“読み書きが嫌いなひと”を前提に、歌詞や文章を書くようになった。

 2019年4月17日に“BIGMAMA”がニューシングル「mummy mummy」をリリースしました。ドラマ『賭ケグルイ season2』の主題歌として書き下ろされた表題曲。さらにカップリングには「吸血鬼はAB型がお好き」や「Wolfgang in the moon」とタイトルから気になる新曲が収録されております。さて、今日のうたコラムではそんな最新作をご紹介!
 
 今回は特別に、BIGMAMAの作詞を手がけている、ボーカルの“金井政人”さんに単独インタビューを敢行。もともとは「文章を書くのも読むのも大嫌いだった」という彼に、歌詞についてのこだわりや新曲への想いをたっぷりお伺いしましたので、記事を第1弾~第3弾に分けてお届けいたします!では、本日はその第1弾をお楽しみください。

― 2006年にデビューされてから、金井さんは10年以上、BIGMAMAの歌詞を手がけ続けておりますが、ご自身の作詞にはどのような特徴があると思いますか?

金井:助詞が好きです。たとえば今回のシングルで言うと「mummy mummy」に<天国も地獄>というフレーズがあるじゃないですか。それは、よく聞く“天国と地獄”という言葉の<と>の助詞を<も>にしただけなんですけど、たった一文字で意味がまったく変わりますよね。天国には心地良い場所というイメージがあるけれど、そのうち飽きて嫌になってしまうんじゃないかなって。そうやって助詞ひとつで物事の見え方が変わってくるのがわかるような歌詞が好きで、そういう書き方をよくしていると思います。

― 昔からそのように言葉について考えることが好きだったのでしょうか。

金井:いや、文章を書くのも読むのも大っ嫌いだったんです。学校でも現代文の成績がとくに悪くて。作者の気持ちなんて作者にしかわからないと思っていました。

― 歌詞を書くようになってから、言葉にこだわるようになってきたのですか?

金井:まず、周りに誰も歌詞を書いてくれるひとがいなかったので、とりあえず書き始めてみたら「あ、これは、そのひとの頭の辞書であったり、引き出しであったり、そういうところにちゃんとオリジナリティーのある言葉が入っていないと、早々に飽きられる」という危機感を覚えたんですね。それで最初は仕方なく、いろんなものを読んだり、ひたすら本屋さんで表紙を眺めたりして。でもだんだん、そんな文字嫌いの自分を楽しませてくれるものに出会えるようになって、それって凄いものだなって感じたんです。

多分、もともと本好きなひとが「楽しい」って思う気持ちとはまた違うんですよ。もともと「嫌い」というのが前提にあって、だけど「修行だ」と言い聞かせて読み続けている。その上で「このひとはなんて素晴らしい文章を書くんだ!」という感覚が何回か繰り返されるようになって。それで僕は、自分と同じように“読み書きが嫌いなひと”を前提に、歌詞や文章を書くようになったんです。嫌いなひとでも楽しんでもらえるような量と、言葉遣いと、内容で、差し出そうと。そういう気持ちで現在に至ります。

― 今や絵本の作家などもなさっていますよね。では、歌詞や絵本の物語って、どういったところをきっかけに生まれるものなのでしょうか。

金井:難しいですね…。こうやって喋っているときに浮かぶこともあるし。あと、たとえば「Sweet Dreams」という曲を書いたときには、まず英語で<have a good night>=“おやすみなさい”というフレーズがあったんですね。そして、よく眠れない夜には「羊が一匹、羊が二匹…」って数えるというじゃないですか。そこで僕は曲をイメージしながら、ふと「じゃあ、あの羊たちはどこへ行くんだろう…」と思ったんです。

