「嫌だな!」って叫びたくなった。

 2023年5月17日に“吉田山田”が9枚目のオリジナルアルバム『備忘録音』をリリース!2021年12月発売の『愛された記憶』以来、およそ1年5カ月ぶり。交流あるアーティストたちを迎えることで多様なコラボ曲を収録した前作と異なり、今作は吉田山田の2人が主体となってさまざまな表現に挑戦した意欲的な内容のアルバムに仕上がっております。
 
 さて、今日のコラムではそんな最新作を放った“吉田山田”による歌詞エッセイをお届け。今回は第2弾です。吉田結威と山田義孝にそれぞれ今作の収録曲「YADANA」にまつわるお話を綴っていただきました。さらに今回は音声版もございます。おふたりの朗読でもエッセイをお楽しみください…!


吉田結威の朗読を聞く
今年2023年の10月21日で吉田山田はデビュー14周年を迎えます。
デビュー当時に立てた、“とにかく10年続ける”という目標を達成することができ、たくさんの方々の支えのおかげで今もなお活動を続けることが出来ています。
 
ありがたいことに僕らは出逢いにも恵まれていて、デビュー直後からお世話になっている人が今も色んな形で応援し続けてくれています。そんな人達に新しい作品を届けられる喜びはいつだって格別です。
 
その中の一人、あるラジオパーソナリティの方が吉田山田9枚目のアルバム、『備忘録音』を聴いて、こんな感想を伝えてくれました。「吉田山田のイヤイヤ期が始まったのかもしれない」。
 
この感想を聞いた時、使い古した、使い慣れた、少し手垢のついた鏡を突然ピカピカに拭きあげられ、その鏡を見つめて久々に鮮明な自分と目が合ったような気がしました。前回のコラムで書いた「焼き魚」の中にも<ヤダ!ヤダ!ヤダネヤダネ!>という歌詞が出てくるし、今回なんてもはや曲のタイトルが「YADANA」ですからね。
 
どちらの曲も山田発信で作られた曲ですが、今にして思えば、僕がデモを聴いて最初に気に入ったのは、その“イヤイヤ期”の部分でした。普段あまり愚痴もこぼさない、弱音も吐かない、そんな山田が曲の中に込めた本音。
 
でも多分山田は、ただただ本音を吐き出したかっただけではないんじゃないかなと僕は思っていて。コロナ禍で、様々な人がそれぞれの立場で抱えていた鬱憤や不安。人と人が触れ合えないストレス。漠然とした猜疑心。
 
なんとなくそんなネガティブなものが空気中を漂って、世界を暗くしていたあの頃に、きっと山田は無意識に不特定多数の誰かに寄り添っていたんだと思います。現に僕もこの曲を聴いた時、胸に刺さったのはどこかで自分が救われたからじゃないかなと思っています。
 
言葉も音楽も本当に不思議で、直球で励まされた方が元気になることもあるし、「YADANA」のように、そこに込められたネガティヴさが人を救うこともあるんです。
 
<吉田結威>
 

山田義孝の朗読を聞く
出来るだけネガティブな言葉は口にしない方がいい。
どんなに最悪な出来事も視点を変えて角度を変えれば『良い所』が見えてくる。
どんな問題も自分の捉え方次第。
 
人間関係の拗れは自分のモノサシで相手を測ろうとするから起こる。
だれも隣人を傷つけたり、不快な思いをさせようとして生きている訳じゃない。
それぞれの大事にしている正しさや憧れや理想がある。
それがたまたま自分と合わなかっただけ。
もしくは、今日はたまたま思いもよらないアクシデントが重なって心の余裕が無くなってしまっていただけかもしれない。
 
相手に『こうあって欲しい』という期待をすればするほど落ち込んだり、苛立ったり、距離を感じたり、勝手に裏切られた様な気持ちになる。
 
人間なんて誰しもそんな立派なものじゃない。
そんな強い生き物じゃない。
弱いし、醜いし、恥ずかしいし、愚か。
そう頭の中で言い聞かせていれば、苦手な人間に対してきっと寛大な心で接することができるはず。
 
そして、もしかするとそんな中で相手も自分自身を見つめ直すきっかけになって良い変化が生まれるかもしれない。
 
大抵の事は想像力で良い方向に変えていける。
人生は死ぬまで修行だと誰かが言う。
どんな困難も自分に与えられた試練で、一つ一つそれを受け止め乗り越えていく事で心は少しずつ少しずつ磨かれて輝き、そしていつの日にか、揺るがない心で、日々穏やかに生きていけるのだ。
 
 
小さい頃から親にそんな言葉を沢山叩き込まれてきた。
そのお陰で割と穏やかな心でこれまで生きてこられた。
約3年前コロナ禍に入った。
どうにもこうにも収まらない感情があった。
頑張っている事すらなんだかアホらしく思えた。
大声で叫びたくなった。
「嫌だな!」って叫びたくなった。
口に出してみたらメロディが付いてきた。
身体がリズムをとっていた。
気がついたら『あぁめんどくさっ』と歌になっていた。
この曲の歌詞にはほぼポジティブな言葉は入っていない。
なのに、この曲が希望の歌に聴こえるのは何故だろう。
頭に浮かんだのは「やだな!」と吐き出しながらも一歩前に足を踏み出している男の姿だった。
 
<山田義孝>


◆紹介曲「YADANA
作詞:吉田山田
作曲:山田義孝

◆9th ALBUM『備忘録音』
2023年5月17日発売
【ボーナストラック盤】¥3,300(税込)
 
<収録曲>
1. Monster
2. YADANA
3. 人間
4. 東京
5. こんな夏はいやだ
6. 日曜日
7. 焼き魚
8. 裸
9. 夜な夜な
10. もしもの話
11. 音楽
ボーナストラック. 最後の歌