愛された記憶。

 2021年12月1日に“吉田山田”ニューアルバム『愛された記憶』をリリースしました。吉田山田初の試みとして兼ねてから親交のあるアーティスト、wacci、チャラン・ポ・ランタン、→Pia-no-jaC←、ワタナベタカシ、木田健太郎(リアクション ザ ブッタ)とのコラボ曲が収録。全11曲入りのアルバムとなっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“吉田山田”の吉田結威と山田義孝による歌詞エッセイを3日連続でお届け。今回は最終回。綴っていただいたのは、今作の収録曲であり、アルバムタイトル曲である「愛された記憶」のお話です。それぞれが持つ「愛された記憶」から生まれたこの曲。みなさんにとっての大切な景色は何ですか? 是非、歌詞と併せてエッセイをお楽しみください…!



いつも通りには活動できなくなった世界で、よく思い出していたのは昔のことでした。僕らはミュージシャンとして、ラジオやテレビで、そしてステージの上で「愛される」ことで自分の居場所を見つけ、十数年生きてくることができました。生きていくにはどこかに居場所が必要で、居場所となるのは愛される場所です。今思えば、僕らは失われてしまった居場所を補完するために、思い出の中を旅したのかもしれません。
 
この曲に出てくる世界は、僕の中では小学校時代の自分の見ていた世界です。僕が昔のことを思い出す一番のきっかけはいつも匂いです。季節が変わる時の匂いや、夕方の匂い、雨上がりの匂い、どこかの家の煮物の匂い、タバコの匂い、洗濯物が乾いていく匂い。
 
だからこの曲は「匂い」から始まります。匂いをきっかけに思い出す記憶はいつも断片的で、ハッキリといつのどこの誰との思い出なのかは分からないことが多いですが、何故か無性に涙がこぼれそうになることがあります。
 
過ぎ去ってしまった時間を想ってなのか、もう会えなくなってしまった人のことを想ってなのか、似たような季節の似たような時間帯になにか悲しいことがあったのか。それは定かではありませんが、思い出すのはいつもそんな少し寂しく、どこか物足りない感情です。でもそんな感情が鉤爪となって、心のどこかに引っ掛かるから思い出として残るのかなとも思います。だから思い出した時、少しチクッとするのかもしれません。
 
この曲を作って分かったことは、人は愛されているその時は、愛されていることになかなか気付けないということ。大体は後になって、「ああ、あれは愛だったんだな。」と気付くものなのかもしれないと思いました。即効性はないかもしれないけど、でもだからこそ「自分の居場所がない」と感じてしまった時に、いつでも思い出の中に自分の居場所を見つけることも出来るんだと教えられました。
 
<吉田結威>
 

陽が沈むのが早くなる頃だと、新宿の夕方のチャイムはたしか4時半だった。ぼくが小さい頃、両親は共働きで小規模な商店街でお惣菜屋さんをやっていたから、大体いつも1人で近くの小さな公園で遊んでいた。4時半になると『夕焼け小焼け』のチャイムが鳴って公園からだんだんと人がいなくなる。空がオレンジとピンクを滲ませたような鮮やかな色からだんだん淡く暗い色に変わっていく。
 
母親が迎えに来てくれるのが遅い日はチャイムの音がとても寂しく、そしておどろおどろしく聴こえた。誰もいなくなった途端、ブランコも鉄棒もジャングルジムも急にただの冷たい鉄のカタマリに思えた。「遅くなってごめんね!」と走る母親にしがみついて泣きそうになったのを覚えている。
 
「愛された記憶」を思い返す時、温かさだけじゃなくてそこには寂しさがついてくるのは何故なんだろう。ぼくだけだろうか? きみもそうなんだろうか?
 
先日、僕等はデビュー12周年を迎えた。10周年の節目を越えて一つの区切りとしてベストアルバムをリリースした。そして、その日に緊急事態宣言が発令され、全てのライブやイベントが中止になりCDショップが営業を停止した。たっぷりと出来た時間の中でゆっくりと曲を作っていった。自分の心を整理するように湧いてくるメロディや言葉を沢山の曲にした。
 
世の中の状況に反して、穏やかな歌詞が多く出てきた事に自分自身少し驚いた。アルバムのタイトルを決める時、相方から“『愛された記憶』はどうかな?”と案が出た。とてもしっくりきた。それから「愛された記憶」という曲をそれぞれの原風景を重ねながら2人で作っていった。
 
台所から聴こえる母親の鼻歌。
公園の冷たい鉄棒。
風で揺れてる洗濯物。
父親の背中で寝たふりをした事。
 
鮮明に覚えている記憶の殆どが特別な1日ではなくて、何気なく眺めた平凡な風景だった事を不思議に思う。
 
言葉に変えなかった気持ちはいつまでも残り続けるものなのか。それとも言葉に変えたかった気持ちがいつまでも残り続けているのか。それはわからないけど多分ずっと忘れない。ただ、曲を作りながらはっきりした事がある。
 
歌を好きになった理由も
今日まで唄い続けている理由も
そして明日からも唄い続けていく理由も
全部「愛された記憶」の中にあるという事。
 
<山田義孝>



◆紹介曲「愛された記憶
作詞:吉田山田
作曲:吉田山田

◆8th ALBUM『愛された記憶』
2021年12月1日発売
通常盤(ボーナストラック入り) PCCA-06086 ¥2,970(税込)
 
<収録曲>
M1. 世界が変わる
M2. ひとつぶ 
M3. こんがらがって
M4. 才能開花前夜  
M5. 好き好き大好き
M6. グレープフルーツ
M7. 鳥人間になりたい
M8. おばけ
M9. それでも
M10. 愛された記憶
M11. てと手
BONUS TRACK. イ~ハ~