今回の特集では、“高橋優×橋口洋平(wacci)×川崎鷹也”によるシンガーソングライター歌詞座談会をお届けします。メガネがトレードマークでビジュアルが似ていることでも有名な3人。お互いに作詞にまつわるトークテーマを持ち寄り、とことん語っていただきました。話していくなかで見つかった、ひとつの共通点とは…。歌詞人気の高い3人それぞれにとっての悩みや“自分史上最強ソング”、フィクションとノンフィクションのバランス、そしてこれから挑戦してみたい歌詞とは…。笑いあり、情熱ありのトークをじっくりとお楽しみください!
― メガネがトレードマークのシンガーソングライター“メガネの会”でも繋がりのある3人ですが、内面でも似ているところはありますか?
橋口:内面かぁ…。3人で話しているとき、僕と優さんはどちらかというと内省的で、鷹也くんは外交的という分け方はよくしますよね。
高橋:そうだね。大体は、橋口くんが「どうせ俺なんか…」的なネガティブなことをおもしろく話し始めて、話題が広がっていくんですよ。それに対して、僕はわりと「ああ、たしかにそうだよね」って共感を示す。でも光を射るように鷹也くんが、「いやいや、もっと前向きに行きましょうよ!」って。
川崎:俺ヤバいやつじゃないですか(笑)。
高橋:まあ、鷹也くんだって、ポジティブなだけではないと思っていて。ライブを観ていると、お客さんへのまなざしとかがたまに怖いときあるし(笑)。多分、何か湧き立つものがあるはずなんですよ。でも、彼は年齢的にも弟のように接してくれたりするので、「兄貴たちがそんな暗いことを言っているなら、俺が元気を出さんと!」と盛り上げてくれているところもあるのかもしれない。
― ちなみに、どんな「どうせ俺なんか…」を解決していくのですか?
高橋:橋口くん、最近の悩み何かある?
橋口:えー、満足していることはひとつもないですけれど…。とくに特別な悩みはない気が…。
高橋:本当? じゃあ僕から橋口くんのエピソードをひとつ話します。2025年初頭、1月4日ぐらいに橋口くんと革ジャンを買いに行ったんですよ。
川崎:いいなあー。
高橋:僕が着ている革ジャンを見て、「僕もそういうのが着たい」って言ってくれていたから、買いに行こうと。それで僕がよく行く革ジャンのお店に行って、いっぱい接客してもらって、たくさん試着もしたの。しかも橋口くん、似合っていたんですよ。
川崎:うんうん、似合いそう。
高橋:だけど、最終的に「買わない」って。
川崎:えー! それは橋口さん…。
橋口:違う違う違う…。革ジャンってすごく高いんですよ。俺は洋服にそんなにお金をかけてこなかった人生だから。まとまったお金も必要ですし。そのとき、他にもまとまったお金を使わなければいけない場面がいくつかあったんですね。だから、その場で革ジャンをその値段で買う勇気を持ち合わせていなかったというか。
川崎:だけど、革ジャンは一生着られるわけじゃないですか。
高橋:店員さんもそう言って接客していた。経年変化ね。
橋口:僕にはまだその概念がなかったし…。でもね、優さんも悪いんですよ。僕が青い革ジャンとか着ても、「最高に似合う!」とか言いながら、ずっと半笑いなんですよ。
高橋:カッコいいから微笑ましかったんだよ(笑)。あんなに迷っていたのに、今「とくに特別な悩みはない」なんて言うから寂しくて。最近、鷹也くんがめちゃくちゃカッコいい革ジャン着ているの、知ってる?
橋口:着てた。
高橋:うわー、先を越されちゃっているよ、橋口くん、って思ったよ。
川崎:俺も来年、一緒に買い物に行きたい。
橋口:どうせ鷹也くんは買うんでしょ? 悩んでいる俺の横で。
高橋:みんなで買いに行こう。今のは一例ですけど、ちょっとしたところで慎重な面が橋口くんと僕は似ているかもしれない。鷹也くんはわりとバーッて行けるもんね。
川崎:そうですね、あんまり慎重ではないかな。でも橋口さんはかなり慎重ですけど、優くんはふたりの間を取ったバランスタイプである気がします。慎重な面と勢いで行く面、どちらもある。それって多分、突き詰めていくとそれぞれの音楽性に行き着くと思うんですけど。そう考えると、意外と内面は3人とも似てないのかな。
― では、ここからは3人から事前にいただいた「トークテーマ」を投げていきたいと思います。まずは高橋優さんから、「話せる範囲で、めっちゃ具体的に歌詞の書き方を教えてください」との質問です。
高橋:僕の場合、毎日A4ノート3ページ分、何かしら書いているんですよ。
橋口・川崎:えー!?
高橋:話したことなかったか。
橋口:知らなかった。そんな量を?
