消えていくことを肯定したい。辿り着かないことを楽しんでいたい。

 今日のうたコラムでは、作家・作詞家として活躍している“高橋久美子”さんのスペシャル歌詞エッセイを3週に渡ってお届けいたします。今回は第1弾に続く、第2弾です。これまで、作家としての活動と並行して、大原櫻子、コアラモード.、私立恵比寿中学、ももいろクローバーZ、足立佳奈など、数々のアーティストに歌詞を提供してきた彼女。
 
 2019年10月16日“原田知世”がリリースするバラード・セレクション・アルバム『Candle Lights』に収録される新曲「冬のこもりうた」の作詞も担当しております。尚、同アルバム収録の「銀河絵日記」と「2月の雲」も高橋久美子の作詞楽曲。そんな彼女が第2弾歌詞エッセイで綴ってくださったのは、自身が作詞を手掛けた、足立佳奈「この夕日は誰かの朝日なんだ」、原田知世「銀河絵日記」、コアラモード.「革命前夜」、Kaco「たてがみ」についてのエピソードです。是非、最後までじっくりとご堪能くださいませ…!

【歌詞エッセイ第2弾:辿り着くだけが旅じゃない】

 「歌詞を書いていて降りてくる瞬間ってあるんですか?」と聞かれることがよくある。「そんな格好いいもんじゃないですよー」と答えるが、稀にそういうときはある。それは書斎ではあまり起こらない。普通の状況では起こらないみたい。

 例えば、足立佳奈さんに提供した「この夕日は誰かの朝日なんだ」は、何も書けずに夕焼け小焼けが流れる道を、罪悪感いっぱいで自転車で登っていたときにできた。夕日が街中を赤く赤く染めて美しくて、私はふと、ああこの夕日は地球の裏側では朝日なんだなあ、と考えていた。

“この夕日はずっと 誰かの朝日なんだと気づいたの
さよならだって悲しいだけじゃないよね”


 私の今日は終わるけれど、誰かの朝が始まるのだと思うと何か嬉しくて元気が出てきた。書けそう、書けそうだぞ!私は急いでメモをして、自転車に乗って帰路を急いだ。

 先週リリースされた原田知世さんのバラードセレクションアルバム『Candle Lights』にも収録されている「銀河絵日記」の歌詞は私の失敗の産物だった。
 
 昨年の夏、実家に帰っていた私は、出演予定のイベントに向かうため電車を待っていた。私は考え事をしていることが多く、東京でも度々やってしまうのだが……逆方向の電車に乗ってしまったのだ!

 走り出して車内アナウンスを聞いて我に返った。ああ、またやっちまった。急いで隣駅で降り、時刻表を見ると、次の松山行きは一時間半後であった。そうここは愛媛。蝉が大合唱の無人駅のホームで私はひたすら電車を待った。特急電車が目の前を猛スピードで走り抜けていく。ああ、宇宙の小さな星にぽっかりと自分一人だけが取り残されたようだ。私は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を思い出していた。

“ジョバンニ
夜汽車にゆられて
ライン川を眺めてる
君とまた旅をしてみたい
帰りの予定も決めずに”


 真夏の昼下がり、どんどんと言葉が溢れてきた。原田さんの世界観は宮沢賢治にも通ずるものを感じたからだと思う。私は失敗をしてしまったけど、失敗ではなかった。猛烈に旅をしていると感じた。スマホができて以来、こんな状況ないもの。楽しくて仕方ないと思った。

“辿り着くだけが旅じゃない”

“自分を抜け出して初めて
自分があることを知ったの”


 ジョバンニとカンパネルラも銀河を旅しながらそんな風に思ったかもしれない。死生さえも超えていける世界観は実は私達のすぐ傍に転がっているのかもしれなかった。銀河を旅する原田さんの色をイメージしたとき「エメラルド」がいいなあと思った。消えていくことを肯定したい。辿り着かないことを楽しんでいたい。原田さんに、そんな少年のような部分を感じたのかもしれない。

“エメラルドの夜の中
言葉はいつも流れ星
ひとつ ふたつ みっつ よつ
消えてゆくから美しい”


