く、 なげしにかかるは先祖伝来、俵弾正鍛えたる九尺の手槍を右の手に、 切戸を開けて一足表に踏み出せば、 天は幽暗地は凱々たる白雪を蹴立てて、行手は松坂町…」 吉良の屋敷に来て見れば 今討ち入りは真最中 総大将の内蔵之助 見つけて駆け寄る俵星が 天下無双のこの槍で お助太刀をば致そうぞ 云われた時に大石は深き御恩はこの通り 厚く御礼を申します されども此処は此のままに 槍を納めて御引上げ下さるならば有難し かかる折しも一人の浪士が雪をけたてて サク、サク、サクサクサクサクサクサク、 「先生!!」 「おゝ、そば屋か!!」 いや、いや、いや、いや 襟に書かれた名前こそ まことは杉野の十兵次殿 わしが教えたあの極意 命惜しむな名をこそ惜しめ 立派な働き祈りますぞよ さらばさらばと右左 赤穂浪士に邪魔する奴は 何人たりとも通さんぞ 橋のたもとで石突き突いて 槍の玄蕃は仁王立ち 打てや響けや 山鹿の太鼓 月も夜空に 冴え渡る 夢と聞きつつ 両国の 橋のたもとで 雪ふみしめた 槍に玄蕃の 涙が光る |
長篇歌謡浪曲 恋の松井須磨子天津羽衣 | 天津羽衣 | 門井八郎 | 久慈ひろし | 女盛りの 柔肌に たぎり血汐を 何としょう 義理も人情も 恋には勝てぬ それが誠の 恋の道 「妾は舞台に生きる女優です。妾は見せてやりたい。 妾と先生の恋愛が、どんなに素晴らしいものか、 世間の人たちの目に見せてやりたい。いいえ。 先生の奥さんに見せつけてやりたいんです」 「ああ、君という人は困った人だ。だがこれだけの情熱を 舞台ばかりでなく、現実でも人目を怖れず、偽わらず に演じることの出来る君は、矢っ張り、わが芸術座を 背負って立つ大女優だ。私は君に負けた。性格の弱い、 実行力のにぶい私が、はげしい君の灼熱の情火に 負けてしまったのだ」 戸山ヶ原の 中空に 仰げば哀し 十日月 ああこの恋に あれくるう ああこの恋に ほとばしる 渕に瀬もあれ 抱月は 須磨子をぐっと 抱き寄せる 燃える情火は 草を焼き しばし声なし 天も地も あるは悲しい 虫の声 回り舞台の 雪に泣く あわれ須磨子よ カチューシャよ 人のさだめは 恋ゆえ変わる 浮世ドラマの 恋無情 「先生死なないで、死なないでー。 わたし一人をおいて、なぜ死んでしまったのです」 舞台の台詞そのままの、身も世もあらぬ絶叫慟哭は、 月にこだまし、月もまた泣いた。 「先生、妾も参ります。若しもあの世に三途の川が あるならば、待ってて下さい渡らずに。 せめてやさしい先生の、背に負われて渡りたい」 生きて骸(むくろ)に なるよりは 死んで咲かそう 恋の花 蓮のうてなの あの世とやらで 共に行きましょ いつまでも | |
長編歌謡浪曲 神戸を拓く清盛三波春夫 | 三波春夫 | 三波春夫 | 三波春夫 | 沼井雅之・橘左門 | 海は女子じゃ荒れると怖い 男は舟よ 清盛公の高笑い 六甲山を背中にして 大海原を眺めつつ 此処に港を築きあげ 人の幸福招こうぞ 「人々よ。港を築く為、諸国から集まり流してくれるその汗を、 清盛はありがたくお礼を申しまするぞ。」 沖の黒汐波乗り越えて 宝を運ぶ 男の船の晴れ姿 見守る神は厳島 大海原を眺めつつ かざす扇に陽の光り 神戸港の朝ぼらけ 国の未来を想いつつ 私財を投げ打ち壮大な 港造りに着手をなさる 山を崩して石切り出して 埋め立ててはみたものの 荒波寄せる岸なれば 思いの外の難工事 長男重盛心を痛め 行者を招き祈らせば 海神さまの魂鎮め 若い命の人柱 捧げなければ港は出来ぬ むごいお告げに重盛は 家来の松王呼び寄せて 父に密かに伝えよと 言われた時に松王は お情け深い 大殿さまのこの難儀 せめてお助け申すには 吾身が立とう人柱 覚悟を決めた健気さよ やがて定めの白装束 行者があげる経の中 ざんぶと海へ身を投げた 知らせを受けて清盛は 駒をとばして駆けつけて 波がうず巻く海面を 見つめて涙はらはらと 松王そなたは何故死んだ その真心は嬉しいが 人の命と引き換えに 港を造って何んになる せめて松王今一度 海の底から生き返り わしのこの手に掴まれと 泣いて叫んだ清盛公 「人柱を立てねばならぬとは何んたる迷信ぞ。 障りがあると申すなら、行者たちが、 神に祈りその障りを除くべきではなかったか。 これよりは石に南無阿弥陀仏の名号を書き記し、 それを提防の石とせよ。 更に一切経を石に刻み、港の礎石としようぞ。人々よ。 若き松王が神戸港の為、万人の為、人柱となった健気さを、 永く忘れずに居て下されや」 永久に栄えよ神戸の港 人々此処に大きく夢を懸けようぞ 松王愛しや波しぶき 大海原は語らねど 誰か伝えよこの志 拓く港の物語 |
長編歌謡浪曲 豪商一代 紀伊国屋文左衛門三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 長津義司 | 長津義司 | 惚れた仕事に 命をかけて 散るも華だよ 男なら 怒濤逆巻く 嵐の中を 目指すは遙か 江戸の空 花の文左の みかん船 肝の太さと 度胸の良さに 勇み集まる 十二人 力合せて 乗り出す船は これも故郷の 人の為 征くぞ夜明けの 和歌の浦 浜辺に送る妻や子が、別れを惜しんで呼ぶ声も風に悲しく千切れ飛ぶ、 まして文左の新妻は、今年十九のいじらしさ、 せめても一度もう一度、背伸びしながら手を振れど、 雨と嵐にさえぎられ、かすむ良人の後ろ影、 これが別れになりゃせぬか、女心の切なさよ。 「白装束に身を固めて、梵天丸に乗り移った文左衛門。 時に承応元年十月二十六日の朝まだき。 此の時、遥か街道に駒のいななき、蹄の音は、連銭芦毛に鞭打って、 パッ、パッ、パッパッパッパー。 馬上の人は誰あろう、歌に名高き玉津島明神の神官、高松河内。 可愛い娘の婿どのが、今朝の船出の餞けと、 二日二夜は寝もやらず、神に祈願をこめました。 海上安全守りの御幣背中にしっかりとくくりつけ、 嵐の中を歯を喰いしばり親の心の有り難さ。 婿どのイヤ待ったと駆けつけた。」 涙で受取る文左衛門。未練心を断つように、 波切丸を抜き放ち、切ったとも綱、大碇は、 しぶきを上げて海中へ、ザ、ザ、ザ、さぶん――。 眺めて驚く船頭に、せくな騒ぐな此の船は、神の守りの宝船じゃ。 張れよ白帆を巻き上げよ、船は忽ち海原へ、疾風の如く乗り出す。 寄せくる波は山の様、嵐はさながら息の根を、止めんばかりの凄まじさ。 舳に立った文左衛門は、両の眼をらんらんと、 刀を頭上に振りかざし、無事に江戸まで、 八大竜王守らせ給えと念じつつ、 熊野の沖や志摩の海、遠州相模の荒灘も、 男一代名をかけて、乗り切る文左のみかん船。 沖の暗いのに白帆がサー見ゆる あれは紀の国ヤレコノコレワイノサ みかん船じゃエー 八重の汐路に 広がる歌が 海の男の 夢を呼ぶ 花のお江戸は もうすぐ近い 豪商一代 紀伊国屋 百万両の 船が行く |
