言葉の達人 264回 buzzG
作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、代表作に「しわ」「アルビノ」「かくれんぼ」「ワールド・ランプシェード」などを持つボカロP/作詞・作編曲家の「buzzG」さんをゲストにお迎え…!
buzzG
代表作
作詞論
作詞は自分にとって最も純度の高い
自己表現の一つだと思っています。
丁寧に言葉を選ぶのは大前提として、いつも考えるのが「わかってほしい」と「わかってたまるか」の間を抜ける表現です。 全部を説明してしまえば嘘になるし、何も差し出さなければ届かないので、その緊張感の上で針に糸を通すみたいなギリギリのバランスを探しています。

正直に言って理想にはまだ全然届いていなくて、でもその届かなさこそがずっと書き続ける理由でもあります。

作詞とは、自分の中に潜って深海と向き合う行為なので、それが誰かに届いて夜を暖めるのならばそれ以上に嬉しいことはないかもしれないです。
[ buzzGさんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    実は中学生の頃、誰にも見せることのない小説を書いていました。
    思春期の頃から「文章で何かを表現したい」という自意識だけはずっとまとわりついていました。
    だから音楽を始めたとき、作詞は特別な決断というよりほとんど必然だったように思います。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    特別な瞬間というより、日常の延長にあることが多いです。
    身の回りで起きた出来事や会話はもちろん、小説、アニメ、漫画、映画など、触れた作品から影響を受けることは多いですね。

    直近ですと「不気味」という曲の歌詞は『ミーガン』というホラー映画から着想を得ました。
    AIアンドロイドがどんどん人間に近い存在になってゆくお話です。
    もともとUTAUから生まれた存在で、今はよりリアルな歌唱表現が可能になっている。そのボカロとリアルの間にある立ち位置が映画のテーマと自然に重なりました。

    作品から直接ストーリーを借りるというよりは、自分の中で引っかかった感覚を軸にして広げていくことが多いです。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    作詞は限られた譜割りの中でどれだけテーマを表現できるかに尽きると思っています。
    文字数も音数も制限がある中で、何を残して何を削るか。その取捨選択が大事かなと。

    また、メロディの響きと言葉の噛み合わせを調整したり、小節頭で音素としてパンチを出したいときに、発音が弱い子音や母音が来ないように調整することは多いです。

    一方で、語呂や言葉遊びを前面に出す楽曲の場合は感覚が違うこともあったりして、リズムゲーのような感覚にもなったりしますね。メッセージ性を深く掘るというより、どれだけ気持ちよくハマるか、どれだけ自分が楽しめるかを優先することもあります。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    作詞に関してはほとんど家です。いわゆる"缶詰"状態になることが圧倒的に多いですね。
    カフェや移動中にアイデアが浮かぶことはあっても、本格的に言葉を詰めていく作業は自分の空間じゃないと難しいです。
    というのも、作詞って自分にとってかなり内向きな作業なんです。誰かに見られている感覚があるとどうしても浅いところで止まってしまうので…。

    自分の中の深い深い海にダイブしてその楽曲に必要な言葉を拾ってくるような感覚です。なのでノイズが入ると一気に浅瀬に戻ってしまってできない感じがします。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    裏話と言われると、意外と難しいですね。
    例えば「Fairytale,」に関してはこれまでも話してきましたが、テーマは2012年5月21日に観測された金環日食です。長い時間をかけて、太陽と月が約束された場所で重なるその瞬間に現れる金色のリングが美しかったです。

    「Fairytale,」は、当時の自分にはまだ整理しきれなかった人間関係や感情も含めて書いています。幼い頃にはわからなかった距離感やすれ違いの意味が、革製品の経年変化みたいに時間をかけて、少しずつ味わいに変わっていけばいいなと思っています。
    聴いた誰かにとってもその時はわからなくても、あとから意味を持つ曲になってくれたら嬉しいなと思っています。

    タイトルの「Fairytale,」の最後にカンマを付けたのも物語をそこで終わらせたくなかったからというのがあります。続いていくことへの祈りみたいなものですね。
    ちなみに、次に日本で観測できる金環日食は2030年6月1日と言われています。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    これは本当に人それぞれの美学があると思います。

    僕の場合は、まず"歌詞だけで読んだときに成立しているか"を大事にしています。メロディから切り離して読んでも、できれば音読しても、美しいと感じられるかどうかを大切にしています。

    歌詞って、良くも悪くも音楽に引っ張られるものですよね。
    強いメロディやアレンジのおかげで、言葉が実力以上によく聴こえることもあると思っています。
    もちろん音楽ありきで成立するのも歌詞だとも思っています。
    でも理想を言えば、音楽と歌詞それぞれに強度があって、それが掛け算されていく形がベストだと思っています。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    正直に言うと「やられた」という感覚はあまりないです。
    もちろん素晴らしい歌詞や楽曲に出会うことはたくさんありますが…
    でもそれを"悔しい"とか"やられた"という方向で受け取ることはあまりないです。
    美しい歌詞をかける方にはただただ尊敬の念しかないです。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    基本的にはその曲に合う言葉を選ぶ、というのが前提です。ジャンルやテーマによって語彙が変わることもあります。

    ただ一つ意識しているのは、自分が普段まったく使わないような言葉はできるだけ使わないということです。嘘っぽくなっちゃいますからね。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    特にないんじゃないでしょうか。
    僕や皆さんがそれぞれ信じるものをただ粛々と書き続けることだと思います。
    うまさや器用さよりも、その人の人生が乗っているかどうかを見たい気もしています。

    今後AIがどんどん台頭していくなかで、人の手で書く理由があるとすればそこになってくると思います。AIには人生を乗せられないので。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    いきなり理想的で完璧なものを書こうとしないでください。
    最初は30%だっていい。むしろそれくらいの感覚で、まずは最後まで書いてみてほしいと思います。

    そして、できればそれを何らかの形で発表して積極的に恥をかいてほしいです。その積み重ねが将来の財産になります。

歌 手
buzzG
タイトル
オリオンの夢
高校生の頃、ずっと好きだった人がいました。卒業後、彼女が少しずつ変わっていく姿を遠くから見ていて、寂しさとやるせなさが残ったそのときの感情がこの曲の出発点だったと思います。変わらないことも変わっていくことも寂しいと思ってしまうけれど、私たちがいたあの青い時代は間違いなく存在していて、美しかったと思いたい。そういう祈りのような歌です。
鋭さと叙情を同居させたギターサウンド、感情の機微を掬い取る歌詞世界、
そしてドラマチックなメロディラインが特徴のボカロP / 作詞・作編曲家。

ロックやオルタナティブを基盤にしながら、ジャンルを横断する楽曲構成力と、
映像と物語性を統合した表現と高い完成度を誇るサウンドプロダクションで知られる。


2009年より活動を開始し、代表作に「しわ」「アルビノ」「かくれんぼ」「ワールド・ランプシェード」などを持つ。 VOCALOID楽曲にとどまらず、アーティストなどへの楽曲提供、プロデュース、ギター演奏なども手掛けている。