 一時間半後、「銀河絵日記」の大部分が完成した。

 ご本人に会って書くのか、会わないで書くのか…これもけっこう重要なところである。アイドルの方達には会わずに書くことが多い。シンガーソングライターやバンドマン達には会って話をしてから書くことが多いかな。楽曲の殆どを自作しているからこそ、歌詞も自分の言葉に近い方がいいと思うからだ。
 
 コアラモード.に今年春に歌詞提供した「革命前夜」もそうだった。カフェでお二人と会ってお茶をしながら一時間半くらい、いろんな話をした。音楽のこと最近気になること、地元のこと、好きなお店の話、葛藤。これまではあまり自分のリアルな物語を歌うことは少なかったそうだけれど、彼女たちにとっても自分に近い物語を歌う、そういうタイミングなんじゃないかと思ったりして、いろいろとお話をしてから書いた。

“ああ、月が満ちて また欠けて満ちて
ふと終わる瞬間が明日ならば
私はきっと 歌うのだろう”


 いつでも真摯に音楽に向き合う彼女たち。それは二人の姿をみていたら本当によくわかる。そして同時に同世代の子達が持つ悩みだって同じように感じる瞬間はあるのではないかと思ったりもして。空想も交えながら、2曲作ってしまった! 好きな方に曲をつけてねと渡した。あんにゅちゃんは、より等身大な方の歌詞を選んでくれた。自分に近すぎる歌を歌うのはしんどいのではないかとも思うけど、でもそちら選んでくれたことが私は嬉しかった。

 本人達が気に入ってくれたとき、本当に嬉しい。書いてよかったなあと心から思える。ライブで歌っている姿を見た時、楽しんでいるファンを目にした時、やっと曲が完成したと感じる。

 共作の場合は、さらに面白いことになる…最近だとKacoさん(同じ愛媛出身)と、三作品を共作した。ご飯屋さんでまず食事をするはずだったが、早速ディスカッションが繰り広げられ、あれよあれよという間に「たてがみ」が完成してしまった。その場で面と向かって一回りも年上の作詞家に「うーん、それはちょっと違うなあ」というのは勇気のいることかもしれないが、彼女はお構いなし、清々しい笑。
 
 年齢も経歴も関係ない。とにかく最高の曲にすることだけだ。どんどん二人は言葉を出し続ける。ノートはすぐに真っ黒になっていった。一枚上手な言葉を絞り出してやろうじゃないの! とわたしも必死! 帰りにはマラソンでも走ったかのようにくたくたになって、でも世界はさっきより輝いていた。
 
 シンガーソングライターだから一人で書かないといけないなんてことはない。音楽と一緒で、二つの脳みそで言葉のセッションをすれば、思いもしなかった奇跡が起こる。それがたまらなく楽しくて依頼してくれるのだと思う。私も挑むところだ!と待っている。作詞にも音楽にも本当のところ何のルールもない。「痺れる!」その一瞬を見つけるために私は書いている。

“正しさも 間違いも全部
どうだっていい 味方でいるから
あなたはあなただ
幸せになれ
さあ 生きるの”

 
 来週で最終回です!お楽しみに!

 Kacoさんと11/8イベントを開催しますよ。第二部では愛についてを語るトークセッションも。生で二人の言葉セッションが見られます!
http://kaco-official.com/information/news/2413/

 高橋久美子の作詞講座も11月2日の朝、開催されます。朝活の一環として、気軽にご参加くださいね。
https://ps.uta-net.com/qhfl

<高橋久美子>

◆原田知世バラード・セレクション・アルバム
『Candle Lights』
2019年10月16日発売
UCCJ-2171 3,000(+tax)

<収録曲>
1. Love Me Tender - Haruomi Hosono Rework
2. 冬のこもりうた (新曲)
3. ソバカス
4. 2月の雲 - Hiroshi Takano Rework
5. 夏に恋する女たち
6. イフ・ユー・ウェント・アウェイ
7. ハーモニー
8. 銀河絵日記 - Goro Ito Rework
9. いちょう並木のセレナーデ
10. ベイビー・アイム・ア・フール
11. SWEET MEMORIES
12. 夢のゆりかご