音羽-otoha-
あなたは完璧。
2025年5月28日に“音羽-otoha-”がEP『sukimakaze』をリリースしました。今作には、TVアニメ『真・侍伝 YAIBA』EDテーマ「pineapple tart」を含む全5曲が収録されております。さらに、7月10日より、第4期ファイナルシーズン第2クールがスタートするTVアニメ『Dr.STONE』のエンディングテーマとして音羽-otoha-が新曲「no man’s world」を書き下ろしたことも発表!
さて、今日のうたではそんな“音羽-otoha-”による歌詞エッセイを2ヶ月連続でお届け。第1弾は今作EP収録曲「 pineapple tart 」にまつわるお話です。ひとは誰しも後悔を経験し大人になっていくからこそ、大切にしたい、あの日のまっすぐな火花とは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。
何かが始まりそうな予感がするたびに、別れや終わりを想像してしまうようになったのはいつからだろうか。未完成な頃の僕らにとって、あの校庭は、果てのない冒険の地だった。昼下がりの教室の中で、季節が永遠に巡っていくような気がした。何もかもが新緑に光る雫のようで、その雫が目を離したほんの一瞬の隙に地面に落ちてしまうことを、僕らはまだ知らなかった。
あの日、ファインダー越しに弾けた火花のように、君は現れた。僕とは一挙一動違っているのに、放たれた言葉はまっすぐに胸の奥へすり抜けてきて、飴細工が砕けるみたいにぶち当たっては、ぴりぴりと広がった。甘酸っぱい雷のようなその味。とても忘れられない、忘れようがない感覚に、僕は初めて鏡でも見た猫のように警戒した。
その鏡の前から訳も分からず離れられないままでいた僕は、ようやくその違和感の正体に気付いた。きっと僕は単純に、その違和感がたまらなく面白く、どこまでも知りたいから、離れられないのだ。そう理解し、ようやくまっすぐな瞳でその姿を捉えようとした頃には、君はすでに届かないほど遠くへ立ち去ってしまっていた。僕は何もできないまま、新緑の庭で一人佇んでいた。
あの日の僕には、時間の流れが今とは違って見えていた。混ざり合った夢と現実が少しずつ分離されていくような。ぼんやりとした目覚めの中で君を探すような。そんな感覚だった。とっくに別れの匂いは漂っていたのに、無意識に蓋をしてしまっていたことを、僕は悔いた。そして同時に、僕らは完璧だったのだ、と呟いて、ふっと笑った。
何かを失い、尊び、また失う。そんな繰り返しの末に、僕らは大人になる。後悔のない人間なんてきっとこの世には存在せず、後悔を後悔だと認めない意地の強さを持った者や、後悔の末に辿り着いた今が正解であると自分なりに結論づける者がいるだけなのだと、最近なんとなく気付いた。
自分がどちらなのかということはさして重要ではない。ただ、今目の前に映っているすべてや、これから出会うすべてに対して、心を閉ざさずにいられたら。あのまっすぐな火花のようにいられたら。それだけで、今までの後悔も、新しい予感の中での不穏なざわめきも、いつか消えてくれるんじゃないだろうか。
パイナップルには「あなたは完璧」という花言葉があるらしい。僕はこのことを、大人になってから初めて知った。一生未完成なままの自分には全くそぐわない言葉だが、今この言葉を贈りたい誰かならいるかもしれない。あなたは完璧。あなたさえいれば、僕も完璧でいられる。そんな花束のような想いを。
あなたがその果実なら、僕は一体、何になれるだろうか。
僕はこの一瞬を、永遠に変えたいんだ。
<音羽-otoha->
◆紹介曲「 pineapple tart 」 作詞:音羽-otoha- 作曲:音羽-otoha- ◆EP『sukimakaze』 2025年5月28日発売 <収録曲>
・pineapple tart
・ヒューマノイドラブ
・ほな、さいなら!
・かざぐるま
・pineapple tart -Instrumental-