ヒグチアイ
他愛のない話って。
2025年10月29日に“ヒグチアイ”6th Album『私宝主義』をリリースしました。今作も、インディーズ作品から引き継がれる、造語の四文字熟語。今夏リリースしてきた“独り言”三部作「エイジング」「わたしの代わり」「バランス」や既発タイアップ楽曲に加え、未発表の新曲4曲を含めた全11曲が収録されております。
さて、今日のうたではそんな“ヒグチアイ”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。最終回は、収録曲「 バランス 」にまつわるお話です。“他愛のない会話”とは何なのか。友だちとは“増やすもの”なのか…。ぜひ、歌詞とあわせてエッセイをお楽しみください。
パーソナルジムに通っている。もう3年ぐらいになる。1時間、一対一で向かい合う。もちろんそのほとんどはトレーニングの時間として費やされるわけだけど、少しの休憩には大体雑談が挟まれる。わたしたちの共通項として何人かの知り合いと釣りの話がある。
わたしはジムに行く日、なんの話をしようか考えてから行く。そうしないと、全く何も喋らない無愛想なわたしが出来上がってしまう。まだ喋る無愛想の方が可愛げがあるだろう。
丁寧にジムに通えているときほど、喋ることがない。釣りに行った話も、共通のあの人に会った話も、してしまった。
そういうときに、わたしのいくつかある小さな悩みを相談する。
「あの…(わたしは大体、あの、から話し始める)こういうジムって、いろんな人が来ていろんな話をするわけじゃないですか。他愛のない話ってどうやってするんですか?」
「え…? ええと、考えたことなかったです。なんで他愛のない話がしたいんですか?」
「他愛のない話から共通点が見つかって、そうなったら友だちができるじゃないですか。友だちを作りたいんです」
と言うとびっくりされた。
「友だちが欲しいんですか…?」
「え…?友だち、欲しくないんですか?」
「そうですね、はい。別に今いる友だちだけで十分なんで」
目から鱗だった。たしかに、別に、今いる友だちで十分ではある。だけど、友だちっていうのは増やしていくものなんだと思っていた。増やしては減って、また増えていくもんなんだと思っていた。でも、そう言っているわたしこそ、そんなに友だちがいない。トレーナーの方がずっと友だちは多い。
デッドリフトをしながら、その矛盾についてずっと考えていたらいつの間にか時間は終わっていた。「他愛のない話ってこういうことですか?」と聞くと「これは違いますね」と言われた。
いまだに友だちは増えない。ただいつでも増やす気概はある。あるのだ。
<ヒグチアイ>
◆紹介曲「 バランス 」 作詞:ヒグチアイ 作曲:ヒグチアイ
◆6th Album『私宝主義』
2025年10月29日発売
<収録曲>
1. わたしの代わり
2. 花束
3. バランス
4. 雨が満ちれば
5. エイジング
6. 一番にはなれない
7. 誰
8. 静かになるまで
9. 恋に恋せよ
10. もしももう一度恋をするのなら
11. ぼくらが一番美しかったとき