2023年7月5日に“Panorama Panama Town”が2ndフルアルバム『Dance for Sorrow』をリリース!今作は約4年ぶりのフルアルバム。EP『Rolling』以降の作品からセレクトした楽曲と新曲含む全12曲を収録したフルアルバムとなっております。
さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Panorama Panama Town”の岩渕想太による歌詞エッセイをお届け。今回は【前編】です。綴っていただいたのは、今作の『Dance for Sorrow』というアルバムタイトルにも通ずるお話。なぜひとはダンスをするのでしょうか。たとえそれが気味の悪い場所だとしても、なぜそこに惹かれてしまうのでしょうか…。
雑踏、夜のパブ。
まばらだが、それなりに多くの人が音に乗って揺れている。
タバコの煙に満ちた店内は奥まで見渡すことができず、奥の方では何か怪しげな男女がくっついている。
カウンターでお金を払い、ウイスキーソーダ割りを頼む。
安いウイスキー特有の頭蓋骨に響く味だ。
「どこから来たの?」とは尋ねられなかった。
そんなこと尋ねたくなる連中が、他にもゴロゴロいるからだ。
流れている音楽は、ハウスミュージックのようだが、ローが強調されすぎている。
軋む窓。揺れるウォッカのボトル。
四方八方、トイレの個室に至るまでキックの4つが支配して、会話を挟む隙がない。
趣味の合わない女と乗るレンタカーみたいだ。
「初めまして」とか「いい天気ですね」といった会話の修飾部は、音に飲み込まれ、「おい!」とか「やあ!」と言った本質だけが残る。
ここにいる人々は皆その二語を使って会話をしているようだ。
「やあ!」と刺青の入った大男に背中をどつかれる。
「誰ですか?」とか「何してる人ですか?」とか聞ける訳もないので、私も精一杯の「やあ!」を返す。
ニコッと笑いながら、ビール瓶を渡される。
ありがたく受け取り、ウイスキーを持ってない方の手に瓶を握る。
何やってるかは知らないが、悪い奴じゃなさそうだ。
両手が埋まり、タバコが吸えないので適当なテーブルを探す。
店内に4つだけある樽でできたテーブルはどれもグラスの水で濡れていて、こんなところで確定申告をしたくはないなと思う。
椅子に腰掛け、グラスを置いて、アメリカン・スピリットに火をつける。
アメリカの精神、という名前のタバコを強く吸い込む。
吐き出した煙はどぶ色のため息だ。
ウイスキーの角張った酸味とキックのローが頭の中で混ざり合っていくのを感じる。
新しいカクテルみたいだ。
鈍痛に支配された脳内が、少しずつ気持ち良くなる。
流れている音楽の、シンセサイザーが、丸っこいベース音が、安っぽい注射針に刺されたように、徐々に体の中に入ってきて、ビートを奏でる。
ダンスの時間だ。
俺は今日これをやりに、こんな気味の悪いところにやって来たんだ。
音に揺られる。会話は要らない。
皆、今日これをやりに、こんな気味の悪いところにやって来ている。
そう思うと、途端に周りの奴が愛おしく見える。
音に揺られる。会話は要らない。
皆、それぞれの虚しさと闘争し、逃走しながらここまでやってきた。
俺もそういったところだ。愛おしく見えるだろうか。
朝まで踊る約束をした。
誰にしたわけでもない。帰りたくなったら勝手に帰る。
流れている音楽は最悪だ。ローが強調されすぎてるところが特に悪い。
こんなことは決して美しくはない。
再現性がない。なのに人を惹きつける。
蛾のように集まり、光が消えれば解散する。
そしてそれは、安いウイスキーを飲みたくなることと似ている。
<Panorama Panama Town・岩渕想太>
◆2ndフルアルバム『Dance for Sorrow』
2023年7月5日発売
<収録曲>
01.Run
02.King's Eyes
03.Rodeo
04.Black Chocolate
05.SO YOUNG
06.Cranberry, 1984
07.Melody Lane
08.Bad Night
09.Faceless
10.Sad Good Night
11.Strange Days
12.Knock!!!