あの人の助手席になんて
うっかり乗るんじゃなかったな
横顔にドキドキしてる
あたしに気づきたくなかった
あなたにどんな顔をして
「ただいま」と言えばいいのかな
優しく笑いかけないで
よそ見もできないくらい強く
抱きしめて
「新しいキスをして」/中村千尋
歌の主人公の<あたし>には、すでに<あなた>というパートナーがおります。一緒に暮らしていて、お互い「ただいま」「おかえり」と言い合えて、いつも<優しく笑いかけ>てくれるひと。きっと<あたし>はその穏やかな幸せを、信じて疑わなかったことでしょう。このままで十分だったはずでしょう。…<あの人>に出逢ってしまうまでは。
うすうす<あの人>に対して感じていた、何か。自分がしばらく忘れかけていた、何か。その正体に<気づきたくなかった>から、<あたし>は<うっかり>してしまわぬよう気をつけていたのではないでしょうか。でも、ついに<うっかり>してしまった。<あの人の助手席に>乗って<横顔にドキドキしてる あたしに>気づいてしまいました。
というより、こうなるとわかっていて、浮気心のほうが勝ってしまったのだと思います。そして、帰り道に込み上げてくる罪悪感。<あの人>によそ見をしてしまって、<あなた>を正面から見られない後ろめたさ。結果、様々な葛藤から逃げるかのように<あたし>は、小さな罪の原因を心の中で<あなた>のせいにしてしまうのです。
幸せにするなんて
つまんないこと言わないで
脱がせあって確かめ合って
知らないあなたを知りたい
昨日と違うとこ見せて
新しいキスをして
いつも新しいキスをして
「新しいキスをして」/中村千尋
正直、お相手は<あの人>でなくても良かったのかもしれません。大切なのは、今の<あたし>が欲しているのが“<幸せにするなんて つまんないこと>=穏やかな幸せ”ではなくて“<ドキドキ>=刺激”だということ。その<ドキドキ>欲を<あなた>が満たしてよ。<よそ見>なんてできないくらいにいつも新鮮な気持ちでいさせてよ。
と、この歌では、そんなワガママな乙女心が露わになっているのです。また、曲タイトルの「新しいキスをして」のあとに続く言葉も想像が広がりますね。新しいキスをして“ください”なのか。新しいキスをして“あげる”なのか。新しいキスをして“しまった”なのか。新しいキスをして“くれないなら”なのか。いろんな解釈ができそうです。
あなたを手放す勇気もないのに
この気持ちを持っていたいなんて
ずるいあたし許さないで
どこにも行けないくらい強く
抱きとめて
守りたいだなんて
ありふれたこと言わないで
あり合わせの隣り合わせじゃ嫌
知らないあたしを知って
昨日とは違うと言って
新しいキスをして
「新しいキスをして」/中村千尋
さらに<あなた>と一緒にいる<あたし>は、窮屈さを感じているようにも思えます。なぜなら<優しく笑いかけ>られるような、<幸せにするなんて>言ってもらえるような、<守りたいだなんて>思ってもらえるような、<あたし>でいなければならないから。本当はそうじゃないのに。だから<知らないあたしを知って>と言うのでしょう。
幸せにするなんて
つまんないこと言わないで
脱がせあって確かめ合って
知らないあなたを知りたい
昨日と違うとこ見せて
新しいキスをして
いつも新しいキスをして
「新しいキスをして」/中村千尋
<ずるいあたし>も知ってほしい。そんな<あたし>を許さないでほしい。嫉妬してほしい。その上で<脱がせあって確かめ合って>ほしい。<あなた>と<新しいキスをして>いたい。ちょっと面倒な主人公ですが、実はそんな本音を抱えている方、少なくないのではないでしょうか。そんなあなたは是非、誰にも言えない想いを重ねながら、中村千尋「新しいキスをして」を聴いてみてください…!
◆紹介曲「新しいキスをして」
作詞:中村千尋
作曲:中村千尋
◆2nd Full Album『スカートの中』
2018年4月10日発売
ZLCP-0372 ¥2,315(税抜)
<収録曲>
1.もくじBOY
2.何でかわかんないけど好き
3.インスタントラブ
4.「来ちゃった」
5.代官山みんなオシャレ
6.新しいキスをして
7.恋愛サイコパス
8.下心スケルトン
9.吾輩は猫である
10.悔しくて泣け
11.悲しみは記念になる