長編歌謡浪曲「坂本龍馬」辰巳ゆうと | 辰巳ゆうと | 三波美夕紀 | 三波美夕紀 | 隼トシヒデ | 自分が選ぶ道を行く 坂本龍馬が歩み出す 時代の声を聞いたなら 成すべき事が見えて来る 大きな夢を描こうぞ 「乙女姉やん、わしは人間には上も下も無いと思うちゅう。 あるがは、人間が大きいか、小さいかじゃ。 わしはきっと、でかい男になるぜよ」 月の名所は桂浜 土佐から出でて 江戸の桶町千葉道場 剣を鍛える日々なれど 嵐の前の世の動き 黒船来たるをきっかけに 時代は進む幕末へ おのれはいかに進もうか 折しも出会った人物こそ 幕府の軍艦奉行並 海舟 勝麟太郎 龍馬よ 広く世界を見ろよ 国を開いて貿易を 今動かねば この国 日本がだめになる 熱い教えに若き龍馬の眼が開く 「そうじゃ そうじゃ やっぱりそうじゃ。 攘夷じゃ佐幕じゃ、自分の藩がどうしたと、みんなぁ狭い了見で騒ぎゆうが、 そりゃ違うぜよ。時代を知るがじゃ。 日本まるごとを考えにゃいかん。わしらは、日本人ぜよ」 たしかに悟った龍馬の目の前に 拡がる夢は果てしない 海舟仕込みで 海と軍艦しっかりと 知ってようそろ 歴史の大海原に漕ぎ出す 人並み外れた度胸の男 龍馬はゆくぞ西東 人を説くには理屈では足りぬ そこには利益という 花を咲かせて 共に喜び 栄える道を作るのだ どんな身分であろうとも 会う人皆が 皆が龍馬に惹かれゆく 龍馬は、「神戸海軍操練所」、及び、 海舟の「海軍塾」設立のために大いに働き、塾頭に任命され、 海舟の使者として各地を奔走。人に会い、人を動かした。 薩摩の大南洲西郷隆盛にも初めて会った。 やがて操練所と塾が廃止となったのちの慶応元年、 龍馬は長崎に「亀山社中」を作った。これは、 日本初の“株式会社”ともいえる。 そこに働くのは主に操練所出身の若者たち。この社中は、 薩摩藩などからの援助による資金によって商いをし、人を育てた。 そしてまた、この社中を作った龍馬の目的のひとつは、 薩摩藩と長州藩に同盟を結ばせ、幕府を倒し、朝廷の権威を回復させ、 新しい日本を作ることであった。 のちに「亀山社中」は土佐藩の援助となり、「海援隊」と名を変える。 この間(かん)、国の歴史は動いていた。政変、禁門の変、 幕府による長州征伐によって、長州はあわれ窮地にあり。 時は熟しぬいていた。薩長の同盟は急がれた。 慶応元年五月になって、龍馬は西郷、小松帯刀と会い、更に、 桂小五郎とも会って、薩長和解について話し合う。 そして龍馬は、長州が幕府の命で武器を調達できないことから、 亀山社中を仲買役とし、 長崎グラバー商会から薩摩藩名義で武器と軍艦買い入れて、 それを長州に転売す。 長州から薩摩へは、兵糧米を送るように提案し、長州が快諾す。 さてもさても龍馬の働きにより、薩長の同盟への道は確かに整ったり。 慶応二年一月、西郷隆盛と桂小五郎はいよいよ会った。 しかし、薩長同盟締結にたどり着けない。 その原因は、西郷と桂の両人が抱えて悩む、藩と藩との哀しい過去と憤り。 いざや、それを断ち切って、この同盟の申し入れ、どちらが先に動くのか。 だが、時は経てどもお互いに、心を解かず、言い出さず、 さてこそこの大切な同盟話、崩れ去るかと見えた時、 龍馬はそれぞれの元へ走った。 「小五郎!いつまで自分の藩の事ばっかりに縛られゆうがじゃ。 わかっちゅうろう。大事なのは、この先の日本ぜよ」 「西郷君、桂も、この国の行く先を思うちゅう心は同(おんな)じじゃ。 さ、決断しとうせ。時こそ、時こそ今ぜよ!」 桂に迫り 大南洲に迫る龍馬の勢いは 天から使命を授かって 地上に降りた龍のよう 火を吐く言葉が胸をうつ 熱い思いで両雄の心を変えて 薩長同盟とうとう成して 坂本龍馬が鮮やかに 国の夜明けを呼ぶ姿 すぐに起こった寺田屋事件を潜(くぐ)り抜けて、 そして、のちに、船中八策を立てて 大政奉還を説いて その後の新政府の 綱領八策表して あとは皆に任せたぞ わしは世界の海援隊をやるのだと 言った笑顔の爽やかさ 妻のおりょうの惚れた男ぶり 夢の途中でこの世を去るが 続きはきっと誰かがやるさ わしは天翔(あまか)け波頭に立って 日本の国を見守ろう 龍馬の心は生きている |
長篇歌謡浪曲 十三夜天津羽衣 | 天津羽衣 | 石松秋二 | 長津義司 | 河岸の柳の ゆきずりに ふと見合せる 顔と顔 立ち止まり なつかしいやら 嬉しやら 青い月夜の 十三夜 「下らない事を云って何時までめそめそ泣いているんだいね、 お雪、幾ら気の長い私だって終いにゃ腹を立てるよ」 「お母さん それだけは それだけは堪忍して その代り、他の事ならなんでも聞きます」 「判らない子だねえ本当に、私しゃね お前の為を思って 云ってるんだよ、何時まで半玉(おしゃく)でいられるもんじゃア なしそれにゃ良い機会じゃないか。鶴田の旦那に 可愛がって貰ったら、襟(えり)変(か)へどころか一生お小遣いにも 困らないし、 お前の親達だってそれこそ大扇(うちわ)で暮らせるんだよ」 「お内儀さん、それじゃ家の親達もそれを 承知だと云ったんでしょう?」 「―そりゃアま、未だ聞いちゃいないけどさ、お父つあんは あの通りの永患(わずら)いでおッ母さん独りの手内職じゃ どうにも成りゃしないだろう、考えても御覧親孝行を されて怒る親ァ有りゃしない、ほんの僅かの辛抱だし、 女はみんな黙って通る道なんだよ」 お白粉つけて紅差して、 銀のかんざしゆらゆら 笑えば弾(はず)むぽっくりに 何の苦労も無い様な、 花の半玉の愛らしさ、 けれども裏を覗(のぞ)いたら こんなみにくいからくりが 有って泣かせる夜の街 「―可哀想に、お雪ちゃん」 「あ、染香姐さん」 「…又あの欲張りお内儀が、阿漕(あこぎ)な金儲けを 仕様と云うんだろ、今まで幾人の女達が同じ手で 泣かされて来たか…あ、そうそう、ほら、 何時だったかの、東京の学生さんがお雪ちゃんに、 会い度いって云ってるよ」 「でも、姐さん―」 「構うもんか、お内儀は私が誤魔化しとくから、 さ、直ぐにお行き、柳の河岸の船着場だよ―」 桜の花には来だ早い 風が冷たい春の夜 そっと抜け出て裏街を 行けば柳の河岸通り、 土堤を背にした船着場、 薄い灯りにたたずんで 待っているのかあの人は、 会えば別れが悲しかろ、 啜り泣くよな川の音 「…あら、こんな所へしゃがみ込んで、 どうしたのお雪ちゃん、可哀想にねえ」 初恋は破れ易いと誰が云う 一年前にお座敷でたった一回会ったきり 二本貰った絵葉書に 抱いて温(ぬく)めた想い出も 消してゆきましょ今日限り 「お雪ちゃんそれじゃアせめてさよならを」 「いいえお姐さん、もう何も云わないで」 空を千鳥が飛んでいる 今更泣いて 何としょう さようならと こよない言葉 かけました 青い月夜の 十三夜 | |
長編歌謡浪曲 戦国塩物語三波春夫 | 三波春夫 | 三波春夫 | 三波春夫 | 佐藤川太 | ぶどう畠の葉も枯れて 秋風そゞろ身に沁みる 甲府盆地の昏れに たなびく霧は戦国の 夢を包んで四百年 都は遠く海も無い この山国のくにたみを 愛しつゞけた信玄は 山の姿に何想う 類な稀なき英雄が その横顔にふと見せた 悲しき影を誰が知ろ 「何んと越後の謙信が塩を送ってくれたと申すのか!! うむうむ勇将鬼小島弥太郎を使いとして 上杉殿があの塩を………。 駿河の今川 相模の北條に 塩を断たれ甲斐と 信濃の領民の苦しみ難儀を見るにつけても予は断腸の想いであった」 思わずホロリひとしずく 閉じた瞼に浮かぶのは 永禄四年秋九月 川中島の戦場で 朝霧突いて現われた 馬上の武者は矢の如く 我をめがけて真っしぐら 「信玄覚悟」と斬りつけた 軍配持って受け止めて はじき返した太刀先に 眼光燃ゆる凄じさ これが越後の謙信かと 身の毛がよだつ想いした あの謙信が戦さを越えて 塩を送ってくれたとは 如何なる心の大きさか 武士の情けが 人の情けが身に沁みる 「勝頼よ、儂に若しもの時あらば、謙信殿に相談せい。これは遺言だぞ。 だが家老共、越後の塩商人から一両でも高く買え、 上杉の情に報いる武田の真心だ、それは又、甲斐源氏の力を示す。 ハハハハ、戦さじゃわい。」 勝頼聞けよ 者共よいか 年が明けたら 出陣ぞ 風林火山の 旗なびかせて 汐の花咲く 海を見ながら 東海道を 京の都へ 上るのだ 京の都へ 上るのだ |
