焼き魚

 2023年5月17日に“吉田山田”が9枚目のオリジナルアルバム『備忘録音』をリリース!2021年12月発売の『愛された記憶』以来、およそ1年5カ月ぶり。交流あるアーティストたちを迎えることで多様なコラボ曲を収録した前作と異なり、今作は吉田山田の2人が主体となってさまざまな表現に挑戦した意欲的な内容のアルバムに仕上がっております。
 
 さて、今日のコラムではそんな最新作を放った“吉田山田”による歌詞エッセイをお届け。今回は第1弾です。吉田結威と山田義孝にそれぞれ今作の収録曲「焼き魚」にまつわるお話を綴っていただきました。さらに今回は音声版もございます。おふたりの朗読でもエッセイをお楽しみください…!


吉田結威の朗読を聞く

初めてこの曲を聴いた時に、一番最初に思ったことは「あゝ、咀嚼音を注意されたことも、箸の持ち方を正されたことも、山田はそんなに嫌だったのか…」ということでした。
 
高校で山田と出逢ってから二十数年。「常識」とは少し外れたところで生きている山田に、今まで幾度となく僕が話してきたことでした。時には上から目線で、時には説教のように言ってしまったこともあったでしょう。それがこんなかたちで返ってくるとは思いもよりませんでした。申し訳ないと思うのと同時に、これは魂のこもったいい曲になるだろうという予感がありました。
 
曲を作る時、その物語がフィクションなことももちろんありますが、必ずどこかにリアルを入れ込まないといい曲にはなりづらいと思っていて。ある意味愚痴から始まるこの曲には山田の本音が感じられ、可能性を感じ二人で制作を進めていきました。
 
あとになってこの曲は「近未来のプロポーズ」をテーマにしていることを知りましたが、僕個人は冒頭の一節でもう心を掴まれてしまいました。
 
今回のアルバムは幡宮航太さんにアレンジをお願いした曲が多数あるのですが、この曲もその中のひとつです。以前からライブは一緒にやっていて、フィーリングが合うことは分かっていたので、とても刺激的で、いいリズムでアレンジは進んでいきました。
 
2コーラス目の直前にコンロに火をつける時の「チチチチチ」という効果音が入っていますが、あれは実際の幡宮家のガスコンロの音です。実験的にあの音を入れてきてくれたアレンジを聴いた時は、本当にハタップ(幡宮航太さんの愛称)にアレンジをお願いしてよかったなと思いました。作者の込めた思いの邪魔はせず、言葉やメロディにさらに磨きをかけ、輝かせてくれた、絶妙なアレンジだったと思います。
 
アレンジを進めていくうちに「この曲はレコーディングの時に何回も歌って録るような曲ではないな」という思いが沸々と湧いてきて、実際にレコーディングでは数テイクしか録らず、「上手さ」よりも「勢い」を大切にしました。
 
レコーディング当日に山田にそれを伝えたのですが、かなり難しいメロディラインの曲だったので、「ウソでしょ?」と焦っていましたが、無事に納得のいく疾走感溢れた仕上がりになったので良かったです。
 
<吉田結威>


山田義孝の朗読を聞く
「焼き魚」
 
30年後の、2053年の事を想像してみる。
 
携帯電話はもう携帯するものじゃなく、
脳に埋め込まれたチップによって相手に想いを伝送するようなシステムに。
自動車や電車は名前を変えて空中を移動し、あらゆる店という店は店舗という形をやめて欲しいものがその場ですぐ手に入る状態に。
食べる物は全ての栄養が入ったサプリ一つで充分かもしれない。
もしかしたら生活の拠点は地球じゃなくなっているかもしれない。
 
そんな風に何かの映画で観たことあるような無いような未来を想像してみたらなんかしっくりこなかった。
 
最近よく思う事がある。
無性に「焼き魚」が食べたい。
部屋に付く匂いと後片付けの面倒くささ、そして箸を器用に使って細かい骨まで取り除きながら身を食べるという工程も込みで「近いうち食べたい」と先送りにしながらずっとボンヤリと頭の片隅で焼き魚の事を考えている。
だからと言って「レンジで簡単!煙も出ない!小骨まで処理済み!」と謳われた「冷凍の焼き魚パック」が売られていてもなんの魅力も感じない。
面倒くささと手間を省いては辿り着けない旨さが「焼き魚」にはあるのかもしれない。
 
もしかしたら30年後、人間が当たり前に宇宙船の中で生活する時代が来たとしても食卓には地球で獲れた秋刀魚の「焼き魚」が並んでいるんじゃないかと想像してみた。
凄いしっくりくる。
 
2人用の小さな宇宙船の中の4畳半の畳の部屋に丸いチャブ台。破れた襖の一部から透明なガラス窓が見えていて真っ暗い宇宙が広がっている。
軽い宇宙服を着た男女が神妙な面持ちで見つめ合っている。
地球時間で言うと2人は付き合い初めてもうすぐ6年。
もういい頃合い。
男が意を決して
「毎日僕の味噌汁を作ってくれないですか?」
みたいな言い方で
「宇宙の果てでも焼き魚焼いてくれないですか?」
とプロポーズをする。
女は返した
「は?」
 
<山田義孝>



◆紹介曲「焼き魚
作詞:吉田山田
作曲:山田義孝
 
◆9th ALBUM『備忘録音』
2023年5月17日発売
【ボーナストラック盤】¥3,300(税込)
 
<収録曲>
1. Monster
2. YADANA
3. 人間
4. 東京
5. こんな夏はいやだ
6. 日曜日
7. 焼き魚
8. 裸
9. 夜な夜な
10. もしもの話
11. 音楽
ボーナストラック. 最後の歌