恋慕について

 2023年5月10日に“クジラ夜の街”がメジャーデビュー1st EP『春めく私小説』をリリースしました。今作には、ライブでもすでにファンからも 大反響のダークファンタジーな世界観を描いたEPリード曲「BOOGIE MAN RADIO」を含む全6曲が収録!
 
 さて、今日のうたコラムでは、“クジラ夜の街”の宮崎一晴による歌詞エッセイを3回に渡りお届け! 第2弾は収録曲「ハナガサクラゲ」にまつわるお話です。好きなひとに告白しなかった、想いは伝えないことにした、そんな恋の選択を取ったあなたへ。歌詞と併せて、このエッセイを受け取ってください。



本当に、つまらないなって思います
 
恋って無尽蔵じゃないです
想えば想うほど心がすり減っていきます
喉の奥がぎゅうっと痛み
瞳が熱くなって
日常のあれこれも手につかなくなります
 
やがて恋心は、見返りを求めるようになります
「こんなに好きなんだからちょっとは気にかけて欲しい」と
純粋だった気持ちに欲望が寄生して、それがどんどん膨れ上がっていくんです
 
ずっと眺めているだけは嫌
話しかけてみたい
もっと仲良くなりたい
触りたい
一緒にいたい
一緒にいたいって思われたい
 
熱は留まることなく迸っていきます
対象に近づけば近づくほど抑えられなくなります
最初は素直な好意だったのに
気づけば肥大化した承認欲求に支配されているのです
それは悍ましく、同時に苦しい
自分が自分でなくなっていく感覚すらあるでしょう
このままでは好きという感情すら飲み込まれてしまう
それだけは避けたい
ダメになる前にこの気持ちを早く伝えなくては
葛藤の末
A子は遂に胸中を曝け出した
 
A子「実はB男クンのこと、ずっと好きでした。付き合ってください」
 
戸惑うB男。数秒の沈黙。A子にはそれが永遠にも感じられた。紅潮する頬。それはB男も同じであった。
 
B男「実は俺も…A子のことが好きなんだ」
 
A子「私たち、両想いってこと?」
 
B男「そうだ。俺たち、付き合おう」
 
A子「もちろん!」
 
チャンチャン♪
 
本当につまらないなって思います
本当に本当につまらないなって思います
両想いほどときめかないものって無いわ正直
 
俺は、恋慕なんて秘めておけば秘めておくほど良いと思っている片想い過激派です
元も子もないこと言いますけど
交際の申し出って、エゴじゃないですか?
「見返りが無いまま恋心を保つのがしんどいから、一緒にいてほしい」
ってことですよね要は
 
その程度なのか君の気持ちは、と思います
人からの承認がないと、好きでいるのもままならないと?
そんなの真実の愛じゃないだろ
いやさっきから俺がヤバいのは承知の上ですけどね
こんなことがまかり通ってたら
世にカップルなんて1組も成立しないですから
 
ただ、作品内で(あくまで作品内で)俺は
そういうのより、叶わなかった想いの方を尊重したいという話
真に美しいのは、もがき苦しみながらも紡ぐ、手の届かぬ人への恋
秘めたる純情、だと考えているから
 
「告白をしなかった」あなたを、俺は肯定するよってこと
「伝える選択を取らなかった」あなたは情けなくなんかない
その気高さは誰よりもよくわかるよってこと
 
溢れる気持ちの整理がつかなくて
君の住んでる街まで行ってみるけど
君に会いに行くことはしない
それくらいの距離感で
織りなす片割れの恋を書きました
 
ハナガサクラゲという曲をお聴きください
 

<クジラ夜の街・宮崎一晴>



◆紹介曲「ハナガサクラゲ
作詞:宮崎一晴
作曲:宮崎一晴

◆メジャーデビュー1st EP『春めく私小説』
2023年5月10日発売
 
<収録曲>
1. 時間旅行 (Prelude)
2. 時間旅行少女
3. BOOGIE MAN RADIO
4. 浮遊 (Interlude)
5. ハナガサクラゲ
6. 踊ろう命ある限り