優河
誰かのために歌うって、難しい。
2024年9月4日に“優河”が4thアルバム『Love Deluxe』をリリースしました。今作には、6月にデジタルリリースした「Sunset」、7月にデジタルリリースした「Don’t Remember Me」など全10曲を収録。2023年8月にリリースした「遠い朝」の2024mixも収録。全篇、岡田拓郎がプロデュースを手がけ、魔法バンド、つまり岡田拓郎(Gt)、千葉広樹(B)、谷口雄(Key)、神谷洵平(Drs)というお馴染みメンバーと共にレコーディング。
さて、今日のうたではそんな“優河”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回が最終回です。綴っていただいたのは、収録曲「 泡になっても 」にまつわるお話。大切なひとを想いながら、自分にできることを探しながら書いた曲。でも、しばらくして気づいたことは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。
誰かのために歌うって、難しい。
あの子のためや、あなたのために歌おうと思って曲を書いても結局、自分のための曲になっていたりする。
こころがぺしゃんこになって、空気を入れても入れても抜けていく。どんな言葉も風のように抜けて、どんなに美味しいものを食べても味がしない。人間生きていたらきっとそういう辛い時もあると思う。私も数年前そうだったように、自分がなんのために生きていて(生かされていて)誰のために何をしてるのか分からなくなる。
私がそういう状況から抜けて、今こうしてまた歌えるようになったのは、何がきっかけかは今でも分からない。でも、その心の回復までの間には誰かの眼差しや、誰かの温もりや笑顔、太陽の光を受けて輝く緑があり、頬を撫でる優しい風があった。
こころ萎んでぺしゃんこになっている大切な友人を目の前にして、私は想いを巡らせていた。
自分だったらどういう言葉を聞きたいか、自分だったらどういう風に一緒に居てほしいか。でも、いくら一生懸命考えても、その子が何を求めていて何を必要としているかを知ることは出来ない。自分の口から出る言葉が全てその子の足元に落ちて、パリンパリンと音を立てて消えていくようだった。
自分は無力だと思いながらも、どうしたら、あなたはあなたで居るだけで価値があって、私にとっても、たくさんの人にとっても、あなたは大切な存在だよと伝えてあげられるのか。私が見てきた美しい景色や生活、心に残った尊いものを全て集めてガラスの玉に詰めこんでその子に差し出せたなら。生き続けていけたなら、この何倍も何十倍も素晴らしいことがあなたを待っているよ、と伝えられたなら。
泡になってもいい。
空になってもいいよ。
ただそこに居て欲しい。
その子を想いながら、自分にできることを探しながら書いた曲。
でも出来上がってしばらくしてふと自分の歌を聴き直していると、これはその子のために書いてるのではなく、自分のために書いた曲なのだと気付く。
その子がいなくなる世界が怖くて、また大事な友人を失うのが嫌で嫌で、不安な気持ちを落ち着かせるために歌っているのだと気付く。
誰かのためと思っていても、それは結局自分のためなのかもしれない。でもそこは紙一重なんだとも思う。
自分のための曲になってしまったけれど、その子を思う気持ちは変わらない。歌うたびにその子の笑顔が目に浮かぶ。
自分の中にある愛情は、ここまでは自分のもので、ここからはあの子のものと区切りをつけるものではないのかもしれない。
誰かのために歌うって、難しい。
この曲が私のものであるように、この曲が誰かのものになっていったらいい。誰かのものになっていったら、嬉しい。
私を慰めてあの子を愛するように。
直接は何もできないけれど、あなたの手を握るように、この曲があなたの温もりになるように、ただただ願うしか出来ないけれど。
<優河>
◆紹介曲「 泡になっても 」 作詞:優河 作曲:優河
◆4thアルバム『Love Deluxe』
2024年9月4日発売
<収録曲>
01. 遠い朝 - 2024 mix
02. Don’t Remember Me
03. Petillant
04. Love Deluxe
05. Lost In Your Love
06. Mother
07. 香り
08. Tokyo Breathing
09. Sunset
10. 泡になっても