長編歌謡浪曲 戦国塩物語三山ひろし | 三山ひろし | 三波春夫 | 三波春夫 | 伊戸のりお | ぶどう畑の 葉も枯れて 秋風そぞろ 身に沁みる 甲府盆地の 昏れに たなびく霧は 戦国の 夢を包んで 四百年 都は遠く 海も無い この山国の くにたみを 愛しつづけた 信玄は 山の姿に 何想う 類稀なき 英雄が その横顔に ふと見せた 悲しき影を 誰が知ろ 「何んと、越後の謙信が塩を送ってくれたと申すのか! うむうむ 勇将・鬼小島弥太郎を使いとして上杉殿があの塩を…。 駿河の今川、相模の北条に塩を絶たれ 甲斐と信濃の領民の苦しみ難儀を 見るにつけても予は、断腸の思いであった」 思わずほろり ひとしずく 閉じた瞼に 浮かぶのは 永禄四年 秋九月 川中島の戦場で 朝霧ついて現れた 馬上の武者は矢の如く 我をめがけて 真っしぐら 「信玄覚悟」と斬りつけた 軍配持って受け止めて はじき返した太刀先に 眼光燃ゆる 凄まじさ あれが越後の謙信かと 身の毛がよだつ想いした あの謙信が戦さを越えて 塩を送ってくれたとは 如何なる心の大きさか 武士の情けが 人の情けが 身に沁みる 「勝頼よ、儂に若しもの時あらば謙信殿に相談せい。これは遺言だぞ。 だが家老共、越後の塩商人から一両でも高く買え、上杉の情けに報ゆる 武田の真心だ。それは又、甲斐源氏の力を示す。ハハハハ、戦じゃわい」 勝頼聞けよ 者共よいか 年が明けたら 出陣ぞ 風林火山の 旗なびかせて 汐の花咲く 海を見ながら 東海道を 京の都へ 上るのだ 京の都へ 上るのだ |
長編歌謡浪曲 その夜の上杉綱憲三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 山倉たかし | 山倉たかし | この討ち入りの夜 父 上野介襲撃さるるの報に接し 直ちに軍勢を率いて出馬しようとした人がいた、 その身は従四位下、上杉弾正大弼綱憲。 出羽米沢十五万石の名家の為に泣いて止めた千坂兵部、断ち難き親子の絆。 彼も亦運命の糸が操る人間相克の劇(ドラマ)の中の人であった。 赤穂浪士の討入りは 敵も味方も雪の中 此処が命の 捨てどころ 月が照らした 人間模様 十と四日の 夜が更ける 弾正大弼綱憲は 父を案じて床の中 何故か今宵は 胸騒ぎ 閉(と)じる瞼が 眠りに落ちぬ 十と四日の 夜が更ける 「夜中恐れ乍ら御大守様に申し上げまする。 只今御尊父上野介様お屋敷へ浅野の浪人が斬り込みましてござりまする。 人数の程は、しかと分かりませぬが百人以上との注進にござりまする!」 「何!真か うむ己れ!すぐさま 家来共に戦じゃと申せ! ええ!直ちに本所へ繰り出し 浅野のやせ浪人ひとり残らず討ち取るのだ!!」 吉良家の嫡男と生れたが わずか二才で養子となって 名将上杉謙信の 家名を継いだ綱憲が 怒り狂うも無理じゃない 父の命の瀬戸際を何んでこの侭見逃そう 鎖かたびら身にまとい黒の小袖に錦の袴たすき十字に綾なして 槍を小脇にツーツーツーツ 走り出でゆく玄関先早くも雪の庭前に 居並ぶ勇士の面々は家老色部の又四郎 深沢重政森監物(もりけんもつ)更に柿崎弥三郎 その数実に三百人 「おう!馬を引け」 我につづけとまたがれば 大門開く八文字 駒はいななき白雪を けたててパッパッパッ…… 日比谷の屋形正に出でんとした時に 「殿!しばらくしばらく!!」 馬のくつわをしっかりと 押えた人は誰あろう 上杉随一、智恵の袋とうたわれた 家老上席千坂兵部その人なり。 「兵部何故止めるのだ、現在(いま)父と吾子の義周(よしちか)が浅野の 家来に襲われているのだぞ!そこを退け!兵部ええ!! 退かねば突殺すぞ!!」 槍をかざして馬上に立てば ぐっと見上げた千坂兵部 此処が我慢の仕どころじゃ 貴方は貴方の務めがござる 若しも広島浅野の御宗家 四十万石力にかけても仇討たせると 軍勢まとめて繰り出したなら 最早やひくにもひけませぬ 正に天下の一大事 後の咎は何んとする 歴史に残る上杉の 家名を潰す綱憲様は 愚か者よと笑われましょう 儂の言葉が無理ならば 斬って出陣遊ばせと 血を吐く想いで諫める千坂 その一言が 磐石の 重みとなって胸を打つ。 「兵部解った。皆の者それぞれ持場に帰り指示を待て。 千坂よ仏間に御法燈(みあかし)を灯せ天下に恥をさらしたとて父は父。 余は独り静かにあの世へ旅立ちなさる父上の御冥福(めいふく)を祈ろう。 千坂のじいよ。大名の子は辛いのう……。」 槍を大地に突き立てて 泣いて堪えた綱憲の 顔を照らして 陽が昇る 仇も恨みも 降り積む雪も 解けて流れる 朝が来る |
長編歌謡浪曲 その夜の上杉綱憲三山ひろし | 三山ひろし | 北村桃児 | 山倉たかし | 伊戸のりお | この討ち入りの夜 父 上野介襲撃さるるの報に接し 直ちに軍勢を率いて出馬しようとした人がいた、 その身は従四位下、上杉弾正大弼綱憲。 出羽米沢十五万石の名家の為に泣いて止めた千坂兵部、断ち難き親子の絆。 彼も亦運命の糸が操る人間相克の劇(ドラマ)の中の人であった。 一、赤穂浪士の討入りは 敵も味方も雪の中 此処が命の 捨てどころ 月が照らした 人間模様 十と四日の 夜が更ける 二、弾正大弼綱憲は 父を案じて床の中 何故か今宵は 胸騒ぎ 閉(と)じる瞼が 眠りに落ちぬ 十と四日の 夜が更ける 「夜中恐れ乍ら御大守様に申し上げまする。 只今御尊父上野介様お屋敷へ浅野の浪人が斬り込みましてござりまする。 人数の程は、しかと分かりませぬが百人以上との注進にござりまする!」 「何!真か!!うむ己れ!すぐさま 家来共に戦じゃと申せ! ええ!直ちに本所へ繰り出し 浅野のやせ浪人ひとり残らず討ち取るのだ!!」 吉良家の嫡男と生れたが わずか二才で養子となって 名将上杉謙信の 家名を継いだ綱憲が 怒り狂うも無理じゃない 父の命の瀬戸際を 何んでこの侭見逃そう 鎖かたびら身にまとい 黒の小袖に錦の袴 たすき十字に綾なして 槍を小脇にツッ、ツッ、ツツ…… 走り出でゆく玄関先 早くも雪の庭前に 居並ぶ勇士の面々は 家老色部の又四郎 深沢重政 森監物(もりけんもつ) 更に柿崎弥三郎 その数実に三百人 「おう!馬を引け」 我につづけとまたがれば 大門開く八文字 駒はいななき白雪を けたててパッパッパパ…… 日比谷の屋形正に出でんとした時に 「殿!しばらくしばらく!!」 馬のくつわをしっかりと 押えた人は誰あろう 上杉随一、智恵の袋とうたわれた 家老上席千坂兵部その人なり 「兵部何故止めるのだ、現在(いま)父と吾子の義周(よしちか)が浅野の 家来に襲われているのだぞ!そこを退け!兵部ええ!! 退かねば突殺すぞ!!」 槍をかざして馬上に立てば ぐっと見上げた千坂兵部 此処が我慢の仕どころじゃ 貴方は貴方の務めがござる 若しも広島浅野の御宗家 四十万石力にかけても仇討たせると 軍勢まとめて繰り出したなら 最早やひくにもひけませぬ 正に天下の一大事 後の咎は何んとする 歴史に残る上杉の 家名を潰す綱憲様は 愚か者よと笑われましょう 儂の言葉が無理ならば 斬って出陣遊ばせと 血を吐く想いで諫める千坂 その一言が 磐石の 重みとなって胸を打つ 「兵部解った。皆の者それぞれ持場に帰り指示を待て。 千坂よ、仏間に御法燈(みあかし)を灯せ。天下に恥をさらしたとて 父は父。余は独り静かに、あの世へ旅立ちなさる父上の 御冥福(めいふく)を祈ろう。千坂のじいよ。大名の子は辛いのう」 三、槍を大地に突き立てて 泣いて堪えた綱憲の 顔を照らして 陽が昇る 仇も恨みも 降り積む雪も 解けて流れる 朝が来る |
