Hibari
渚のパルコにて
2026年3月25日に“Hibari”が新曲「渚」をリリースしました。唯一無二の声を持ち、作詞・作曲・アレンジまで自ら手がけるシンガーソングライター。シティポップをルーツに、J-Pop、Jazz、R&Bを溶け合わせた心地よいサウンドと、力強く情感豊かな歌声でリスナーを魅了します。現在は、下北沢Lagunaを拠点に定期的にライブ出演中。
さて、今日のうたではそんな“Hibari”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、新曲「 渚 」にまつわるお話です。今回のレコーディングが、予想に反し難航した理由とは。そして、その経験から気づいたことは…。
昨年末から「渚」を作り始めました。
振り返ってみると、今回はなかなか印象深いことが多かったと思います。
掲げたテーマは「さわやかな別れ」。
作曲段階では、穏やかな波打ち際をイメージして作りました。
アレンジャーは、前作「らせん」でもお世話になった出原さん。
「プロの魔法で、いい感じにオシャにしてください」と、信頼という名の丸投げデモを送りました。
するとどうでしょう。返ってきたのは、まさに理想的なジャジーアレンジでした。
アレンジが届いたとき、僕は訳があってサンフランシスコにいました。
アメリカの空の下、このオシャなイントロを流し、映画の主人公のような気分で街を歩きました。
キーもメロディも歌いやすく、「これは勝ったな」と、レコーディングが待ち遠しかったのを覚えています。
ところが、レコーディングは難航しました。
少し前にインフルにかかり、病み上がりで歌うことになったのですが、ゲホゲホハスキーレコーディングになったのです。
ブレスを吸うたびに咳が出るので、むせないように息を吸うと、今度は声量が足りず。
ハイトーンはかすれ、さわやかな別れを歌うはずが、満身創痍のさよならになりました。
なぜこんな状態で歌ったかというと、この曲にとって、綺麗に歌うことが必ずしも正解じゃないと思っていたからです。
別れというのは、本来泥臭くて、苦しいもの。
だったら、この死に体の方が曲の真実に近いんじゃないか。
そう自分に言い聞かせ、「やったれ!」と強行突破で録り終えました。
出来上がりを聴いたとき、ボーカルとしては「次は絶対、健康なときに録るわ」と思いました。
でも、そのかすれた声が、曲の持つ切なさと温度感にハマっていたのです。
音楽をやる人間として「良い曲を残せた」と思えるなら、あのときインフルにかかったことも必要な演出だったと思えるから、不思議なものです。
しかも、聴いているうちに耳が慣れて、今ではどこがしんどかったのかよく分かりません。
認知が歪んでいただけかもしれませんね。
日常なんてのは結局、小さな変化の積み重ねです。
気づけることもあれば、見落としてしまうこともある。
「渚」を作る過程で、僕は自分の中にあるいろいろな感情や経験を、彼岸へ渡せた気がします。
手放して軽くなったこと、抱え続けることで強くなれたこと。
その境界線が、この曲のおかげで見えてきました。
最後に、ちょっとスピったことを言わせてもらうなら。
この曲も、僕がインフルにボコボコにされた苦しみも、すべては「あなた」のためにあります。
あなたが誰かにずっと愛されていること、そして、これからも愛されていくこと。思い出してください。
この曲を聴いたとき、ふとそんなことを思ってもらえたら、僕の喉の痛みも少しは報われるってワケですよ。
健康第一。アデュー。
<Hibari>
◆紹介曲「 渚 」 作詞:Hibari 作曲:Hibari