恋は苦いってそんなの知らなかったんだ。

 2018年6月6日に“井上苑子”が最新ミニアルバム『Mine.』をリリースしました。収録されているのは全6曲。彼女の新たなモードが伝わってくる、ロックで疾走感のある新曲がギュッと詰まっております。さて、今日のうたコラムではそんな今作から、唯一のバラードソング「Chocolate」をご紹介いたします。チョコレート…。その言葉だけでもう甘い想いが胸に広がってきそうですよね。

二人きりは 3度目だね
場所は小さな あの公園
友達だって わかってるよ
普段通り笑っていなくちゃ
「Chocolate」/井上苑子

 ピアノとギターの優しく切ないサウンドが印象的。そして、ひと粒ひと粒の言葉を丁寧に届けるかのような井上苑子の歌声が響きます。ただし、この歌に描かれているのは、チョコレートというワードから想像できる、ただただ甘く幸せなだけの気持ちなんかではありません。まず、歌詞から見えてくるのは“恋人ではない”けれど<小さな あの公園>で待ち合わせをする二人の姿です。

 恋愛サイトなどではよく【2人きりで2回会ったら、3回目が勝負】と言われています。すると、まさに歌の<わたし>と<君>は<二人きりは 3度目>です。本来なら告白も考える決戦日。でも、彼女の心にあるのは<友達だって わかってるよ>という声なのです。その言葉は、自分自身に言い聞かせるためのものにも、やってくる<君>を安心させるためのものにも感じられます。勝負することよりも、この“今を守る”ことのほうがずっと大事だから…。

初めて その時知った
君の好きなチョコレート
見かけたら買うようになってた

伝えたら終わりだって
帰り道に彷徨った
ああ
「Chocolate」/井上苑子

 また、好きな人の好きなものを知るとつい同じものを買ってしまう気持ちもわかりますよねぇ。彼女は<君の好きなチョコレート>を買うことで<君>の“好き”を共有したいのでしょう。同時に<君>の“好き”になりたいのでしょう。だけど<わたし>の“好き”を<伝えたら終わり>…。友達から恋人になる可能性より、友達でさえいられなくなる可能性を考えてしまう。でも、好きになる前に戻ることも、先に進むこともできない。そうやって“好き”の迷子になり、帰り道を失ってしまったのではないでしょうか。

恋は甘いだけじゃないけど
止められないんだって
誰に何言われても
聞こえないくらい
ずっと 次はいつ会えるのだろうって
うまくいくように ひとつひとつ
悩んでたなぁ
「Chocolate」/井上苑子

甘いだけがよかった
単純な味で
恋は苦いってそんなの
知らなかったんだ
あのチョコレートみたいに溶けたくない
でも君の好きになりたいな
わたしも
「Chocolate」/井上苑子

 サビでは<君の好きなチョコレート>を握り締めながら“好き”の迷子になっている<わたし>の切なさがよりいっそう強く伝わってきます。さらに、歌詞には<誰に何言われても 聞こえないくらい>というフレーズもあることから、もしかしたらこの恋は、周りからあまり“幸せな関係”とは言ってもらえないものであるような気もしてきますね。たとえば、すでに<君>には他の恋人がいるとか。もう<わたし>が報われないことはわかっているとか。

 だからこそ、彼女は今<恋は苦い>という感情を思い知っているのかもしれません。このままこの恋を続けていたら、いつか自分も<あのチョコレートみたいに溶け>てダメになってしまうことを、不安に思っているのかもしれません。でも、それでも、やっぱり何より強いのは<君の好きになりたい>という気持ち。そうして“好き”の迷子のまま、また<わたし>は<君>のもとへ向かってゆくのでしょう。

友達じゃない
恋人じゃない
だけどまだ少しの間
好きでいさせて
苦くて甘い思い出は
全部 君がいい
「Chocolate」/井上苑子


 もともとは<甘いだけがよかった>はずなのに。これまで<恋は苦いってそんなの知らなかった>はずなのに。歌の最後の最後では<苦くて甘い思い出は 全部 君がいい>と、この恋のすべてを愛おしく思っている彼女。これはもう、苦味を伴う恋の中毒にしっかり陥っている証でしょう。友達じゃない、恋人じゃない、だけどたしかに<好き>という想いが強く息づいている恋物語は、ここからどのように転がってゆくのでしょうか…。

 今、ほろ苦く甘い恋をしている方。是非、あなたの想いを重ねながら、井上苑子「Chocolate」に聴き浸ってみてください!

◆mini Album『Mine.』
2018年6月6日発売
初回限定盤 UPCH-29301 ¥2,300
通常盤 UPCH-20489 ¥1,800

<収録曲>
1. リメンバー
2. My Dear One
3. ワンシーン
4. Chocolate
5. TODAY
6. 踏み出す一歩が僕になる