長編歌謡浪曲 天竜二俣城三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 春川一夫 | 池田孝 | 文亀三年即ち西暦一五〇三年の事、 二俣昌長が築城したこの城はところどころ崩れ落ちているとはいえ、 その石の色、城の型、さすが奥州二本松城につぐ 日本最古の城であると云うにふさわしく、 歴史の息吹きはそくそくとして訪れる人に何かを語りかけている。 天主閣のあった場所に立ち、西北を望めば天竜川は眼下に広々と豊かに流れ、 長がとそびえる鳥羽山、赤石山系を南北に見る。 南の山裾は浜松へ通ずる街道か。紺碧の空、白雲東方へ静かになびく風情。 時に天正七年九月一五日、徳川家康の長男岡崎三郎信康は、 父が向けた討手の使者天方山城守服部半蔵を此の池に迎えて、 自害して果てた。 天下統一の大望を持つ織田信長は、 娘の徳姫の良人である信康を殺せと家康に命じた。 時に信康年二十一歳であった。 秋の夕陽に 散る山紅葉 色もひとしお 鮮やかに 信康哀れ 流れも清き 天竜の 水の鏡に 映し出す 二俣城の影悲し 冬の夜空を 啼きながら 親を尋ねて 鳥が飛ぶ 信康哀れ 涙を抱いた 天竜の 瀬音悲しや さらさらと 二俣城を 照らす月 「その方達、おくれを取るなよ。 この信康覚悟を決めて待っていたぞ。 だが之だけは舅信長に!…… いや、お父上に伝えてくりゃれ。 三郎信康は天地の神に誓って、身にやましい事はなかったと、 最後まで真の武士であったと。……忘れるな!!」 脇差し抜いて 逆手に持って 座り直した 信康の 白装束が 痛ましや ああ 戦国の 恐ろしさ 力と智惠に 恵まれすぎた 人間ならば 吾子でも 婿であっても憎いのか 逃げて下されお願いじゃ 必死にすがる小姓の忠鄰 かぶりを振って信康は そなたの心は嬉しいが 逃げて何処に道がある その道こそは死ぬ事よ 吾子を斬れと言う親が 三千世界のどこに居る 今こそは儂は父上の 深い心が読めたのだ 乱れ乱れた日の本に 永く平和を築く為 鳴かぬなら 鳴くまで待とう ほととぎす 父の辛さがしみじみと 切ない程に胸にくる ああ 反逆児と人が言う 岡崎三朗信康の 悟る笑顔に 散る涙 三つの葉葵の 葉が香る 花の名残りの 井戸やぐら 信康哀れ 桜を浮かべ 天竜は 今日も流れる 悠々と 二俣城の 夢の跡 |
長編歌謡浪曲 嫁ぐ日菊地まどか | 菊地まどか | 宮本麗子 | 岡千秋 | 池多孝春 | 明日は嫁ぐ日 父さんと 暮らした家とも 今日限り あんなに反対 するなんて 一人泣いた日 あったけど あったけど 今ならわかるわ 親ごころ まじめで頑固で お人よし いつでも私を 暖かく 守ってくれてた あの日々も いつか遠くに なりました なりました 父さん許して わがままを 「お前はわしのかわいい一人娘や。その相手が髪は茶色でぼさぼさ頭。 破れたジーパンはいて、ろくに挨拶も出来んようなやつが、 うちの娘とつきあいたいやとお!何寝ぼけたことをゆうてんねん! つきあうどころか二度と会うことも許さんゆうたやろ!」 「何べんゆうたらわかるのん。 あの日はコンサートに行く予定で、あんな格好やったんよ。」 「結婚したい相手の家にあんな格好で来るような非常識や、 声も小そうて頼りない。誰があんなもんにお前やれるかい。 そもそも親がどんだけ心配してんのんか、親の気持ちがわからんのんか。」 前まで仲良し 父娘 今ではいつも けんか腰 近頃、娘は 返事もしない 親の心は 晴れずとも 若い二人の 心は急ぐ 早く一緒に なりたいと いくら親父が 気に入らんと 言ったところで かいもなく 娘の決心 ゆるぎなく 親に勝手に 式の日決めて その日も追った 夕まぐれ いかに反対 口では言えど やはり人の子 人の親 かわいい娘の 行く末を 気にせぬ親など いないもの 「しょうがない。 いっぺんあの男がどんな店で働いてんのんか見にいったろう。 あっあれやな、よしわしもいっぺん一緒に行ってならんでみよか。」 嬉しい時や 楽しいとき 元気がない日や 風邪引いた日は 外はかりっと 中ふんわりと 食べたら蛸が ええだし出して たこ焼きみたいな 顔した男が 鉄板前で 大汗かいて ちっちゃなたこ焼き くるくる焼いて 待ってるお客と 漫才をしながら 働く 楽しげに。 「すんません、たこ焼きおくんなはるか。」 「ああ、おばあちゃん、ちょっと待ってな。 お年寄りに長いこと待ってもらうんは気の毒なんで、 先にこのおばあちゃんに、たこ焼きあげてもよろしいですか?すんません。 はい!おばあちゃん、まいどおおきに。」 「あら、お母さん。またたこ焼きもろてはる。」 「美智子さん、わたしはちゃんと買うてますよ。ほれこれで…。」 「ええ!お母さん、これは市バスの老人優待券やないの。 バスはただで乗れてもそんなんでものが買えるわけないでしょ。」 「これ見せたらな…ここのたこ焼きは売ってくれるんやで、 なぁ、たこ焼き屋さん。」 「うちのたこ焼きがおいしいゆうてくれはるので、 時々ちょっとだけ包ませてもろうてますねん。おばあちゃん、 これからも元気でたこ焼き買いに来てな。その優待券持って。」 「ただいま。」 「お父さん、お帰り。」 「これ土産や。」 「えっえらい又、仰山のたこ焼き。」 「あいつあいつ頭は茶色やけど、 なかなかの心優しいええ~男やないか。」 「えーっほんならお父さん、これあの人が焼いた…たこ焼き。」 「あいつやったら、お前の事幸せにしてくれるやろうなぁ。」 「お父さん、ありがとう。ほんまにありがとうお父さん。 そやけど、そやけどえらい仰山買うてきたんやね。」 「ええがな~近所へもお前の幸せおすそわけや。」 一人娘の 嫁ぐ日が いつかこの日が 来ることは かねて覚悟は していたが 花嫁姿の 娘から 大きな瞳に 涙をためて 面と向かって あいさつされて 嬉しいような 寂しいような 親の心は あるけれど 花嫁になる 嬉しさで 前にも増して 輝く娘 こんがり焼けた まん丸顔の ええ味出ている たこ焼き男 身内だけでの 結婚式 豪華な衣裳も 料理もないが これが二人の 大事な門出 高砂やこの浦舟に帆をあげて 父さんお世話に なりました 心配させたが あの人と 必ず幸せ 見つけます 嫁に行っても はなれても はなれても 私はあなたの 娘です |
長編歌謡浪曲 信長三波春夫 | 三波春夫 | 三波春夫 | 三波春夫 | 桜庭伸幸 | 尾張のお国はわが日乃本の 要なりゃこそよく解る 乱れ乱れた世の相(すがた) 正して呉れよう信長は 時期(とき)こそ今かいざや 征くぞ嵐の桶狭間 「者共、陣触れじゃ、 藤吉郎、猿よ、馬を引け!」 永禄三年六月の 朝霧ようやく晴れる頃 熱田の宮に祈りを籠めて 乾坤一擲(けんこんいってき)信長は 鳴海街道ひた走る 敵将今川義元は 率いる軍勢四万余騎 京の都を目指しつつ 駒を進めた勝ち戦さ 折しも丁度お昼どき 酒や肴でもてなされ 悠々くつろぐ田楽狭間 この時突如轟然と 天の味方か嵐が起こる その只中を信長軍は 怒濤の如く斬り込んで 遂にあげたる勝名乗り 織田の勝鬨天下に響く。 楽市楽座の賑わいぶりよ 夢を興(おこ)した岐阜の街 広い世界を目に入れて 日本を動かす信長も 今宵は少時それよ 鵜飼楽しむ長良川 関所は要らぬぞ誰でも通れ 旧い暦は捨てるのだ 戦さするのも新しい 時代を創る信長ぞ 天下の民がそれよ 活きる姿を観る為よ 「蘭丸、光秀が謀反(むほん)とな。彼の兵力は確か一万参千、 この寺を囲んだか。先の見えぬ大白痴(たわけ)。 己が此の御国の舵取りをどの様に進めていけるのだ。 蘭丸、余はそれが無念ぞ。うふふふ、うははは、人間とは愚かな者よ」 下天(けてん)は夢かや幻なるか 所詮人間五十年 燃えて崩れる本能寺 炎の中に信長は 男の最后それよ 何んの言葉も要るものか 噫(あ)々嵐呼ぶよな朝が来る |
