僕が描きたかった「て」と、山田が描きたかった「手」。

 2021年12月1日に“吉田山田”ニューアルバム『愛された記憶』をリリースしました。吉田山田初の試みとして兼ねてから親交のあるアーティスト、wacci、チャラン・ポ・ランタン、→Pia-no-jaC←、ワタナベタカシ、木田健太郎(リアクション ザ ブッタ)とのコラボ曲が収録。全11曲入りのアルバムとなっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“吉田山田”の吉田結威と山田義孝による歌詞エッセイを3日連続でお届け。今回は第2弾。綴っていただいたのは、今作の収録曲「てと手」のお話です。二人がステージから見て、強く印象に残っていたとある光景。一体それぞれどんなことを感じたのでしょうか。是非、歌詞と併せてお楽しみください。



山田がデモを作ってきてくれて、最初に聴いた時から気に入っていた曲でした。47都道府県ツアーの香川公演でステージから見えた光景から発想して作ったことは、一聴して分かりました。
 
手を握りあう親子のことは僕もよく覚えています。僕はその親子を見た時、少し羨ましい気持ちが残りました。親御さんに対してではなく、仲良く手を繋いでいるその子どもの方に羨ましさを感じました。自分はあと何回、親の手を握ることができるでしょう。恐らく、片手で数えられるか、多くても両手で数えられる程度じゃないかなと思ったら、なんだかその親子を取り巻く状況や、空気感がとても羨ましく思えたのです。
 
元々山田が作ってきたデモは、どちらかといえば親側に感情移入した歌詞でした。完成した作品の1コーラス目はほぼ原形から変えていないので、歌詞を見ていただければ分かると思います。
 
しばらく「いい曲」として保存していたこの曲でしたが、ある日「あ、この曲に子ども側の気持ちも盛り込めたら完成するかもしれない」と思いつきました。しかも、僕は山田と同じ光景を目にしても自然と子ども側に感情移入していたので、自分ならスッと書けるんじゃないかなと思い、2コーラス目の制作を任せてもらえないかとお願いしました。そこからは思ったとおりスラスラと書き上げることができて完成に至りました。
 
47都道府県ツアー等に出掛けると、食べるものも寝る時間もお風呂に入る時間も目にする風景も大体同じです。それでも感じることがそれぞれ全然違うところを楽しめるようになったら、それなりに素敵な2人組なのかな、なんてことを思いました。一人の想いを一貫して深く掘り下げて作る曲も、もちろん素晴らしいですが、別々の視点を持った2人で一つの作品を作ると、こんなに面白いこともあるんです。
 
僕が描きたかった「て」と、山田が描きたかった「手」、両方の視点からこの曲を楽しんで下さい。
 
<吉田結威>


吉田山田の作品の中に2013年にリリースした「日々」という曲がある。幼い頃に共働きだった両親の代わりによく遊んでもらっていた、近所の畳屋のおじいさんとおばあさんの日常を切り取って歌にしたもの。NHK『みんなのうた』で放送となったこの曲をきっかけに、沢山の方々が家族でライブに来てくれるようになった。
 
ライブでは必ず「日々」を唄った。
 
何千回唄っても飽きる事が無いのは、ステージから見える様々な家族の風景が重なると、また新しい曲に生まれ変わるからかもしれない。親子三世代それぞれ違う歌詞で涙している家族。人生で初めてライブを観に来たという老夫婦。小さな子供を肩車して聴いているお父さん。ステージから見える沢山の表情に何度も泣きそうになるのを堪えながら唄った。
 
ある日のライブ、並んで座っている小さな男の子とお母さんが目に入った。「日々」を唄い始めた時、お母さんが男の子の手をぎゅっと握りしめながら聴いてくれていた。唄いながら暫くしてまた目をやるとお母さんが大粒の涙を拭っていた。隣に座っている男の子は心配そうな顔でチラチラと母親の顔を見ていた。もしかしたらあまり見た事のない母親の涙だったのかもしれない。少し気になりながらも想いを込めて唄を届けた。
 
唄い終わった後にもう一度2人を見ると、男の子が小さな手で包み込むようにお母さんの手の上に手を重ねて握りしめていた。「お母さん大丈夫だよ」と男の子の声が聞こえてくるような、そんな表情だった。ステージを降りてからも、家に帰ってからも、数日経ってもその2人のやり取りが焼きついていた。
 
繋がっていた2人の手。
「守られていたのはどっちなんだろう」
そんな事が気になった。
 
「守っているようで 守られていて 守られているようで 守っている」
いつかその手が離れる時が来ても、温もりはずっと手の平に残っていて、寄り添い守りあっているものなのかもしれない。
 
出逢いで歌が生まれて
歌でまた新しい出逢いが生まれていく。
そして時間と想いが重なり
どんどん家族のようになっていく。
こんな事を繰り返しながら唄い生きていきたい。
 
<山田義孝>



◆紹介曲「てと手
作詞:吉田山田
作曲:山田義孝

◆8th ALBUM『愛された記憶』
2021年12月1日発売
通常盤(ボーナストラック入り) PCCA-06086 ¥2,970(税込)
 
<収録曲>
M1. 世界が変わる
M2. ひとつぶ 
M3. こんがらがって
M4. 才能開花前夜  
M5. 好き好き大好き
M6. グレープフルーツ
M7. 鳥人間になりたい
M8. おばけ
M9. それでも
M10. 愛された記憶
M11. てと手
BONUS TRACK. イ~ハ~