忘れようとする度、僕らはそれらの過去と出会わなくてはいけない。

saji
忘れようとする度、僕らはそれらの過去と出会わなくてはいけない。
2023年6月16日に“saji”がNew Digital Single「スターチス」をリリースしました。タイトル曲は、TVアニメ『Helck』第1クール エンディングテーマです。誰かにとって永遠であることを誓ったミディアムバラード。さらに7月1日には「フラッシュバック」をリリース。こちらはTVアニメ『AYAKA - あやか -』エンディングテーマであり、己の弱さや過去と対峙し、前に進む決意を込めたダンサンブルな1曲となっております。 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“saji”のヨシダタクミによる歌詞エッセイを2ヶ月連続でお届け!今回は第2弾です。綴っていただいたのは、新曲「フラッシュバック」にまつわるお話。どうして人間は厭なことほど思い出してしまうのでしょうか。それを思い出すことにどんな意味があるのでしょうか…。また、今回も音声版がございます。本人の朗読でもエッセイをお楽しみください。 人間は厭なことほど思い出してしまうという。 これは古くから云われてきていることであり、化学的にもある程度裏付けがされているそう。 そもそも人間の脳というのは、目にした耳にした情報をすべて一時保存する性質があり、 その上で留めておく必要があるもの、削除しても良いものを無意識のうちに選別している。 これは何故かと言うと、脳の仕組みとして古い情報よりも新しい情報を常に収集することに特化しているからだ。 新しくて有益な情報を得ることで人間は生存競争で勝ち抜いてきた。 トライ&エラーの果てに僕たちは 言葉を得、武器を得、文明を得たのだ。 ちなみに人間以外の生き物でほぼ唯一、 音の組み合わせを持つのは鳥だけだそう。 鳥の場合、求愛のためだけにさまざまな鳴き声やジェスチャーを組み合わせて発信する。 目的以上のことに何故特化したのかというと、過剰なエネルギーの表現をすることで 他の鳥よりも子孫を残せますよ。生命力が高いですよ。という事をメスに伝えようとしているのだ。 この“伝える”という言葉。 僕は昔からとても深く、そして難しい言葉だなと思っている。 人に心を届ける と書いて 伝心 心というものは自分ですら見えないものなのに、それを誰かに届けようとするのだから、 理解を求めること自体がそもそも間違いである気もする。 だが僕ら人間は、思いを共有することで今日まで生きてこられた。 人が人と過ごすには理由が要る。 家族、恋人、友人、仕事仲間 それが例えか細い糸だとしても、 自らと誰かを結ぶものによって僕らは生き合っている。 その結ぶ糸こそが言葉であり、心なのだと僕は思う。 すなわち伝えるとは、糸を紡ぐ行為なのだ。 話が大分横道に入ってしまったが、 今回の主題であるフラッシュバックとは 心の傷跡、心に刻まれた傷であり、 記憶である。 冒頭でも書いた通り 人間は厭なことほど忘れ難い。 これは何度も何度も思い出してしまうことにより、大切な記憶として脳がより深くより堅牢な引き出しにバンクしてしまうから。 忘れようとする度、僕らはそれらの過去と 出会わなくてはいけない。 人間は新しいものを手に入れることで 困難を乗り越えてきた生き物であるから、 昨日を越える為に僕らは過去を背負わなくてはいけないのかもしれない。 傷は消えずとも癒えぬことはない。 明日へ期待して生きることもまた 人間という生物としての正しき本能であると僕は思っている。 <saji・ヨシダタクミ> New Digital Single「スターチス」 2023年6月16日発売 New Digital Single「フラッシュバック」 2023年7月1日発売