私は「顔を合わせてあなたと話がしたい」と叫んだ。

2021年11月24日に“Panorama Panama Town”がミニアルバム『Faces』をリリース!アルバムタイトルには、1曲1曲それぞれをバンドの顔にしたいと言う思いが込められている今作。FODドラマ『ギヴン』主題歌「Strange Days」ほか、劇中バンド“the seasons”への書き下ろし楽曲「Melody Lane」のセルフカバーを含む全7曲が収録されております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Panorama Panama Town”の岩渕想太による歌詞エッセイをお届け!今回は【前編】です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「Faceless」に通ずる想いです。ときに枠組みの中に、人間を押し込めてしまう。ときに枠組みから、人間をはじき出してしまう。それはどんな言葉なのでしょうか…。



「キャラ」という言葉が苦手だ。
 
こんなこと何億年も言い続けてることだけど、「キャラ」という言葉を聴くたびに、強烈な居心地の悪さを感じる。
 
「あいつは天然キャラやから」
「そんなこと言うのキャラじゃないなー」
 
耳にする度に、何か大切なものが音を立てて崩れていく気がする。「キャラ」という言葉は「天然キャラ」の枠組みに入れなかった「あいつ」の中身をズタズタに切り刻んでいく。
 
小学校の頃、家庭科の授業でやった人参の型取り。花びらの形に切り取られた人参はとても綺麗で、その形から溢れた部分はチラシで作られたゴミ箱の中に捨てられていった。「キャラ」という言葉は、花びらの型だ。「天然キャラ」として生まれてくる人間なんかいない。花びらの形で生えてくる人参が存在しないように。
 
 
 
レヴィナスという哲学者が言う。
 
「顔は常に『汝、殺すなかれ』と訴えている」
 
大学受験のために開いた倫理の参考書の中に書かれていた言葉が、当時は全く理解できなかった。他者の「顔」は傷つきやすく殺人を誘惑するが、それによって我々は殺人を禁じられてもいるらしい。あまりの突拍子もなさに高3の私はそっと参考書を閉じ、「レヴィナスと出てきたら顔」と言うセンター試験特有の暗記法によって思考を放棄した。ただ、今になってみるとほんの少しだけ分かるかもしれない。「顔」は絶対的に他なるものとして、ただそこにある。私を拒絶しながら。
 
フランスの哲学者の発言をこう言い換えてみる。
 
「顔は常に『人参を花びら形に切り抜くなかれ』と訴えている」
 
 
 
Faceless」と言う曲を作った。「Face」が「less」で、つまりは「顔がない」ことについて歌った曲だ。何十行に渡る歌詞の中で、私は「顔を合わせてあなたと話がしたい」と叫んだ。コロナ禍で、「ライブハウスが感染を広げている」「若い世代が感染を広げている」と名指しされる時、その言葉の中に顔はなかった。何千通りの生活と、何千通りの考え方と、何千通りの表情が、たった何文字かの「主語」に入りきれずに零れ落ちていた。私はただただそれが悲しくてしょうがなかった。
 
ただ、ここにある顔たち。4つの顔を付き合わせてバンドをやっている。北海道十勝の畑で土に埋まった人参のように、ただここにいるということをどうしようもなく歌いたかった。

<Panorama Panama Town・岩渕想太>



◆Mini Album『Faces』
2021年11月24日発売
 
<収録曲>
1.King's Eyes
2.Strange Days
3.100yen coffee
4.Faceless
5.Seagull Weather
6.Algorithm
7.Melody Lane

Panorama Panama Town One-man Live 2021-2022 "Face to Face"

・2021年12月11日(土)

兵庫・クラブ月世界
開場17:15 / 開演18:00

・2022年1月14日(金)
東京・東京キネマ倶楽部
開場17:15 / 開演18:00