くたびれた足取りで
羊は列をなして
未だ見ぬ明日まで
ため息に包まれて
瞼を通り過ぎて行く
「Sweet Dreams」/BIGMAMA

― 羊の行方…!考えたことありませんでした。

金井:「あの羊たちが何をしているのか」ということで、ひとつ物語が書けるなと。かといって、日常の中にそういう種がゴロゴロ転がっているわけでもないんですよ。自分がちゃんと見つけてあげないといけないというか。そこに置いてあるイスひとつでも、どう意味を見出すかで歌詞を書けるのかもしれないし。その都度、作ったものには何かしらの着想の些細なきっかけがありますね。

― 丁寧に生きていないと、気づけないことですね。

金井:もう職業病みたいなものかもしれないです。常に、ハッと思いつくことがあるかどうかのセンサーのスイッチが入っている状態なんですよ。映画を観に行っても、友達とご飯を食べに行っても。なんか僕は今、脳みそをこの部屋にいる方たちから借りていると思っています。自分の脳みそと、限りなく溶かして、合わせ味噌みたいに(笑)。つまり、一緒にいるひとの脳みそと合体させた上で、この時間があるんだと。その感覚は本を読むときも、映画を観るときも同じですね。そうすると、自分だけでは生まれ得なかった言葉とか、表現とか、アイデアが出てくることがあります。

― 活動のなかで“歌詞面”で「ここは変わったな」と思うところってありますか?

金井:単純なところだと、僕は最初、洋楽のバンドに憧れていたので、英語で歌う曲が多かったんですね。だけどやっぱりミュージシャンとして、まず日本人としてきっちり日本語で勝負できないと、長く音楽家でいることは難しいと思って。そこから日本語の歌が増えていったとういう変遷はあります。そこ以外はあまり変わってないかな。ただ、年相応の言葉にはなっていますね。今の自分が歌って、恥ずかしいか恥ずかしくないか、という美徳みたいなものは年齢を重ねるにつれ、少なからず変化していると思います。

― 歌詞で影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?

金井:僕の場合は、アーティストではなく父ですね。自分の父の言葉が一番カッコいい。誰かの歌詞で揺さぶられることってそんなに多くはないし、歴史の教科書に載っているような文章よりも、身の回りの人間に影響を受けます。カッコいいひとたちがたくさんいるので。そのひとたちの言葉が、自分のなかにストックされていって、歌詞に繋がっているような気がしますね。

― なかでも、とくに印象的な言葉を教えてください。

金井:ずっと忘れがたいのは、父からの「お前が巻き込んだひとたちを、絶対に不幸にするな」という言葉かな。これは僕が「ミュージシャンになります」と言った、次の日に言われたんですけど、今でも胸に深く刻まれていますね。まず「幸せにしろ」じゃないところがいいなって。自分の力で誰かを幸せにできるなんて、簡単に思うのはおこがましい。それは家庭を持ったときに、初めて口にするべき言葉なんだろうなって。

だけど「不幸にするな」という言葉は、「損をさせない」とか「出来る範囲のことをし尽くす」とか「困ったときにきちんと助ける」とか、たくさんの解釈ができて。さらに「お前が巻き込んだひとたち」という“巻き込んだひとの範囲”をどこまで僕が設定するかも考えないといけませんよね。周りのスタッフたちなのか、メンバーなのか、ファンの方々なのか。そうやっていろんなことを僕に考えるきっかけを与えてくれた言葉なので、すごく大切にしているんです。


【第2弾に続く!】

(取材・文 / 井出美緒)

◆紹介曲
Sweet dreams
作詞:金井政人
作曲:BIGMAMA

mummy mummy
作詞:金井政人
作曲:BIGMAMA

【第2弾】はコチラ!
【第3弾】はコチラ!

◆ニューシングル「mummy mummy」
2019年4月17日発売
初回限定盤 UPCH-7484 ¥1,800+税
通常盤 UPCH-5959 ¥1,200+税

<収録曲>
1.「mummy mummy」
2.「吸血鬼はAB型がお好き」
3.「Wolfgang in the moon」