長編歌謡浪曲 長谷川伸原作「瞼の母」より 瞼の母三波春夫 | 三波春夫 | 北村桃児 | 北村桃児 | 斉藤恒夫 | 母の面影 瞼の裏に 描きつゞけて 旅から旅へ 昨日は東と 訊いたけど 今日は西だと 風便り 縞の合羽が 泪に濡れて 母恋い番場の 忠太郎 母は俺らを どうして捨てた 恨む心と 恋しい想い 宿無し鴉の 見る夢は 覚めて悲しい 幕切れさ 生れ在所(こきょう)も 遥かに遠い 母恋い番場の 忠太郎 「おかみさん、当って砕けろの心持で 失礼な事をお尋ね申しますでござんすが おかみさん、若しやあっしぐらいの男の子を持った憶えはござんせんか あっ!憶えがあるんだ 顔に出たその愕きが、 ところは江州坂田の郡醒ヶ井村から南へ一里、 磨針峠の山の宿場で番場という処がござんす、 おきなか屋忠兵ヱという、六代続いた旅館へ嫁に行き 男の子をひとり生みなすった。 そしてその子が五つの時に家を出た。 罪は父親にあったと訊きました。 おっ母さん、あっしが伜の忠太郎でござんす」 春秋数へて 二十年 想い焦がれて 逢いに来た たった一人の 母だもの どんなお方で あろうかと 寝ても覚めても その事ばかり 無事でいたなら よいけれど 暮らしに困って いる時は 助けにゃならぬと 百両を 肌身離さず 抱いていた 若しや若しやと 逢う人毎(ごと)に 尋ね尋ねて 日が昏れりゃ 夕餉(ゆうげ)の煙りが 切なくて 窓に灯りが ともる頃 人の軒場に 佇ずんで 忍び泣きした こともある 此処はお江戸の柳橋 人に知られた 水熊よ 母を尋ねて くるなれば 何故に堅気で 来なかった とがめるお浜の 目に涙 じっと見返す 忠太郎は そいつぁ無理だぜ おかみさん 親に放れた 小僧ッ子が グレて堕ちたは 誰の罪 何んの今更 どうなろう よしや堅気に なったとて 喜ぶ人は ござんせん 侭よ 浮世を三度笠 六十余州の 空の下 股旅草鞋(わらじ)を 穿くだけよ 逢いたくなったら 目をつぶろ 俺が探した おふくろは 夢に出て来た 瞼の母は こんな冷たい 女(ひと)じゃない 逢わぬ昔が 懐しい。 望みも断たれて悄然と 座敷を出る時、 すれ違った妹のお登世これがそうかと肉身の情に魅かれつゝ、 荒川堤をゆく、旅人姿の忠太郎 この時二丁の早籠が母と妹を乗せて馳けてくる。 母は吾子を妹は兄の名を呼び乍。 「誰が、誰が逢ってやるもんか、 それでいい逢いたくなったら、俺ァ瞼をつぶろうよ あゝまだおっ母さん あんなに俺を呼んでいる、 妹もあんなに一生懸命呼んでいる、 おっ母さん!忠太郎は此処だよ、おっ母さん!」 母は子を呼び 子は母を呼ぶ 朝の光りも 東を染める 荒川堤を 駆けてゆく 笠も合羽も 投げ捨てゝ 嬉しかろうぜ 親子じゃないか 泣いて瞼の 母を抱け |
長編歌謡浪曲 平家物語より 壇の浦決戦三波春夫 | 三波春夫 | 三波春夫 | 三波春夫 | 久米大作 | さても平知盛卿は 味方集めて最後の軍議 見せてくれよう平家の意地を われに錦の御旗がござる 汐の流れは見落とすなかれ 時を逃して戦さは勝てぬ 命惜しむな名をこそ惜しめ 壇の浦こそ墓所と決めよ 源氏兵船八百余艘 屋島沖合はるかに進む 片や平家は彦島出でて 次第次第に近づく戦機 時に寿永は四年の弥生 二十四日の汐風強く 赤と白との旗翻える 海の碧さよ波立ち騒ぐ 平家船数六百余り 汐の流れに勢い込んで 源氏攻め立て怒涛の如く あわや本陣危うく崩る 九郎義経眦(まなじり)あげて 恥を知れやれ遅れをとるな 吾に続けと真っ先かけて 太刀を振るって斬り込み給う 語り草なる八艘飛びに 敵も味方も肝打ち震え あれは鞍馬天狗の天狗の化身 鬼もたじろぐ猛虎の如し どこに在わすか時忠卿は 目指す御座船(ござふね)三種の神器 漕げやそれ押せ邪魔立てするな ここが戦さの瀬戸際なるぞ 遂に平家は追いつめられて 哀れ総領宗盛卿は 味方落としてその責め負うて 源氏軍門自ら降る 勝つも負くるもこの世の習い 壇の浦なる謎又深く 波が逆巻く赤間ヶ関に 帝何処へ落ちさせ給う 今は還らぬ勇士の姿 波に漂う赤旗幾つ 十二単の衣がからむ 誰の形見か恨みは深し どっと味方の勝鬨背中(せな)に 馬上静かに義経公は 何を祈るか渚に立ちて 春の夕陽を涙で拝む 春の夕陽を涙で拝む |
長編歌謡浪曲 孫はかすがい菊地まどか | 菊地まどか | 宮本麗子 | 岡千秋 | 池多孝春 | (おばあちゃん おばあちゃん 大好き) 遠く忘れた 幼子の ほのかな匂い 懐かしく 愛しさたまらず 抱き寄せる この日この時 この姿 時の流れよ 止まれと願う 孫の可愛さ わが子に勝る 初めて出会った 子育てに 戸惑い悩む 若い親 忘れていません 私とて 孫の未来の ためならば 無理も聞きます 力にもなる 孫の可愛さ わが身に勝る 「おばあちゃん、こんにちは」 「あら、結衣(ゆい)ちゃん、いらっしゃい」 「見て見て、おばあちゃん。これママに買うてもろてんで」 「まぁ、可愛いお洋服ね」 「あのな、お店でバーゲンしててん。せやからママが買うてくれてん、 な、ママ、これ安かったもんね」 「かなんなぁ…、おばあちゃんにそんなことまで言わんでええの」 「いいからいいから。結衣ちゃん、今度はおばあちゃんが、 もっと上等で綺麗なお洋服をデパートで買ってあげますからね」 「そんな…結構です!」 「あら?私が孫に、何か買ってあげたらダメって言うの?」 「そ、そんな意味やないんですけど…贅沢なもんはちょっと…」 「あぁ、そうですか。でもね智子さん、 結衣ちゃんの大阪弁だけは何とかしてもらわないとね、 私にはもうじれったくって…まるで冗談のように聞こえるの。 こちらに来て一年も経つのに、 結衣ちゃんが幼稚園で笑われたら可哀想でしょ! まず母親の貴女から気をつけなさい!」 「でも、今のところ幼稚園ではいじめられてもいませんし…、 逆に…おもしろいって人気なんですよ」 「違うわよ、バカにされてるのが、分らないの?結衣ちゃんが可哀想!」 「それはお義母さんが私らの大阪弁をバカにしてるんと違いますか?」 「そんなことないわ」 「私はおばあちゃん子やったんで… でもこれでもちょっとずつ直してるんです!」 「そう、それじゃ、せいぜいがんばってちょうだい」 「なあ…、お前…、 俺は前から智子さんや結衣の大阪弁は愛嬌があっていいと思うがなぁ…」 「あなたは孫や嫁に甘いんですよ、 私は二人のために言ってるんですから」 「そのうちこっちの暮らしにも慣れるさ、 あせらずゆっくり待ってやったらどうなんだ」 東京生まれの うちの子と 大阪育ちの この人が 縁あり二人 夫婦になった 別に反対 するのじゃないが 何かにつけて 気に障る 知らない土地で 寂しいだろうに 困った時にも 頼ってこない 大事な息子を 愛してくれて 今じゃ可愛い 孫もいる あなたを決して 嫌いじゃないが なぜか言葉が すれ違う 「俊夫さん、今日もまた、お義母さんに大阪弁注意されてん…」 「おかしいなぁ~そんなことを言うお袋じゃないのになぁ~、 大丈夫だよ、きっとそのうち智子のことをわかってくれるさ」 「そんならえぇねんけど…」 「智子さん!結衣が、結衣ちゃんが車にひかれたんですって?」 「お義母さん!どうしたらえぇんでしょう、 結衣が病院に運ばれたって連絡もろて、私…うちの人出張やし、 とにかくお義母さんに来てもらいとうて電話しましてん… 今レントゲン撮ってるらしいんです…」 「頭でも打ってたら大変、結衣ちゃんに何かあったらと思うと…」 「どないしょう…結衣、結衣…」 「落ち着くのよ、きっと大丈夫。泣いてどうするの」 「そやかて、なんやお義母さんの顔を見てたら、 安心して…涙が出てしもて…」 「そう!私が一緒にいますからね…さぁ、涙を拭いて」 「ありがとうお義母さん。いっつもすいません、可愛げのない嫁で…」 「いいえ、慣れない土地でよくがんばっているじゃないの。 とにかく、あなたは私の大事な家族なのよ。もっと甘えてくれたらいいの」 「お義母さん…おおきに…」 「ママ!おばあちゃん!あれどうしたん、ママ?ママ泣いてたん?」 「ううん、おばあちゃんがな、ママにやさしい言葉を… 結衣ちゃん、大丈夫なん?どこ怪我したん?」 「あのな、お友達と鬼ごっこしててな、自転車にぶつかってん」 「えっ?車やのうて自転車かいな?」 「でも走る自転車も危ないわよ。怖かったでしょ?結衣ちゃん」 「おばあちゃん違うねん。止まってた自転車にな結衣がぶつかってん、 ほんで、お医者さんがな、結衣のデボチンに薬塗ってくれてん」 「デボチンて…おでこと言いなさい。ほかに痛い所はないねんな。 あぁ良かった。うちてっきり自動車にぶつかったと… ほんまえらいすいません、 うちがすかたん聞いてたばっかしにお義母さんにご心配かけてしもて…」 「いいの、無事が何より」 「ほんまおおき…いえ、ありがとうございました」 「いいえ大阪弁って…聞きなれると何だか暖かくて味がある言葉ね。 でも…デボチンって…どこのこと?」 生まれ育ちは 違えども 縁あり家族に なった仲 子はかすがいと 言うけれど 孫もかすがい 皆幸せに 澄んだ瞳に みつめられ はじける笑顔 見るたびに 大事なこの子に 幸せを 朝な夕なに 祈ります 明日に続く 命の絆 孫の可愛さ 宝に勝る |
