風に転がるビニール傘、まるで私みたいね。

土岐麻子
風に転がるビニール傘、まるで私みたいね。
2019年10月2日に“土岐麻子”がニューアルバム『PASSION BLUE』をリリースしました。内に秘めている【BLUE(憂鬱】と、外に溢れ出しそうな【PASSION(情熱)】という相反する言葉を組み合わせて名づけられた今作。今日のうたコラムでは、その収録曲からアルバムタイトルの意味にも通ずるような新たなラブソング「傘」をご紹介いたします。 降り出した雨 駆け出してく 恋人達 笑う声 いまごろきみは どこかの町 新しい傘を買ってる 空を裂いた稲妻が 強く 照らし 出した 駆け込んだ 屋根の下で ひとり 声も出せない 「傘」/土岐麻子 歌の幕開けは、降り出した雨。そのとき<私>の視線が一番に注がれたのは、笑いながら<駆け出してく 恋人達>の姿です。嬉しくないはずのハプニングさえ、二人でなら楽しめる。もっと言えば、どんな不幸のなかだって、二人でなら駆け抜けてゆける。そんな<恋人達>がやけに目に留まるのは、自分自身の現状と異なりすぎるからでしょう。 幸せそうな恋人達を見つめながら、思うのは<きみ>のこと。どうやら、この<きみ>と<私>は“二人でならどこまでもゆける”ような関係にはなれなかった模様。そして<きみ>はもう“<どこかの町 新しい傘を買ってる>=自分を守ってくれる新しい愛を見つけている”のだろうと<私>は深く孤独な【BLUE(憂鬱】に襲われているのです。 さらに、その<私>の【BLUE(憂鬱】を恐ろしいくらい強く照らし出す、空を裂いた稲妻。しかし<私>は<きみ>と違って、まだ“<新しい傘>=新しい愛”を手にするパワーもありません。なんとか心身を守ろうと必死に<駆け込んだ 屋根の下で>ひとり、哀しみや空しさや不安に震えている姿が伝わってくるかのようですね…。 きみを傷つけるような 悲しい出来事を そっとよける傘になって 守れると思ってた 「傘」/土岐麻子 また、続く歌詞にはこのような想いが綴られております。これはアルバムタイトルで言う【PASSION(情熱)】の部分と言えるでしょう。<きみ>と一緒に“傘”に入りたかったわけじゃない。たとえ自分が濡れようと<きみを傷つけるような 悲しい出来事を そっとよける傘になって>守りたかった。それほど大きな“愛”だったことがわかります。 いつか この風が やんだ頃 きみは その新しい愛も 捨てて しまうのでしょう やさしさ 思い出さずに 私しか知らないきみを きみは その弱さごと全部 捨ててしまいたかった 遠いどこかへ行くため きみだけが知ってた私だけが ここで佇んでいる 風に転がるビニール傘 まるで私みたいね どこへ行く 「傘」/土岐麻子 しかし、悲しいことに<きみ>にとっての“愛”とは、すぐに使い捨てできる<ビニール傘>のようなものでした。ツライとき、悲しいとき、傷ついたときだけ、弱さをさらけ出し、甘えたい存在が<私>だったのです。ただそれは、雨が止めば、もう必要なくなるもの。むしろ<その弱さごと全部 捨ててしまい>たくなって、自分の<弱さ>を知られている<私>といるのも居心地が悪くなって、勝手に離れていったのでしょう。 結果、愛する<きみ>のため“傘”として戦い続けた<私>は今、ボロボロになって<風に転がるビニール傘>のように途方に暮れております。誰にも必要とされず、行き場もなく。最後の<どこへ行く>は、自分に似た傘に「どこに行けばいいんだろうね」と嘆きかけるようでもあり、「どこに行けばいいか教えてよ」と問うようでもあります。 一緒にいたときの【PASSION(情熱)】が強かった分だけ、より一層【BLUE(憂鬱】が際立って感じられるのが痛く切ない、土岐麻子の「傘」。ひとり、雨の日に、聴き浸ってみてください。 ◆紹介曲「 傘 」 作詞:土岐麻子 作曲:トオミヨウ ◆ニューアルバム『PASSION BLUE』 2019年10月2日発売 CD+DVD RZCB-87006/B ¥4,500+税 CD+Blu-ray RZCB-87007/B ¥5,500+税 CD only RZCB-87008 ¥3,000+税 <収録曲> 01. Passion Blue 02. 美しい顔 03. High Line 04. エメラルド 05. RADIO 06. Ice Cream Talk feat. G.RINA 07. That Summer 08. 愛を手探り 09. 傘 10. Bubble Gum Town