たった一行のフレーズまではエスコートしたい

 2019年4月17日に“BIGMAMA”がニューシングル「mummy mummy」をリリースしました。ドラマ『賭ケグルイ season2』の主題歌として書き下ろされた表題曲。さらにカップリングには「吸血鬼はAB型がお好き」や「Wolfgang in the moon」とタイトルから気になる新曲が収録されております。さて、今日のうたコラムではそんな最新作をご紹介!
 
 今回は特別に、BIGMAMAの作詞を手がけている、ボーカルの“金井政人”さんに単独インタビューを敢行。もともとは「文章を書くのも読むのも大嫌いだった」という彼に、歌詞についてのこだわりや新曲への想いをたっぷりお伺いしましたので、記事を第1弾~第3弾に分けてお届けいたします!では、本日はラスト第3弾をお楽しみください。

広い宇宙の片隅へ
僕らの無計画なハネムーン
太陽さえも焦がすような
微笑みで優しく包んでく

Wolfgang in the moon
Wolfgang on the last day
このままずっと
二人 月で暮らそう
「Wolfgang in the moon」/BIGMAMA

― 3曲目「Wolfgang in the moon」は、映像が浮かんでくるような、ちょっと絵本チックで幻想的な世界観ですね。

金井:そうですね。まず作っていた楽曲がすごく壮大で、宇宙をテーマにしやすいものだったので。あと、2曲目の“吸血鬼”では「血の味」について考えましたが、この“狼男”では「月に吠える理由」を考え、実は月に帰りたかったんじゃないかという結論から物語が出来上がりました。

冒頭でも言いましたが、僕のなかでの3曲共通のテーマは“怪物に学べ”というもので。なんか“ミイラ”や“吸血鬼”もそうですけど、そういう古典的に伝わっているものには、何か自分の知らない学ぶべきことがあると思うんですね。十字架が嫌いとか、ニンニクが嫌いとか、そういうところに隠された何か。それを想像するところから始めたんです。

地球は青ざめた顔のまま
僕らの行方を捜している
「Wolfgang in the moon」

金井:歌詞では、このたった一行がすごく気に入っているんですよね。有名な「地球は青かった」という言葉を<地球は青ざめた顔のまま>に変えると、どこか困っている様子を表現できると思いました。地球は何かを失って、それを捜している。そう動機づけしたとき、そこを狼男が月に行きたかったんだという物語に繋げてあげようと。そしてラストは、月への<その一歩目を踏み出せば さあ 何かが変わるかもしれない>というオチを作りましたね。

― 第1弾でお話しいただいた「羊の行方」と同じで、イメージの展開のされ方がすごくおもしろいです。

金井:本当はそんな歌詞は誰も書かなくていいし、地球には必要ないと思うんですよ。頭のなかで数える羊の行方なんて、知ったこっちゃないじゃないですか。だけど自分が作詞で何に喜びを見出しているかというと、それでひとがクスって笑ってくれたり、音楽を通じておもしろいなぁって思ってくれたり、自分にしか作れないものをわかってもらったりすることなんですよね。「まだ羊の行方や血の味について書いたひとはいないでしょ?」というところがエクスタシーなんです。そういうものがエンタメになったら楽しいし、くだらないことがカッコよかったら最高じゃないですか。

だからたまにインタビューで「この歌詞で伝えたいことは?」とか訊かれると、困ってしまうことがよくあって。僕は逆に意味を持ちすぎることには気をつけようと思っているんですね。極論を言うと「世界平和」とか「政治にこう思う」なんてメッセージを歌うくらいなら、それを自分で実現しなさいって思うんですよ。僕ならそうする。それより自分は、音楽家でありたい。誰かが喜ぶものや、良い意味でショックを与えられるようなものを作りたい。それで結果的にひとの心が動いて、誰かの一歩が進んで、ちょっとずつ世界が変わったりしたらいいなぁとは思うけれど、その順番を間違えないようにはしたいですね。

― 金井さんが作詞する際、使わないように気をつける言葉はありますか?

金井:まず、この世の中にすでにあるタイトルはつけたくないですね。だから僕は今、ニューシングルに絶対「Lemon」や「LOSER」とはつけない。何故ならば、それがもう評価されて、そのワードのアイデンティティはそのアーティストが確立させているから。そこは毎回、避けるように気をつけています。

― 逆に、好んでよく使う言葉というと。

金井:<運命>とか<神様>とか。自分の傾向です。その言葉を音楽として最も体現できたのが「神様も言う通りに」という曲で。僕はお参りをしていて、ふと神様の気持ちを想像したことがあるんですね。「これだけたくさんひとがいて、大変だろうな」って。それで一度、お願いをするんじゃなくて「今年も一年頑張るので、見守っていてください」くらいで帰ったことがあるんですよ。そうしたら、のちに「それが正しいんだよ。お参りっていうのは、自分の名前を伝えて、報告をしに行く場所なんだよ」ということを話してくれたひとがいて。