長編歌謡浪曲「無法松の恋」松五郎と吉岡夫人中村美律子 | 中村美律子 | 池田政之・岩下俊作「富島松五郎伝」 | 弦哲也 | あらぶる波の 玄界灘は 男の海というけれど 黄昏凪を 橙色に 染めて切ない あの夕日 ほんなこつ ほんなこつこの俺は 涙こらえる 無法松 あ~、ぼんぼんを乗せた汽車が…。 あの小さかったぼんぼんが一人で汽車に乗っていくと。 松五郎さん。敏雄はもう六つの子供じゃありませんよ。 分かっとります。高校生じゃ。けんど熊本の寄宿に入らんばいかんとは、 奥さん、寂しゅうなりましょうなぁ。 ええ。生まれて初めての一人暮らしになりました…。 なんね。心配なか。儂がついとるやなかとね。 私、本当に感謝しているんですの。主人が亡くなって八年。 女一人であの子を育ててこられたのも、みんな松五郎さんが陰になり 日向になって支えてくださったからですわ。 陸軍大尉じゃった吉岡の旦那が、軍事演習で雨にぬれて風邪を引いたぁ 思うたらあっという間に…知らぬ仲ならとにもかく、その奥さん、いや、 忘れ形見のぼんぼんをほうってはおけんかった。 まぁ奥さんには迷惑やったかもしれまっせんな…。 いいえ、私の方こそ、私の意地に松五郎さんを 巻き込んでしまったのではないかと、悔やんでいるんですわ。 エッ、奥さんの意地? そりゃ何ですかいのう? 今だからお話します。主人が亡くなってしばらくした頃、 実家の兄から再婚話が持ち込まれたのです。 え…いや、奥さんなら当然じゃ…。 でもね、私は主人を愛していました。 私の夫は、吉岡小太郎 ただひとりなんです。 ひとたび嫁いだ この身には 帰る家など ありはせぬ まして来世も 誓ったからにゃ 岩をも通す 意地なれど 幾夜もつらさに エ~エ~エ~忍び泣き たった一つの 生き甲斐は 夫に似てきた 愛しい我が子 この子の為なら 我が命 いつでも捨てて みせましょう この子は夫の 子ぉじゃもの …それほどまでに旦那のことを…。 ごめんなさい。松五郎さんにこんなことを聞かせてしまって…。 …吉岡の旦那は幸せもんばい…ほんなこつ幸せもんばい!…。 学もなければ 天涯孤独 ついた仇名が 無法松 そんなおいらが 怪我をした 子供を介抱 したのが縁 やがて八年 今はもう 一人暮らしの 未亡人 拳を握り 歯を食いしばり 秘めた想いを 誰が知ろ 松五郎さん。 こ、こりゃ奥さん…。 どうなさったんです。敏雄が熊本に行って以来、 ちっともいらしてくださらないじゃありませんか。 私に何か落ち度でもありましたか? 滅相もない。けど、儂ゃ儂ゃぼんぼんの係ばい。 ぼんぼんがおらんあの家は、 奥さんと亡くなった旦那の家ですけん! そいじゃ! 待って! 松五郎さん、敏雄が帰ってくるんですよ! え。奥さん、それはほんなこつ! ええ。夏休みに、高校の先生を連れて。 小倉の祇園祭が見たいとか仰って…。 そいつぁ、そいつぁ一つ、楽しんでもらわんといかんばい。そうかいの。 そうかいの。ぼんぼんが帰ってくる。ぼんぼんが、ぼんぼんが帰ってくる! 先生、ぼんぼん。あれが音に聞こえた祇園太鼓じゃ。 ゆっくりご覧下さいと言いたいところやが、あれは蛙打ちちゅうて、 本物の打ち方やなかと。 今じゃ本物を叩ける奴がおらんようになってしもたけん、 本物はあんなもんじゃなかとですよ。ねぇ奥さん。 私が吉岡家に嫁いで、この小倉に来た頃はもうあの打ち方でしたわ。 そいじゃ一つほんまもんをご披露しようかいのう。奥さん、どうじゃろ? お願いできますか。 よぉ~し、松五郎の一世一代の祇園太鼓、よお見とってくださいや。 おおい、ちょいと打たせてくれ。ええか、これが今打ちよった蛙打ち。 そしてこれが流れ打ち。 さぁこれが勇み駒…そして奥さん、これが暴れ打ちじゃ! 夏休みが終わり、敏雄が熊本の寄宿に戻ってしまったら、 また淋しい日々がやってきます。 でも本当に寂しいのは松五郎さんなのかもしれません。 奥さん、儂ゃあ寂しゅうてつらい。寂しゅうてつらい…私には太鼓の音が、 松五郎さんの心の声に聞こえたのでした。 汗も飛び散る 暴れ打ち 命をかけた あの音は 万来衆の 目に写る これぞ無法松 晴れ姿 これが無法松 祇園太鼓の 打ち納めじゃ 秋になって、松五郎さんはまたお顔を見せてはくれなくなりました。 人の噂で、 長年やめていたお酒を浴びるように飲んで、 すさんだ暮らしをしていると聞きました。 一度お尋ねせねばと思っていた矢先、 ああ、冷えると思うたら雪じゃ…ん、 ここはぼんぼんが通うた小学校やなかと… ああ、ぼんぼんじゃ、ぼんぼんがおる。いや、そんな筈はなか。 ぼんぼんは熊本の高校ばい。けど、ぼんぼんが見える。 ぼんぼんが唱歌を歌うちょる。あれあれ、 奥さん?奥さんもおるとね。今日は参観日やったと。 まぁまぁ晴れ着ば着んしゃって。奥さん、綺麗ばい。 まっこと奥さんは儂の女神様ばい…奥さん…儂ゃ…儂ゃ… 奥さん! はい。吉岡です。繋いでくださいまし…はい。え? 松五郎さんが! そんな、 松五郎さんが…。 雪の朝、小学校の校庭で、松五郎さんが亡くなっていました。 松五郎さんには幼い 日の敏雄が見えていたのかもしれません。 そのお顔はそれはそれは幸せそうに微笑 んでいらしたそうです…。松五郎さんの寝起きする宿には 柳行李が一つ残されていました。その中には、毎年お正月に差し上げていた お年玉が、封も切らずに。それと五百円もの大金が預けられた、 私と敏雄名義の貯金通帳が、そっと、そっと置いてありました! …松五郎さん、貴方という人は!…。 この十年、あなたに甘えるばかりで、何一つ応えてあげられなかった… 私はあなたの気持ちに気づいていました… なのに、なのに私は…許してください、松五郎さん! 届かぬ想い 実らぬ恋を 祇園太鼓に 打ち込めて 腕も折れよう 命もいらぬ これが松五郎 暴れ打ち これでよか これでよか夢花火 男一途は 無法松 | |
津軽じょんから節(浪曲入り)岸千恵子 | 岸千恵子 | 青森県民謡 | 青森県民謡 | ハア津軽よいとこ一度はおいで 私が生れの弘前城は 桜満開日本で一よ 岩木お山に春風吹けば 乙女ごころの雪さえとけて 津軽娘コにたわむる蝶々 なにを騒ぐか 村雀 ハア夏のまつりはねぶたで明ける 上る花火に心も踊る ハア ラッセ ラッセ ラッセラ 笛や太鼓にはやされて踊るはね人も 勇ましく津軽の夜空になり渡る ゆらぐあかりに東が白らむ まつりも終り取り入れも終って 訪れて来るものは寒い寒い津軽の冬だ シベリヤおろしの北風に身も心も 凍えて仕舞うんだ けいきよくもう一ツ 三味線たのむよー!! ハア一度別れて二度逢うまでは たとえこの身は千里の道も 客が変れど心は同じ | |
津軽慕情~浪曲入り山本謙司 | 山本謙司 | 平山忠夫 | 遠藤実 | 佐伯亮 | 北へ流れる あの雲が 津軽野(の)づらで 雪になる 俺の分まで 働き終えて 親父いまごろ 囲炉裏酒(いろりざけ) ああ 帰りたい 帰れない 酔えば恋しい イヤーイー ふる里が 背中まるめて おふくろが 榾火(ほたび)もやして 夜業(よなべ)する 俺の野良着(のらぎ)を また縫いながら 待っているとの 夢便り ああ 帰りたい 帰れない 唄でしのぼか イヤーイー ふる里を 手豆(てまめ)こらえた 山仕事 遠い町から 思い出す わたし津軽で 暮らすと言った 幼馴染(おさななじみ)は どうしてる ああ 帰りたい 帰れない 想い届けよ イヤーイー ふる里へ |