高橋:何でもいいんですよ。いわゆる裏アカみたいなものです。自分の恥ずかしい気持ちとか、誰にも言えない本音とか、ひとり打ち合わせの内容とか、次のライブのセトリとかMCとか。しかも、毎日3ページも書いていると書くことがなくなっていくからこそ、自然と気持ちを掘り下げていける。その習慣がベースにありますね。自分の気持ちを俯瞰で見られる脳の代わり。そのメモが歌詞の引き出しになることが多いかな。橋口くんは?
橋口:曲によるんですけど、いちばん多いパターンは「いいかも」と思えるテーマかワンフレーズ、最初の一歩が出るまでひたすらパソコンの前に座って、考え続けるという手法です。家と喫茶店をはしごしながら。その“最初の一歩”が全体のイメージを連れてきてくれるものかどうか、明確に自分の中で○か×かの判断基準があるので、それが出るまで。あとは、日常生活で浮かんだことを、iPhoneのメモやボイスメモに残したりはするかな。
高橋:脳内で思考し続けるんだね。
橋口:うん。たとえば、「恋だろ」の一歩目は意外とサビではなくて。当時、オリンピックが開催されていて“世界ランキング”が出ていたんですよ。「じゃあ自分の世界ランキングは何位だろう?」みたいなことを考えて。それを恋愛に当てはめてみました。高嶺の花のような存在のひとに恋をしたらきっと、「相手はすごく上のランキングだけれど、自分は…」と思ってしまう。でも、誰かを好きになる気持ちに、世界ランキングは関係なくて。
高橋:そのとおりだ。
橋口:そこから<僕はこの世界で第何位で 君はこの世界で第何位だ>というフレーズが生まれて、上からバーッと書いていったんです。そういうスタートダッシュを決められる強いものを、どれだけ最初に出せるかが、歌詞を書く上では大事になっていますね。
高橋:鷹也くんは?
川崎:僕はメロディーと歌詞が一緒に出てくるパターンが多いんですよね。でも、湯船に浸かっているとき、ぼーっと運転しているとき、漠然としたテーマや言葉のニュアンスがパッと降りてくることはあります。信号機の色味からなんとなく物語が浮かんできたり。そこから着手していくとかかな。あと、他のアーティストの曲を聴いたときに、まったく別パターンの歌詞が思い浮かぶこともありますし。
高橋・橋口:あるある。
川崎:ああ、おふたりとも共感してくださっている。「自分ならこう書くだろう」みたいな。で、スマホのメモにいろんなフレーズをブワーって書いておいて、それをつなぎ合わせてまったく違う曲を作るみたいなやり方もありますね。
高橋:これもみんなで話したかったんだけど、「なんで今?」ってときに歌詞が出てくることない? 僕だったらジョギング中とか。もう寝るぞってベッドに入った瞬間とか。そこから天秤が始まるわけですよ。「どうしよう。もう寝てしまおうか。きっと今の俺のアイデアは明日の朝も覚えているだろう」みたいな。でも長年やってきたからわかるんだけど、絶対に忘れているわけ。橋口くんはどうしている?
橋口:眠いときに寝てしまう気持ちもわかりますけど、絶対にすぐ書き留めておくようにしています。でも僕、思うんです。「本当にいいフレーズだったら、翌朝も忘れないはずだろう」説って、実は関係ないんじゃないかなって。
高橋:マジ?
川崎:いや、俺も関係ないと思う。「このまま寝てしまって、もし覚えていたらこれは本当にいいフレーズなんだ。仮に忘れていたら、もともとダメだったんだ」って思いがちだけれど、実際はそんなことない。よかろうが悪かろうが、大体は寝たら忘れてしまうわけです。
橋口:おっしゃる通り。だからこそ、謎の説に甘えず、その瞬間にボイスメモを録らないといけないんですよね。まあそれがなかなかできなくて、流れてしまうことも何度もあるんですけど…。
高橋:ああ、橋口くんでも流れちゃうことあるんだ。俺、そういうのを聞くと安心するのよ。
川崎:ただ一方で、寝る寸前って極限のリラックス状態じゃないですか。そのときに思い浮かんだメロディーって、すでに他のアーティストの曲だったりするんですよ。
高橋:なるほどね! 思い浮かんだかと思いきや、思い出していただけみたいな。
川崎:そうですそうです。「忘れないようにしよう」と必死に覚えて寝て、翌朝、「覚えている!ということは、これはとてもいいメロディーなんだ!」って思って、歌詞もつけて、ボイスメモに録って。それを家族に聴かせたら、「いや、この曲は普通にコブクロさんだよ」みたいな(笑)。そりゃ忘れないし、いいメロディーだわ…、ということが僕は何度かあるので、やっぱりじっくり考えながら作ったほうがいいのかもしれないと思い始めています。
高橋:僕、もうひとつ聞きたいんだけど、3人ともいつどこで歌詞が浮かぶかわからないって話をしたじゃないですか。つまり気が休まってないわけよ。どうやって力を抜いている?
