生きることはwithしていくこと。

 2023年5月17日に“吉田山田”が9枚目のオリジナルアルバム『備忘録音』をリリース!2021年12月発売の『愛された記憶』以来、およそ1年5カ月ぶり。交流あるアーティストたちを迎えることで多様なコラボ曲を収録した前作と異なり、今作は吉田山田の2人が主体となってさまざまな表現に挑戦した意欲的な内容のアルバムに仕上がっております。
 
 さて、今日のコラムではそんな最新作を放った“吉田山田”による歌詞エッセイをお届け。今回が最終回です。吉田結威と山田義孝にそれぞれ今作の収録曲「音楽」にまつわるお話を綴っていただきました。さらに今回は音声版もございます。おふたりの朗読でもエッセイをお楽しみください…!


吉田結威の朗読を聞く

吉田山田9枚目のアルバム『備忘録音』は2022年に制作した曲のみで構成されたアルバムです。
 
世の中は脱コロナからwithコロナへと切り替わっていく、そんなタイミングでした。僕は内心、「そんなこと言ったらなんでもwithじゃん」と思っていました。人間の力ではどうにもならないことはコロナウイルス以外にもたくさんあって。いつだって僕らは「克服」し切れない、割り切れない様々なことを抱えながら、“with”しながら逞しく生きているんだと思います。
 
音楽の中には解決法はないかもしれない。でも、とりあえず目の前の一歩を踏み出す力を、自分が生きていることを肯定出来る一瞬をくれると僕は思っています。
 
振り返ってみると、今回のアルバムのいろんな曲の中に“生きる”という言葉が出てきます。意識して書いたわけではないので、それに気付いた時は2人とも驚きました。「“生きる”をテーマにアルバムを作ろう!」なんて最初に掲げていたら多分1曲も作れなかったかもしれません。それぐらい壮大で、取っ掛かりを見つけることさえ難しいテーマです。
 
“生きる”ことなんて、普段は考えなくてもいいんです。答えなんて出さなくてもいいんです。でも人は立ち止まった時、良くも悪くも“生きる”ことを考えてしまうんですね。「音楽」というこの曲はまさに生きることを歌った曲です。現時点で僕らが考えうる“生きる”の全てとは言えないけど、そのほとんどが詰め込まれた一曲です。
 
今後こんなに真っ直ぐな曲はなかなか作れないんじゃないかなと思っています。この曲の中で僕が1番気に入っている部分は、Bメロから入ってくる手拍子です。ここには最初、手拍子ではなくてドラムのスネアの音が入っていました。そのスネアの音を手拍子に変えた時、この曲で僕が表現したかった“生きるということ”は完成されたと思いました。
 
生きることはwithしていくこと。withせざるを得ないこと。でもそのおかげで救われることもあること。そんな悲喜交々を繰り返しながら、時間に背中をグイグイと押されながら歩いていくことが生きることなのかなと今は思っています。
 
<吉田結威>
 

山田義孝の朗読を聞く
世の中には音楽が溢れている。
音が溢れている。
溢れているというか、
「音の中で生きている」と感じる。
 
10年くらい前、地方の移動中の電車内、1人の目の不自由なおじいさんが僕の隣に座った。
白髪でよく喋る方だった。
ものすごく話しかけられた。
でも、それがとても心地良くて20分くらいお話をさせてもらった。
おじいさんは普段東京へ1人でよく出かけるという。
中でも渋谷が大好きだと言っていた。
 
白い杖を頼りに歩くおじいさんに、僕は「渋谷はうるさくないですか? 危なくないですか?」と質問した。
おじいさんは嬉しそうに答えてくれた。
「沢山音がある場所が好きなんだ。その音一つ一つが人が生きている証だから。それを聴くのが好きなんだ。」
そんな素敵な返しをされた。
 
素敵な言葉の裏に日常の静けさと淋しさを勝手に想像してしまったけれど、よく笑う素敵なおじいさんだった。
あのおじいさんには音楽はどんな風に聴こえているんだろう。
自分とは違う感覚で聴こえているに違いない。
名前もわからないおじいさんだけど、いつか何処かの街で僕等の音楽が耳に届いていたら嬉しい。
 
音の中で生活をしていて、ふと思い出す人がもう1人。
 
何度もライブに足を運んでくれる家族がいて、その中の1人の女性は耳が聞こえないようで、家族が手話で歌詞やMCをその女性に伝えてくれている。ステージからそんな光景が見えて考えさせられた。
 
彼女にはどんなメロディが届いているんだろう。
スピーカーから伝わる音の震えや地面から伝わる響き、目から入る光の波、動く口元や表情。
きっと彼女にしか感じられない音楽があるんだと思う。
いつも嬉しそうに、楽しそうに笑っている。
 
LIVEって良いなと思う。
自分の知らない世界を一人一人が観ていて、
自分の知らない音を一人一人が感じている。
ステージと客席、なかなか触れられはしないけどいつも感謝を込めて唄っている。
できる事ならこの歌声がいつまでもあなたを抱きしめますようにと願っている。
 
音楽は目に見えないお守りに似ている。
 
<山田義孝>


◆紹介曲「音楽
作詞:吉田山田
作曲:山田義孝

◆9th ALBUM『備忘録音』
2023年5月17日発売
【ボーナストラック盤】¥3,300(税込)
 
<収録曲>
1. Monster
2. YADANA
3. 人間
4. 東京
5. こんな夏はいやだ
6. 日曜日
7. 焼き魚
8. 裸
9. 夜な夜な
10. もしもの話
11. 音楽
ボーナストラック. 最後の歌