自分と似た誰かの孤独を溶かすような歌詞を書きたい。

 2019年10月9日に“見田村千晴”がニューアルバム『歪だって抱きしめて』リリースします。その発売に先駆け、3ヶ月連続配信リリース企画がスタート。第1弾「禁煙席」、第2弾「あの日雨が降ったから」、第3弾「独白」が配信中です。そして今日のうたコラムでは、ニューアルバムリリースに向けて、3ヵ月連続“ご本人歌詞エッセイ”をお届けしております。

 まず第1弾では、見田村千晴さんと【言葉】の関係を。続く第2弾では、新曲「独白」についての想いを。そして今回、ラスト・第三弾では、アルバム収録曲の歌詞のなかからを「書けて良かったと心から思うワンフレーズ」について綴っていただきました。尚ミニインタビューも掲載中!是非、歌詞と併せて、ご堪能ください…!

アルバム『歪だって抱きしめて』歌詞エッセイ最終回

新しいアルバム『歪だって抱きしめて』がもうすぐ発売になる。本音を言えば、ゆっくり、じっくり、届けていきたいと思っている。こんなに時間をかけて、身を捧げて完成させたアルバムなのだから。それでも現実はなかなかそうはいかず、日々新しい音楽は生み出されているし、消費のサイクルだって早い。

このアルバムにとっては、まさに発売前後の今が「旬」らしい。何かできることはないか。やり残していることはないか。そんなふうに(自らに)急き立てられるここ最近だが、この文章を書いている間は、健康的に今作と向き合えている気がする。そんな機会を頂けた感謝も込めながら、最終回の今回は、アルバム収録曲の歌詞のなかから「書けて良かったと心から思うワンフレーズ」を紹介していきたいと思う。

“あの頃が あの頃の二人が
狂ってただけだろう”

“今だけが 今こそが正義だと
言えなくて 迷いの中”
(『禁煙席』より)


ワンフレーズと言っておきながら早速ツーフレーズなのだが、これは対になった歌詞なので仕方がない。1番のサビの終わりと、2番のサビの終わりのこのフレーズ。「あの頃」の私が、いかに盲目的な恋をしていたか。幼さも残る、人生の中の限られた時間しか許されないものだと分かっているのに、どうしても思い出してしまう。それは、「今」の私が思うように前に進めていないからだ。「今」の私が一番好きだと、胸を張れないからだ。煙草をやめて父親になる「あんた」よりも、そんな自分自身が嫌なのだ。

“全方向へ配慮の末
優しいあの子潰れちゃって
今も孤独な 孤独なまんま”
(『ユーモアが足りない』より)


あっけらかんとした楽しいサウンドという隠れ蓑に、ピリッとした言葉を忍ばせているこの曲。この部分で、何人かの友人やお世話になった方が思い浮かぶのだ。優しくて繊細な人ほど、生き抜くのが難しい世界なんて理不尽だ。そして一度離脱すれば、戻って来ることはもっと難しいのかもしれない。私自身は利己的で鈍感な、いわゆる図太い人間だと自認しているので、そうではない人への想像力をいつも忘れないように、こうやって楽曲に刻んでいるのだ。

“ざらつく心の理由を
全部言葉にしてみたい”
(『ex. friend』より)


私が歌詞を書く理由が、まさにこれなんだと思う。幼少期から感じていた、周囲とうまく馴染めていないような違和感や、生きづらさ。「私は他人と違うんだ、特別なんだ」という思春期特有の“それ”にすり替え、この上なく“イタい”奴だった時期もあったが、基本的には、常に一定の孤独感を持っていたように思う。
もしその違和感をちゃんと言葉にできていたら、と想像することがある。自分自身も安心できただろうし、同じような人間と出会って分かり合えたかもしれないし、周りの人との付き合い方も随分と違っただろう(そんな達者な子どもはそれはそれで苦労しそうだけれど)。
私を救ってくれたのは、音楽とラジオだ。10代の頃、ヴァイオリンを弾いたり歌ったりして音楽に没頭している時間は、音楽という共通言語で繋がれたし、ここが自分の居場所だと安心することができた。そして20代、ラジオから聞こえる言葉に、孤独感がみるみる溶けていくのが分かった。
私は、自分と似た誰かの孤独を溶かすような歌詞を書きたい。音楽には、言葉の飛距離を何倍、何十倍、何百倍にも伸ばすパワーがある。そのパワーに、言葉を乗せて。

<見田村千晴>

◆配信シングル第1弾
禁煙席
2019年6月19日配信
作詞:見田村千晴
作曲:見田村千晴

◆配信シングル第2弾
あの日雨が降ったから
2019年7月24日配信
作詞:見田村千晴
作曲:見田村千晴

◆配信シングル第3弾
独白
2019年8月28日配信
作詞:見田村千晴
作曲:見田村千晴

◆ニューアルバム『歪だって抱きしめて』
2019年10月9日発売
KCJT-0001 ¥2,800(tax out)

<収録曲>
1. 禁煙席
2. 独白
3. ex. friend
4. 東京模様
5. あの日雨が降ったから
6. Woman
7. ユーモアが足りない
8. 銀河鉄道の夜 (※不可思議/wonderboy カバー)
9. 手のひらのラブソング