無法松の一生~歌謡浪曲~山田太郎 | 山田太郎 | 吉野夫二郎 | 古賀政男 | 椿拓也 | 小倉生まれで 玄海育ち 口も荒いが 気も荒い 無法一代 涙を捨てて 度胸千両で 生きる身の 男一代 無法松 「いよう、これは吉岡のぼんぼんか、 ぼんぼんはようお母さんに似とるけん可愛い顔をしとるのう」 「松小父さん、松小父さんのお母さんはどうした?」 「儂が生まれるとお母さんはすぐに死んだんじゃ」 「そう、小父さん可哀想だなぁ」 「ぼんぼんもお父さんを亡くしたけん淋しかろうが、 まぁ、お母さんのおる者は幸せ者じゃ、 特に奥さんのようにぼんぼんを可愛いがる綺麗なお母さんは、 小倉中探したって居(お)らんけん、 ぼんぼんは小倉いちばんの幸せ者じゃけんのう」 小倉生まれは 玄海の 荒波育ちで 気が荒い 中でも富島松五郎は 男の中の男だと 人にも呼ばれ 我もまた 暴れ車の 名を背負い 男一代千両の 腕なら 意地なら 度胸なら 一度も 負けた事のない 強情我慢の 筋金を 捧げる情けの 乱れ髪 解けてからんだ 初恋の 花は実らぬ 仇花と 知っていながら 有明の 涙も未練の 迷い鳥 風に追われて 泣いて行く 「ぼんぼん、祇園太鼓が聞こえてくるな。今日は年に一度の祇園祭だぁ。 男の子は強くなきゃいかん。 おじさんは子どもの時から泣いたことが一度もなかったぁ。 ぼんぼん、これから打つおじさんの祇園太鼓をよぉ聞いちょれよぉ。 おう、そこのアンちゃん、儂にばちを貸してくんないか。 すまんな、さあ、みんなよう聞いちょれ。無法松のあばれ打ちじゃあ」 空にひびいた あの音は たたく太鼓の 勇駒 山車(だし)の竹笹 提灯は 赤い灯(あかし)に ゆれて行く 今日は祇園の 夏祭 揃いの浴衣の 若い衆は 綱を引出し 音頭とる 玄海灘の 風うけて ばちがはげしく 右左 小倉名代は 無法松 度胸千両の あばれ打ち 「いやぁ、これは吉岡の奥さん、久しぶりでございます。」 「あら、松五郎さん、ご病気と聞いておりましたが大丈夫なんですか?」 「えぇ、儂は相変わらず車を引いておりまして、 このように元気でございますよ。奥さん、 なんやらここんところぼんぼんがおかしいんじゃ、 儂が道で逢うても知らん振りなんじゃが、 ぼんぼんは儂を嫌うてんですかね?」 「そんなことはございませんよ、松五郎さん。 俊夫は小さい頃からうちの人が亡くなってからも松小父さん、 松小父さんと言って慕っていたじゃありませんか。 俊夫も高等学校に行くようになり年頃になったんですかねぇ」 「えぇ、儂はあの時のぼんぼんでいてほしかったんじゃぁ、 ぼんぼんいつの間にか大人になったのう」 今は昔の夢のあと 可愛い俊夫の面影を 胸に抱きしめ学校の 中から洩れる歌声に 心ひかれる松五郎 あれは俊夫の歌う声 俺も一緒に歌うぞと 声をそろえてつぶやけば 閉じた瞼の裏に浮く 俊夫の姿愛らしく 夢見心地の春がすみ 「富島松五郎は吉岡陸軍大尉に一生尽くしてまいりましたが 病には勝てません。奥さん、ぼんぼん、いつまでも達者でいてくださいね」 泣くな嘆くな 男じゃないか どうせ実らぬ 恋じゃもの 愚痴は未練は 玄海灘に 捨てて太鼓の 乱れ打ち 夢も通えよ 女男波 無法松の一生の物語でした お粗末ながら まずこれまで |
むらさき小唄(歌謡浪曲入り)原田悠里 | 原田悠里 | 佐藤惣之助 | 阿部武雄 | 流す涙が お芝居ならば 何の苦労も あるまいに 濡れて燕(つばめ)の 泣く声は あわれ浮名の 女形 (歌謡浪曲) 「お江戸の夜の 紫は 色もゆかりの 花川戸 助六さんに たてた義理 主(ぬし)に血道(ちみち)を揚げ巻きは 花形 中村 雪之丞 叩く涙の 牡丹刷毛」 (セリフ) 「浪路様 おこころざし嬉しゅうは存じますれど、 雪之丞めがお伝葉に従わぬは、 共に天を載かぬ、あなたと私の運命(さだめ)ゆえ、 お許しなされてくださりませ、 どうにもならぬ、 長崎以来の因縁でござりまする」 嘘か真(まこと)か 偽(にせ)むらさきか 男心を 誰か知る 散るも散らぬも 人の世の 命さびしや 薄ぼたん (セリフ) 「浪路様 こりや何ゆえのご生涯、 たとえこの世で添えずとも、 未来できっと、 添い遂げましょう」 | |
湯島の白梅(歌謡浪曲入り)原田悠里 | 原田悠里 | 佐伯孝夫 | 清水保雄 | 湯島通れば 思い出す お蔦主税(つたちから)の 心意気 知るや白梅 玉垣(たまがき)に のこる二人の 影法師(かげほうし) (セリフ) 「えッ 別れろって… 早瀬さん、別れろ切れろは、 芸者のときにいうものよ、 私(あたし)にゃ死ねと云(い)って下さいな、 蔦には蔦には枯れろと、 おっしゃいましな…」 (歌謡浪曲) 「すべて いうのじゃ ありません 未練でいうのじゃ ありません いとしい夫の ためならば 死ぬよりつらいことだとて 女房が聞かれぬ わけはない それを聞かなきゃ 早瀬さん 婦(おんな)の系図(けいず)に 傷がつく」 (セリフ) 「お蔦、すまん許してくれ せめて最後に好きな我がままを 云ってくれ」 「はい、じゃ、手を引いて」 青い瓦斯燈(ガスとう) 境内(けいだい)を 出れば本郷 切通(きりどお)し あかぬ別れの 中空に 鐘は墨絵(すみえ)の 上野山 | |
横丁名物浪曲ぶろ曽根史郎 | 曽根史郎 | 吉田弘 | 渡久地政信 | 待ってましたと 二タ声三声 湯気のあちらで 声がする きかせましょうかネ 石松さん いつか噂も たちまして 横丁名物 名調子 おそまつながらも 一席を。 うまいもンだと また手が鳴れば 名代なりけり 東海道 いつか気ッ風もネ 大政さん かじり覚えの 仁義やら 横丁名物 のど自慢 悪声ながらも つとめましょう。 木戸は開放 どちらを向こと なじみばかりの 風呂の中 飲みな喰いねえ 神田ッ子 丁度、時間と なりまして 横丁名物 ひと捻り 続きは明日の おたのしみ。 | |
浪曲一代氷川きよし | 氷川きよし | 松井由利夫 | 水森英夫 | 伊戸のりお | 那智の黒石 心を込めて 磨けば深みも 艶も出る 天晴一代 浮世の坂を 兄と弟 力を合わせ 芸の真髄(まこと)を 掴むまで 見てはならない 故郷(くに)の空 地所(ところ)変われば水変わる 身体こわすな風邪ひくな そっと背を押し肩たたき 渡してくれた包みの中にゃ 母の握った 塩むすび… 上っ面では 判ったつもり つもりじゃ通らぬ 芸の道 天晴一代 二つの命 風と語らい 寒さをしのぎ 節を彩る 琴の音に 逢えたあの夜は 男泣き 母の言葉が 今更沁みる 苦労はいつかは 根を下ろす 天晴一代 絆はひとつ 兄が合の手 弟が語る 義理と人情の 合わせ技 夢の花道 晴舞台 |
