あなたが彼に愛された、そんな記憶はもう捨ててよ。

坂田穂乃花
あなたが彼に愛された、そんな記憶はもう捨ててよ。
過去にだれともであわないでよ 若いきすしないでよ 今 産まれてきてよ (今橋愛) こちらは歌人・今橋愛さんの一首。過去に誰かと出逢ったこと。若いキスをしたこと。産まれたこと。それらは“過去形”であるはずなので、3つの願いはどれも無茶。そんなことは主人公だってわかっています。でも、それでも、そう思わずにはいられないんですよね。つまり<私>の知らない<あなた>がいるのは、いつであろうと嫌、なのです。 私よりずっと前から 彼と出逢えていたんでしょう? 私の知らない彼の姿を あなたは知っているんでしょう? 「元カノさんへ」/坂田穂乃花 さて、今日のうたコラムでは、そんな短歌に通じる新曲をご紹介。2019年3月20日に“坂田穂乃花”がリリースした「元カノさんへ」です。主人公の<私>が本音を伝えるお相手は、愛する<彼>ではなくて、タイトルどおり、彼の元カノさん。とはいえ、元カノから何か嫌がらせを受けているわけでも、二人のヨリが戻っているわけでもなさそう。 だけど<私>は少なからず“<あなた>=元カノ”に対して、嫌悪・怒り・嫉妬のようなものを感じていることがヒリヒリ伝わってきます。理由のひとつはまず、冒頭の短歌と同様に<私の知らない彼の姿を あなたは知っている>から。理不尽ではありますが「私だけの彼の“過去”を持っているなんてズルい…!」という気持ちなのでしょう。 考えたくないって思うのに気づけばふと 頭に浮かぶ どうして? 「消えてよ」 頑張ったって何したって 変わらない過去消せない思い出 あなたが彼に愛された そんな記憶はもう捨ててよ あなたもきっとそっと彼から 愛されていたんでしょう? 優しく抱き寄せる彼の温もり あなたも知っているんでしょう? 「元カノさんへ」/坂田穂乃花 また同時に、そうやって<考えたくないって思うのに気づけばふと 頭に浮かぶ>ような今の自分の姿も嫌なのだと思います。無駄な嫉妬をしていることも。不毛に頑張っていることも。だからきっと「消えてよ」というセリフや<あなたが彼に愛された そんな記憶はもう捨ててよ>というフレーズは、元カノだけに伝えているわけではありません。 今は、自分が<彼から愛されて>いるのに、確かに<優しく抱き寄せる彼の温もり>を感じているのに、その大切な“実感”を通じて、わざわざ他者の過去を思い浮かべてしまう。そんな自身の不安にこそ「消えてよ」と言いたいのではないでしょうか。想像上の元カノの記憶なんて「捨ててよ」と自分自身に言い聞かせているのではないでしょうか。 さらに、どんなに元カノを憎んでも無駄で、どんなに<私>が<考えたくないって思うのに気づけばふと 頭に浮かぶ>のなら、あとは<彼>に何とかしてもらうしかないですよね。ゆえに、本当に言いたいのは「消えてよ」というより「消してよ」なのかもしれません。元カノを愛した記憶なんてもう「消してよ」「捨ててよ」と<彼>にこそ、言いたいのです。 考えたくないって思うけど気づけばふと 頭をよぎる Ah 「やめてよ」 頑張ったって何したって 変わらない過去消せない思い出 今はもう私だけを 深く奥底まで感じてよ 入り込めない2人の間が怖くて 切なくて苦しい もういっそ過去の時間なんていらないのに 「元カノさんへ」/坂田穂乃花 そして歌が進むにつれ、本音のベクトルはどんどん“元カノ”から<彼>へと移ってゆきます。<もういっそ過去の時間なんていらないのに>と思う。しかし<頑張ったって何したって 変わらない過去消せない思い出>がある。それなら過去以上に、思い出以上に、元カノ以上に、愛していると<彼>に“証明”してほしいんですよね。 というより、もしその“証明”さえ強く実感できれば、このような歌が生まれなくても済むのでしょう。<今はもう私だけを 深く奥底まで感じてよ>なんて願うことすらしなくていいくらいに<私だけ>を愛してくれている実感が必要なのです。そう考えながら「元カノさんへ」を聴くと<私>から<彼>への強い想いがいっそう心を揺さぶります。 頑張ったって何したって 変わらない過去消せない思い出 今はもう私だけを 深く奥底まで感じてよ 「元カノさんへ」/坂田穂乃花 会話や日常の節々に“元カノさん”を探してしまうあなた。愛するひとがかつて愛したひとのことを考えずにはいられないあなた。ぜひ、その想いを重ねながら、坂田穂乃花「元カノさんへ」を聴いてみてください…! ◆紹介曲「 元カノさんへ 」 作詞:坂田穂乃花 作曲:坂田穂乃花 ◆インディー・デビュー・シングル 『元カノさんへ』 2019年3月20日発売 EDCE-2030 ¥1,200(税抜) <収録曲> 01. 元カノさんへ 02. ウワサバナシ 03. あなたとの時間
























