whou.
となりの席のふたり
2025年10月29日に“whou.”が新曲「あわに」をリリースしました。今作は、現役大学生シンガーソングライター・whou.による3作目のデジタルシングル。慣れないお酒でほろ酔いになった、奥手な2人のあわい恋心を描いた秋の夜にピッタリなポップソングとなっております。なお、共同編曲には、前作に引き続きBLACK BERRY TIMES・荻原蓮が参加。新進気鋭の若手ミュージシャンによる演奏も注目ポイントです。
さて、今日のうたでは“whou.”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、新曲「あわに」にまつわるお話です。予定外に始まった一人飲みタイム。その隣の男女の会話をこっそり聞いてみると…。ぜひ、今作とあわせて、エッセイをお楽しみください。
「ごめん電車の遅延で20分くらい遅刻しそうだから先にお店入ってて!」
これから飲む友達から店の前に着いたあたりでLINEが来た。何か他に暇つぶしでもして待っていようかとも思ったが、最近はまだこの時期でも寒くないだろうと天気予報も見ずに服を選んだ僕は、すでに金木犀が香る季節だというのに薄着で来てしまっていたので、言われた通り先に店に入ることにした。
「二名で、一人後から来ます」
そう店員さんに伝えると、端の方の二名掛けの席に案内された。席に着き、一杯目のレモンサワーとたこわさを注文するとすぐに提供され、こうして友達が来るまでの一人飲みタイムが始まった。なんだかそわそわする。「誰も自分のことを気にするはずもない、ましてや居酒屋で」。そう思っても、"あの歳で居酒屋で一人飲みしているのかあいつ"なんて思われそうで周りばかり気にしてしまう。そんなことを考えていると、隣に同年代くらいの男女がいることに気が付いた。
「〇〇と〇〇付き合ったんでしょ?」
会話を盗み聞きしたところ、どうやらこの二人はサークルの同級生で、カップルという訳ではないらしい。二人とも真面目そうで、会話の様子から男の子の方の性格は少し落ち着き目で、女の子の方が明るいピュアな感じだ。隣の席ということもあり、スマホを見ている素振りをしながらバレないように観察していると、一つ気づくことがあった。「男の子の飲み物を口に運ぶ回数が多い」。そしてうまく言葉を返すのに必死そうであった。おそらく彼は女性にあまり慣れていなく、何より、相手の子へ好意があるのだろう。
一見、クールなようなのに、案外わかりやすく心情が表に出てしまうそのギャップが純真すぎてもはや眩しい。一方の女の子はというと、その無垢さゆえに男の子を振り回しているように見えるが、ふいに男の子と目が合うと赤らんだようにも見える。この二人、どちらも奥手なんだろうな、と思っているとまた一つ気づくことがあった。<さっきまで一人飲みしている自分のことで周りを気にしていた自分が今一番他人を観察している>ということに。
「もうすぐ帰る?」
「もう一杯だけ飲もうよ」
真面目そうな彼は相手の帰りの時間を気にしていたが、例の彼女はもう少しだけ一緒にいたい様子だった。それにさっきから、男の子が黙りこくる瞬間がある。きっと告白とまではいかずとも、何か伝えたいことがあるのだろう。
自分も奥手なタイプなので彼の気持ちが痛いほどよくわかる。頭の中で様々なことをぐるぐる考えては言葉が喉で止まってしまうのだろう。でもだからこそ、彼の奥手さは誠実さの裏返しなのだと思うし、真っ直ぐでピュアな想いを抱いている証明なのだとも思う。
彼らの最後の一杯が届いた。炭酸の泡が立ち上っていた。「その泡みたいに気持ちを弾けさせて勇気を出すんだ!」と彼のことを心の中で小さく応援した。
こんな誠実でピュアな気持ちを自分もずっと大切にしていきたいなぁ、なんてことを考えていると少し遠くで友達の声が聞こえた。
「ごめんお待たせ!!」
<whou.>