橋口:最近は、「こういうマインドのときに浮かびやすいな」という感覚がなんとなく自分のなかにあるので、あまり切羽詰まらないような時間も意識的に作るようにしていますね。曲作りをするときのような、「今日のことを思い出してみよう」とか、「どのネタが歌の第一歩になるか」みたいなことを、何も考えない。
高橋:へー、それは曲づくり以外のことで頭を満たすの?
橋口:うん、たとえば「明日は何を食べようかな」とか。でも意外とそういうときにこそ、「あの言葉が気になったな」とか、「そういえば僕はああ言ったけれど、相手に悪い気をさせちゃったかな」とか、素の自分の気持ちがふいに出てくるじゃないですか。結局はそういうものも歌の材料として大事だったりするし、自然体で言葉が出てくることはいいことだなと思ってて。だからこそ、曲づくりモードでオンの状態も、オフの状態も作るようにしています。
川崎:僕は歌詞から話が少しそれますが、テレビ局やライブで歌う時間をかなり特殊だと思っていて。とくに音楽番組の生放送って、待ち時間が多くて、ヘアメイクしてもらって、「じゃあお願いします!」って言われてパッと行ったら、もう何十台ものカメラが回っている。そして、「この3分間であなたの100%の力を出してくださいね。その姿が今、全国に流れています」という状況って、変じゃないですか。しかも、失敗は許されない。
高橋:うん、うん。
川崎:脳内ではいろんなものが分泌されて、いわゆるハイになっていると思うんですよ。それは自分のライブも同じですね。そして、出番が終わると、数秒後にはもう違うアーティストが歌っていて、僕はカメラマンさんにも忘れられている。楽屋に戻って、メイクを落として着替えて、スタッフのみなさんにお見送りしていただいてテレビ局を出て、タクシーに乗る。でも、家に帰ると奥さんに、「靴下は洗濯機に入れて!」とか普通に怒られるわけです(笑)。
橋口・高橋:ああー。
川崎:奥さんは、高校生のときの2歳上の先輩なんです。だから、僕がちょっと芸能人っぽいことをやって調子に乗りそうになっても、家の扉をひとつ開けたら“ただの後輩”の状態に戻る。それが自分にとって現実に帰る時間であり、気が抜ける時間だと思います。テレビに出た30分後に、ゴミ出しをしている。国際フォーラムでライブをしたあとに、奥さんと日高屋でご飯を食べている。そういう日常をずっと大事にしたくて。
高橋:鷹也くんにとってものすごく大事かもね。今、本当にいろんなところに出ているし、スタッフも一丸となって川崎鷹也というアーティストを全国に広めているときだから。中心の彼が背負うものたるや。だからこそ、ご家族と過ごす普通の時間って、リフレッシュになるんだろうな。
川崎:僕はそこを見失ってしまうと、多分、書く楽曲もあまりよくない方向に変わる気がします。
高橋:僕は奥さんいないけれど、似ているな。スーパーに行って、鶏むね肉をグラム単位で見て、「こっちのほうが安いな」とか「もう遅い時間なのにまだ20円引きのシール貼られてない」とか、日常生活のなかの細かいところで立ち止まるんですよ。それに、僕は自分のことを「すっごくよく歌う一般人」だと思っているの。
― 優さんは今年頭のインタビューでもそうおっしゃっていましたね。
高橋:それこそテレビ局に行こうものなら、もてはやされている感覚になりがちだけれど、しっかりその神輿を降りる時間がないといけないんじゃないかなって。しかも俺はひとりだから、全部ひとりでやらなきゃいけないわけ。「靴下は洗濯機に入れて!」って言ってくれるひとはいない。洗い忘れて、履くものがなくて、コンビニに靴下を買いに行ったりさ。でもそういう空回りさえ、意外とスイッチのオンオフになっているな。
橋口:おふたりの話を聞いていて、僕はむしろずっと生身というか、神輿を降りっぱなしだなと思いました。
― でも、橋口さんもかなりいろんなテレビに出ていらっしゃいますし、ライブもされていますよね。
橋口:だから毎回、体調不良ですね。「一般人だと思っている」んじゃなくて、一般人として出ちゃっている。
高橋:「ここは僕の居場所じゃない」みたいな。
橋口:うん、鷹也くんが言っていた、「この3分間であなたの100%の力を出してくださいね」みたいなのが本当に苦手で…。初めてMステに出る前日なんて、一睡もできなかったし。克服しなければと思っているんですけどね。そういう意味でも、日常の状態のほうがずっと長いし、大事かも。
高橋:俺たち内面は似てないと思っていたけれど、ひとつ共通点がありましたね。アーティスト・芸能人の視点に染まり切ってない。ある種、普通。日常が大事というところ。



