Karin.
愛とはなんて虚しいものなんだろう。
2025年11月24日に“Karin.”が配信シングル「 水葬 」をリリースしました。愛するひととの関係性と心の機微を“水”のイメージに重ねて描いたバラード。タイトルが示唆するのは、単なる別れではなく過去への決別と魂の浄化です。余裕のある<貴方>と子ども扱いされる<私>という不均衡な関係性、そして互いの傷を舐め合うような痛々しくも生々しい愛着が描かれた1曲となっております。
さて、今日のうたでは、そんな“Karin.”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、新曲「 水葬 」にまつわるお話です。愛にしがみついていたはずだけれど、果たしてそれは愛だったのか。自分の見ていた彼のどこまでが“本当”だったのか…。歌詞とあわせて、エッセイを受け取ってください。
私が知っている彼は一体どこに行ってしまったんだろう。
彼はどんな人間だったのか、結局最後まで分からなかった。
そもそも人間のことなんて簡単に理解できる訳もなく、なんなら自分のことなんてもっと分からないのに、私は最後まで彼の寝顔を眺めていた。
私が親しいと思う人や大好きだった彼も、違う立場から見たら全く違う人なのかもしれない。
私から見えている彼の情報は限られているのに、私は彼のことを知り尽くしていると思い込んでしまった。
死ぬ間際に「関わったすべての人が幸せになってくれ」だなんて
最後まで罪深い人だと思っていたけれど、そもそも彼は何を求めて生きていたのだろう。
私は彼の冷たくなっていく右手を最後まで握ることができなかった。
彼はいつも仕事に取り憑かれているような人だった。
側から見ていると、生きるために仕事をしているのか、仕事のために生かされているのか分からないほどだったと今になって思う。
彼は子どもの頃から期待をされ、その期待にすべて彼はすべて応えて生きてきた。
これといって夢もなく、何となく生きてきた私と正反対な彼に、私は心を奪われた。
一見、彼は完璧のように見えるが、実際は違う。
世界は遠くから見れば平らだと思い込んでいたように、近づいてみればいろんなところに段差や坂道がある。それと同じで彼にも足りないところや失われた何かがあった。
彼は私のことを子どものように可愛がってくれたけど、私はちっとも嬉しくなかった。
彼は仕事から帰ってくるとすぐさまベッドに潜り、底に深く沈んでいく。その様を私はただ隣で眺めていた。
日に日にやつれていく彼を私はどうすることも出来ず、彼の腕に潜り込んでは朝を待った。
「人は炭素からできているけれど、炭素に感情がある訳じゃない。
それはただなんとなく、人の形を構造してるだけなんだ」と彼は教えてくれたけど、私は今まで一度たりとも彼の言葉に熱を持ったことなんてなかった。
彼の優しい言葉の奥底には冷たいなにかが眠っている。
彼はそれを割らぬようにと大事そうに抱え、私には余裕の持った笑顔を見せてくれる。
そんな彼の姿が心底愛おしかった。
眠りについた彼を見て、私は起こさないようにそっと荷物をまとめ、部屋を去った。
私のことを子ども扱いするくせに、彼の寝顔はまるで産まれたての赤子のようだった。
様々な鎧を脱ぎ捨て、裸のような状態の彼の寝顔を見た時、私は不覚にも笑ってしまった。
「私にとっての真実は貴方だけ。
一番愛されたのは私なのに、『愛』だと信じていたものは実は幻だったのかもしれない。
死んでしまえば確かめることもできないのに、生きていても測ることができないだなんて。
愛とはなんて虚しいものなんだろう。」
無邪気に愛を求めて捕食される彼の隣に最後まで居続けた。
本当の意味で愛せはしない、理解もできないくせに、私はずっと彼の腕の中で温もりを感じていたかった。
普段の彼の冷めた瞳を見てなんでもないふりをしていたけれど、自分の心はヒヤリと冷たい水の層に沈められる感覚でしかなかった。
それでも私のことを一番だと、最後の人だと思ってくれているのなら安心して身を任せることができた。
かつて私達は愛というものを一途に信じていたけれど、彼はきっとこれからも空っぽになった愛にしがみつき、諦めきれなくて、認めることもできずに死んでいくのだろう。
人の心はいつだって不条理を抱えている。
だから愛というものは形がなく、こんなにもくるしい。
<Karin.>
◆紹介曲「 水葬 」 作詞:Karin. 作曲:Karin.