ハルカトミユキ

言葉だけは誰よりもパンクでいてやろうと、その時心に誓った。

 2019年5月29日に“ハルカトミユキ”が初のベストアルバム『HARUKATOMIYUKI BEST 2012-2019』をリリースします。今作は、彼女たちの全キャリアから選曲されたフルボリュームの2枚組。さらに、YouTubeのみで限定公開し話題となった「どうせ価値無き命なら」、LIVEで披露されていたものに加筆して完成した「LIFE 2」の初スタジオバージョン、書き下ろし新曲「二十歳の僕らは澄みきっていた」という新録3曲も収録。

 そんな過去と未来を繋ぐ全32曲入りの作品となっているんです。さて、今日のうたコラムでは、そのベストアルバムに収録される新曲「二十歳の僕らは澄みきっていた」をご紹介いたします。なんと今回は特別に、ハルカトミユキの“ハルカ”さんが同曲の歌詞エッセイを執筆。歌詞に滲んでいるリアルを、あの頃の想いを、あれからの生きざまを、そして今を、じっくりご堪能ください。

~「二十歳の僕らは澄みきっていた」歌詞エッセイ~

 高円寺のピンサロ街の一角、細い路地の地下にそのライブハウスはあった。私は十六歳だった。ピタピタの革ジャンにタータンチェックのスカートを履き、真っ赤なモヒカンをしならせながら、狭いステージで男達がギターを掻き鳴らしている。刺青だらけのお姉さんがビールのプラスチックカップを片手に柱に寄りかかり、私はその後ろで呆然とライブを観ていた。そのバンドの演奏が終わりしばらくすると、真ん中で歌っていた金髪の坊主が近寄ってきて「よう」と言った。私はなんだか照れくさい感じで、「ども」と応え、氷だけになったカップをカラカラと煽った。

 金髪坊主は、「ハゲさん」という究極に適当なあだ名で呼んでいた、近所のレンタルビデオ屋で働いている兄ちゃんだった。友達と一緒にそのビデオ屋に遊びに行っては、クダを巻いてよく暇つぶしをした。彼の本当の名前も年齢も知らない。恐らく、二十六、七くらいだったんじゃないかと思う。何かの話の流れでバンドをやっていることを知り、その日初めて足を踏み入れたライブハウスという場所は、衝撃的な空間だった。

 容赦ないタバコの煙と壁にびっしり貼られた黄ばんだステッカー。心臓にまで届く爆音の中で観たライブは、けれど本当に、美しかった。頑張れとか大丈夫とか少しも言わない、お世辞にもいい声とは言えないその歌たちに私は何故だか心から救われて、そんな音楽が世界に存在していることを純粋に嬉しいと思った。現実は絶望的で明日すらわからないのに、みんな底抜けに明るい生命力に満ちていて、どんなに暴力的な言葉でもそれは紛れもない希望の歌だった。モヒカンのお兄さんと刺青だらけのお姉さんは楽しそうに乾杯している。「絶望なんて当たり前だ」とその人達は歌っていた。

 ありふれた高円寺の夜。私はパンクロッカーになりたいと思った。この人達の歌は優しい。くだらなくて汚くてすごく優しい。十六歳の私に、みんな仲良くしなくたっていいし誰かを嫌ったっていいと教えてくれたのは、彼らだけだった。そして、私にフォークソングを教えてくれたのもまた、彼らだった。高田渡。友部正人。吉田拓郎。森田童子。豊田道倫。
 
 私が好きなパンクバンドはみんな、フォークシンガーの言葉を敬愛していた。大きな音や過激なパフォーマンスがなくても、言葉の力だけで人の魂を揺さぶることができる。ならば私も、言葉だけは誰よりもパンクでいてやろうと、その時心に誓ったのだ。そうして、歌にもならない言葉の破片をノートに書き溜めてもうすぐ十五年が経つ。

 ありふれた高円寺の夜。狭いフロアで何度も聴いたあの歌。ピンサロ街のライブハウスに消えていった言葉。音楽番組の陰に埋もれていった言葉。爆音の中、時代と世間に霞んでいった言葉。自分を見失いそうな時、私は今でもその頃ライブハウスで観ていたバンド達のホームページを覗き、いつまでも新鮮なその詩を読み返している。

 ハゲさんが働いていたレンタルビデオ屋は今は100円ショップになった。ハゲさんもバンドを辞めて田舎に帰ったと風の噂で聞いた。歌詞だけは何としても直さないと頑なに思っていた私も今では大人になり、それなりに社会や会社に順応しながら音楽をやっている。あの頃のあの人が聞いたら怒られるかもしれないし、笑われるかもしれない。

 でも、そうやってなんとか生きてきて、根本は変わっていない。いざとなれば全部投げ出してまたあのライブハウスに戻れるし、今でも昔のあの歌ばっかりずっと聴いている。本当にどうしようもなくなってもパンクソングがあればまあなんとかなるか、っていう気がしている。だって絶望なんて当たり前だろ。

<ハルカトミユキ・ハルカ>


◆紹介曲「二十歳の僕らは澄みきっていた
作詞:ハルカ
作曲:ハルカトミユキ

◆『BEST 2012-2019』
2019年5月29日発売
初回盤 AICL-3703~3705 ¥4,500(税込)
通常盤 AICL-3706~3707 ¥3,200(税込)

<Disc-1: Honesty>
1.17才
2.世界
3.光れ
4.どうせ価値無き命なら (新録)
5.ヨーグルト・ホリック
6.シアノタイプ
7.春の雨
8.Vanilla
9.夜明けの月
10.ドライアイス
11.肯定する
12.宝物
13.感情七号線(フラワーカンパニーズカバー)
14.種を蒔く人
15.手紙
16.LIFE 2 (新録)

<Disc-2: Madness>
1.二十歳の僕らは澄みきっていた (新録)
2.ニュートンの林檎
3.振り出しに戻る
4.Hate you
5.インスタントラブ
6.マネキン
7.その日が来たら
8.Pain
9.奇跡を祈ることはもうしない
10.絶望ごっこ
11.わらべうた
12.バッドエンドの続きを
13.DRAG & HUG
14.近眼のゾンビ
15.青い夜更け
16.終わりの始まり

<Disc-3: Early Years>
※初回限定盤のみ
1.夏のうた
2.僕達は(from 1st DEMO)
3.アパート
4.空
5.水槽
6.僕達は(from 2nd DEMO)
7.マゼンタ
8.MONDAY
9.POOL
10.385

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