浪曲劇場「森の石松」米倉ますみ | 米倉ますみ | 下地亜記子 | 桧原さとし | お人よしだと 笑われようと 馬鹿は死ななきゃ 直らない 森の石松 世渡り下手で 嘘やお世辞は まっぴらごめん 富士の白雪 茶の香り 清水港の いい男 石松「呑みねぇ呑みねえ、寿司を喰いねぇな、寿司を。 江戸っ子だってねぇ」 江戸っ子「神田の生まれよ」 石松「そうだってねえ、お前さん、ばかに詳しいようだから ちょいと聞くんだけど、次郎長の子分が大勢ある中で、 一番強ぇのは、誰だか知ってるか?」 江戸っ子「そりゃ、知ってらい」 石松「誰が強ぇ?」 江戸っ子「まず何と言っても大政でしょうねえ」 石松「あ、やっぱり…あの野郎、槍使いやがるからねぇ。 二番目は誰だい?」 江戸っ子「小政だね」 石松「あいつは居合い抜きで手が早ぇから。三番目は?」 江戸っ子「大瀬半五郎] 石松「奴は利口だからねぇ。四番目は?」 江戸っ子「増川の仙石衛門」 石松「出てこねぇよ、おい。いやな野郎に会っちゃったなあ… けどまぁ五番には俺より他はねぇからなぁ…五番目は誰だい?」 江戸っ子「法印大五郎」 石松「六番は?」 江戸っ子「追分の三五郎」 石松「七番は?」 江戸っ子「尾張の大野の鶴吉」 石松「八番は?」 江戸っ子「尾張の桶屋の吉五郎」 石松「九番は?」 江戸っ子「美保の松五郎」 石松「十番は?」 江戸っ子「問屋場の大熊」 石松「この野郎…やいっ、お前あんまり詳しかねぇなぁ、清水一家で 強ぇのを、誰かひとり忘れてやしませんかってんだよ」 江戸っ子「清木一家で強ぇと言やぁ、大政に小紋、大瀬半五郎、 遠州森のい…あっすまねえ、『い』の一番に言わなきゃならねぇ 一番強ぇのを忘れていた、大政だって小牧だってかなわねえ、 遠州森の石松。、これが一番…強ぇにゃ強ぇが、あの野郎は 人間が馬鹿だからねぇ」 義理と人情と 度胸は負けぬ 肩で風きる 東海道 森の石松 女にゃ弱い おっと涙は まっぴらごめん わざとつれなく 背を向ける 清水港の いい男 | |
浪曲子守唄沢田二郎 | 沢田二郎 | 越純平 | 越純平 | 逃げた女房にゃ 未練はないが お乳ほしがる この子が可愛い 子守唄など にがてなおれだが 馬鹿な男の 浪花節 一ツ聞かそか ねんころり そりゃ…無学なこのおれを親にもつ お前はふびんな奴さ 泣くんじゃねえ 泣くんじゃねえよ あんな薄情なおっ母さんを呼んでくれるな おいらも泣けるじゃねえか ささ いゝ子だ ねんねしな 土方渡世の おいらが賭けた たった一度の 恋だった 赤いべべなど 買うてはやれぬが 詫びる心の 浪花節 二ツ聞かそか ねんころり どこか似ている めしたき女 抱いてくれるか ふびんなこの子 飯場がらすよ うわさは云うなよ おれも忘れて 浪花節 三ツ聞かそうか ねんころり | |
浪曲子守唄![]() ![]() | 一節太郎 | 越純平 | 越純平 | 逃げた女房にゃ 未練はないが お乳ほしがる この子が可愛い 子守唄など にがてなおれだが 馬鹿な男の 浪花節 一ツ聞かそか ねんころり (セリフ)そりゃ… 無学なこのおれを 親にもつお前は ふびんな奴さ 泣くんじゃねえ 泣くんじゃねえよ あんな 薄情なおっ母さんを 呼んでくれるな おい等も 泣けるじゃねえか ささいい子だ ねんねしな 土方渡世の おい等が賭けた たった一度の恋だった 赤いべべなど 買うてはやれぬが 詫びる心の 浪花節 二ツ聞かそか ねんころり どこか似ている めしたき女 抱いてくれるか ふびんなこの子 飯場がらすよ うわさは云うなよ おれも忘れて 浪花節 三ツ聞かそか ねんころり | |
浪曲子守唄三山ひろし | 三山ひろし | 越純平 | 越純平 | 逃げた女房にゃ 未練はないが お乳ほしがる この子が可愛い 子守唄など にがてなおれだが 馬鹿な男の 浪花節 一ツ聞かそか ねんころり 「そりゃ……無学なこのおれを親にもつ お前はふびんな奴さ 泣くんじゃねえ 泣くんじゃねえよ あんな薄情なおっ母さんを呼んでくれるな おい等も泣けるじゃねえか ささ いゝ子だ ねんねしな」 土方渡世の おい等が賭けた たった一度の 恋だった 赤いべべなど 買うてはやれぬが 詫びる心の 浪花節 二ツ聞かそか ねんころり どこか似ている めしたき女 抱いてくれるか ふびんなこの子 飯場がらすよ うわさは云うなよ おれも忘れて 浪花節 三ツ聞かそか ねんころり | |
浪曲太鼓北島三郎 | 北島三郎 | 原譲二・哲郎 | 原譲二 | なにがなにして なんとやら 唄の文句じゃ ないけれど 男一匹 この身体 何処で咲こうと 散ろうとも なんのこの世に 未練はないが 故郷(くに)に残した お袋にゃ 苦労 苦労のかけ通し“おっ母さーん” 馬鹿なせがれが 詫びている なにがなにして なんとやら いろはかるたじゃ ないけれど 二度と戻らぬ 人生を 我身一人の為にだけ 歩く男に なりたくないさ 影を叱って 越えてゆく 無情 無情の泪坂“おっ母さーん” 負けはしないさ 俺はやる なにがなにして なんとやら 浪花節では ないけれど 一度決めたら やり通す たとえ世間が 変われども 涙なんかは だらしがないぜ 弱音はいてちゃ 生きられぬ 我慢 我慢さ夢じゃない“おっ母さーん” 今に花咲く 春が来る | |
浪曲ドドンパ二葉百合子 | 二葉百合子 | たなかゆきを | 林恭生 | 妻は夫をいたわりつ 夫は妻に慕いつつ 見えぬその目を 治そうと たどる壺阪 月の道 可愛いお里の 純情が 観音様に 通じてか やがてご利益 あらたかに 沢市さんの 両の目が ドドンパっと 開(あ)いたとさ ドドンパ ドドンパ 浪曲ドドンパ 旅行けば 駿河の国に茶の香り 富士を背にして 四国まで ひとり気侭(きまま)な 船の旅 話し相手の 江戸っ子に 東海道(かいどう)一の 暴れん坊 馬鹿と云われて 口惜しくて 石松さんは カッとなり ドドンパっと 啖呵切る ドドンパ ドドンパ 浪曲ドドンパ 遠くへちらちら 灯りがゆれる 悪いようでも 心底は こころ隅田の 男まえ かけた情けが 縁となり 危うい命 助けられ 晴れて訪ねる 奥州路 吉五郎さんは 袈裟衣(けさごろも) ドドンパっと 旅に出る ドドンパ ドドンパ 浪曲ドドンパ | |
浪曲ドラえもん大山のぶ代 | 大山のぶ代 | 小谷夏 | 菊池俊輔 | 菊池俊輔 | 雨が降る日は 天気が悪い あたりまえだよ そんなこと ぼくはしがない 口ボットなんだ みんな知ってる そんなこと そこが そこが 問題さ そこで そこで 悩むのさ みんなと同じに なりたいな 笑って遊んで 日が暮れて みんなおうちに 帰るころ ぼくはなぜか ひとりぼっち 顔で笑って 心で泣いて ああ 哀愁のドラえもん 犬が西向きゃ しっぽは東 あたりまえだよ そんなこと ぼくはロボット なんでもできる みんな知ってる そんなこと そこが そこが つらいのさ そこで そこで 悩むのさ みんなと同じに なりたいな 空を見上げりゃ お月さま みんなの影は 長いのに ぼくの影は まんまるだ わかってくれるか 俺らの気持ち ああ さすらいのドラえもん |
浪曲もぐ吉ものがたり町あかり | 町あかり | 町あかり | 町あかり | 町あかり | もぐらのもぐ吉 みんなで鬼ごっこ 「待て待て~い!」 どこまでも どこまでも 逃げてゆく そしてついに 地球を一周したという… |
浪曲渡り鳥天童よしみ | 天童よしみ | 石本美由起 | 安藤実親 | 旅のこころを ひかれるままに いつかおぼえた 浪花節 恋の傷(いた)みを 翼に抱いて 飛べば淋しい 山や川 あ…… あ……ん 涙一(ひと)ふし 渡り鳥 のどの渋さは 母さんゆずり 空の星さえ 聞き惚れる 今じゃ故郷の 噂が遠い 風にきいても わからない あ…… あ……ん 未練三味線 渡り鳥 秋の関東 吹雪の越後 どこで迎える お正月 のれん酒場の お客に呼ばれ つもる苦労の ひき語り あ…… あ……ん 意地がささえの 渡り鳥 | |
浪曲渡り鳥美空ひばり | 美空ひばり | 石本美由起 | 安藤実親 | 安藤実親 | 旅のこころを ひかれるままに いつかおぼえた 浪花節 恋の傷みを 翼に抱いて 飛べばさびしい 山や川 あ…… あ……ん 涙 一ふし渡り鳥 のどの渋さは 母さんゆずり 空の星さえ 聞き惚れる 今じゃ故郷の 噂が遠い 風にきいても わからない あ…… あ……ん 未練三味線 渡り鳥 秋の関東 吹雪の越後 どこで迎える お正月 のれん酒場の お客に呼ばれ つもる苦労の ひき語り あ…… あ……ん 意地がささえの 渡り鳥 |
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