その真偽作法はいろいろあるとは思うんですけど、僕としてはあのときに自分が思い直したことって正しかったんだなって感じました。仮に、神様が願いを叶える順番をつけるとしても、本当に頑張っているひとから優先させていくんじゃないかなって。すると、また助詞の話に戻りますけど“神様の言う通りに”ではなくて「神様も言う通りに」がいいと思ったんですよね。自分の意志で実現させていくんだという気持ちを<も>という助詞に込めて。だから「抗え」というか「偶然を必然に変えろ」と表現したくて<運命>や<神様>というワードを使っていることが多い気がします。

神様も言うとおり
いつか思い通りに
「神様も言う通りに」/BIGMAMA

― 歌詞を書くとき、一番大切にしていることを教えてください。

金井:難しいな。でもやっぱり“おもしろいかどうか”かな。あと、聴き手や読み手をあてにしすぎないこと。信じているけど、信じすぎないこと。音楽って3分前後のスピード感あるなか、浴びせられるように届くものなので、すべての情報を吸い取ってくださいって、無理だと思うんですよ。だから自分の書いたものが100%伝わるとは思ってないというか、過信しないこと。でもたった一行にはエスコートしたいんですよね。このフレーズだけは、ここに込めた思いだけは感じてほしいというものを明確にして、歌詞を書いている場合が多いです。

出来上がり完成 反対に賛成
狂ってないです
狂ってないです
狂ってないです
長いものにはそう
ぐるって巻いて
ぐるって巻いて
ぐるって巻いたら出来上がりました
あれ君どこの木乃伊?
「mummy mummy」

たとえばこの曲だったら<狂ってないです>が<ぐるって巻いて>に変わって、長いものに巻かれていたら「あれ君はどこの誰?」みたいな。結果的にそのワードだけでも残ってくれたら、他はわりと素通りしてくれてOKなんですよ。たとえインタビューで「歌い出しが…」と話していたとしても、そこはたった一度その曲を聴いたときに入ってこなくても、僕の予想通り。だから作った核にちゃんとエスコートすることができれば、歌詞として成功だと思います。そして、もっとこの曲を好きになってくれたひとが、頭から最後までチェックして深読みしたときに、より面白いものが作れていたら最高だし、いい仕事したなって思います。


― 今回は作詞のお話をじっくり訊けて嬉しかったです。これまでBIGMAMAさんのいろんなインタビューを拝読しましたが、歌詞を語っていらっしゃるものってあまり多くないですよね。

金井:そう、そうなんですよ。うちの場合、歌詞はあまり日の目を浴びないところがあります。基本的には、バンドにバイオリニストが入っているという面に価値があり、自分たちの存在意義が強くなっているので。かといってライブハウスで一言一句、歌詞を聴くバンドでもなく、深く考えずに楽しんでほしいなとも思うし。それでも、家に帰ってふとした瞬間に、あるフレーズを思い出してもらえたら、すごく嬉しいですね。せっかく買って聴いてくれたひとが、いろんな面から楽しめるものを作り続けたいです。

― ありがとうございました!では最後に、金井さんがこれまで書いたことないテイストの歌詞で、挑戦してみたいと思うものはありますか?

金井:あ~…いろいろありますよ。ずっと会話で進めてみたい、とか。「 」のなかだけで完結する歌詞。あと“化学式”というテーマの曲を書こうと思ったこともある。ちょっと都市伝説的な話ですけど、H2O(水)っは、とあるキャラクターの形をしているんですよ。水って必要不可欠なものじゃないですか。そして、そのキャラクターもそれぐらいのレベルで侵食しているものじゃないですか。そこに秘密があるんじゃないかなって。それをキャッチ―に歌ったら面白そうだなって。

なんか、たとえば“誰かに手紙を届けるように”とか、そういうことは別に、僕が書かなくても誰かがやるでしょうと思うんですね。そうじゃなくて、自分だけのアイデアが生まれてきた瞬間が、僕自身一番ドキドキできるので。まだ溜めている案もたくさんあるし、それをどんどん新しい形で出していきたいなと思いますね。


(取材・文 / 井出美緒)

◆紹介曲
Wolfgang in the moon
作詞:金井政人
作曲:BIGMAMA

神様も言う通りに
作詞:金井政人
作曲:BIGMAMA

mummy mummy
作詞:金井政人
作曲:BIGMAMA

【第1弾】はコチラ!
【第2弾】はコチラ!

◆ニューシングル「mummy mummy」
2019年4月17日発売
初回限定盤 UPCH-7484 ¥1,800+税
通常盤 UPCH-5959 ¥1,200+税

<収録曲>
1.「mummy mummy」
2.「吸血鬼はAB型がお好き」
3.「Wolfgang in the moon」