寒くなっても衣替えせず、まだ夏を引きずってやるから。

indigo la End
寒くなっても衣替えせず、まだ夏を引きずってやるから。
切れやすい糸でむすんでおきましょう いつかくるさよならのために (笹井宏之) こちらは歌人・笹井宏之さんの作品です。みなさんも【いつかくるさよなら】に先回りして、恋の予防線を張ることってありませんか? いざというときに傷が浅くて済むから。切れにくい糸で固結びしてしまうと、離れるとき痛くて苦しむから…。さて、今日のうたコラムでは、そんな短歌にも通ずる想いが込められている新曲をご紹介いたします。 ありふれた夏の瀬に おまじないみたいな恋をした 確信に満たないことだらけ 最初に解けて欲しかった 素直になれない心地良さ 他人と他人の馴れ合いを それなりに楽しんだ 隙を見せるのはこれからだった 短い筒の穴から覗く 視野の狭い愛情を送り合った そんなことしてたら 触れ合える距離に君はいなかった 「はにかんでしまった夏」/indigo la End 2019年4月27日に“indigo la End”が配信リリースした「はにかんでしまった夏」です。描かれているのは<ありふれた夏の瀬>のとある恋。ちなみに<瀬>とは【川の流れが速く、水深が浅い場所】を指す言葉なので、月日はみるみる流れ去り、何かに深入りすることもなく浅いところで過ごしてきた<僕>の“これまで”が見えてきそうですね。 その<僕>の<おまじないみたいな恋>もまた、最初は<瀬>のようなものだったはずではないでしょうか。つまり、深入りするつもりはなかったのです。あくまで<おまじないみたい>に「続いたらいいな」と願い、一方で「叶わなくても仕方ない」とダメもとの気持ちもあり。どこかで期待することや本気になることを恐れていたように思えます。 だからこそ<他人と他人の馴れ合いを それなりに>楽しむ程度だったのでしょう。隙も見せず“好き”も見せすぎず<短い筒>を隔てているかのような、恋をしていたのでしょう。前述した短歌の言葉を借りれば【切れやすい糸でむすんで】おいたのです。でも、やっぱり【切れやすい糸】で結べば、繋がりは切れやすいもの。結局、待っていたのは<そんなことしてたら 触れ合える距離に君はいなかった>という終焉でした。 全然何ともないのに 涙が出るなんて困ったな 愛想笑いも様にならないくらいに 今日は変だ 考えたっていないのに 君は絶対にいないのに おかしいな はにかんでしまった夏を 見逃さず睨んだ 「はにかんでしまった夏」/indigo la End 全然何ともないはず 涙が出るなんてないはず でも感情的なブランコに 振られ続けるの何で 考えたっていないのに 君は絶対にいないのに おかしいな はにかんでしまった夏を 見逃さず睨んだ 「はにかんでしまった夏」/indigo la End では【切れやすい糸】で結んでおけば、本当に【さよなら】の傷も、浅くて済むのでしょうか。決して、そうではないことが、この唄のサビに表れておりますよね。すぐ流れ去る浅い恋をしていたはずなのに、おまじない程度の期待だったはずなのに、<全然何ともないはず>なのに、<涙が出るなんてないはず>なのに、涙が出て、愛想笑いも様にならなくて、ただただ<感情的なブランコに 振られ続け>ている<僕>がいます。 同時に、後悔しているのではないでしょうか。この<はにかんでしまった夏>のことを。<はにかんでしまった>とは“うっかり照れてしまったこと=恋にしてしまったこと”を意味しているようにも、“恥ずかしがって本気を見せなかったこと=【切れやすい糸】で結んでしまっていたこと”を意味しているようにも捉えられそう。というより、両方の狭間で<感情的なブランコに 振られ続け>ているのかもしれません。 寒くなっても 衣替えせず まだ夏を引きずってやるから 覚えてろってさ 全く誰に言ってんだか 「はにかんでしまった夏」/indigo la End 唄の終盤。本当なら<ありふれた夏の瀬>だったはずのこの季節が、今や<寒くなっても 衣替えせず まだ夏を引きずってやるから 覚えてろ>と思うほどの、特別で深い深いものになっていることが伝わってきます。いつのまにか<僕>は、自分が思っている以上に“本気”になっていて、この恋に深く沈んでしまっていたのでしょう。 結局 君のことが好きなんです 涙が出て今日も困ってます 感傷的なスタイルは 似合わないはずなんだ 考えたっていないのに 君は絶対にいないのに おかしいな はにかんでしまった夏を 見逃さず睨んだ はにかんでしまった秋は 見逃してしまった 「はにかんでしまった夏」/indigo la End そして最後のサビ。あれほど“隙”を見せなかった<僕>からついに<結局 君のことが好きなんです 涙が出て今日も困ってます>と、本音が溢れ出しております。別れてから、やっと“本気な自分”に素直になれた。でも、時すでに遅し。切ないですね…。あの季節の恋を、まだ引きずっているあなた。心の<衣替え>をしていないあなた。是非、その行き場のない想いを重ねながら、indigo la Endの新曲「はにかんでしまった夏」を聴いてみてください。 ◆紹介曲「 はにかんでしまった夏 」 2019年4月27日配信 作詞:川谷絵音 作曲:川谷絵音