ハルカトミユキ

物を借りたり貸したりするのが苦手だ。

 2021年8月25日に“ハルカトミユキ”がニューアルバム『明日は晴れるよ』をリリース!約4年2カ月ぶりとなる今作。日本テレビ系『NNNストレイトニュース』のウェザーテーマ曲「夏にだまされて」を含む全8曲が収録。新作についてハルカ(Vo, G)は「『わかんないけど、晴れるよ、大丈夫』このアルバムを通して、自信満々にそう言いたい」、ミユキ(Key, Cho)は「“ラブソング"と“応援歌”がテーマの今作、ど真ん中に勝負を挑む気持ちで曲を作りました」とそれぞれコメントしております。

 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“ハルカトミユキ”のハルカによる歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾。綴っていただいたのは、新曲「RAINY」に通ずるお話です。物の貸し借りが苦手だという彼女。その理由はきっとみなさんもどこか共感できるのではないでしょうか。あなたの部屋にもいつのまにか誰かの“異物”が紛れ込んではいませんか…?

~歌詞エッセイ第1弾:「RAINY」~

物を借りたり貸したりするのが苦手だ。返さなければいけないものは借りない方が気が楽だし、絶対に返して欲しいものは貸さない方がいい。この性質はそのまま、人との距離の取り方に直結している気がする。

「もしかして君の家に、俺の白いスニーカー、置きっ放し?」

何年も前に別れた恋人から、突然そう連絡がきたことがある。確かに、ある。玄関の狭い下駄箱の奥に、行き場なく置かれたままのスニーカーが。忘れていたわけではない。かと言って、常にその存在を意識していたわけでもない。新しい靴を買って下駄箱にしまおうとした時に、スペースがなくて、うわぁ、あれがなければ入るのに、と邪魔に思うくらいだ。

邪魔なら捨てればいいのだ。こんなに長い間取りに来ないのだから、さほど必要な物でもないのだろう。でも一応他人のものである以上、勝手に捨てるのはなんとなく忍びない。見たところまだ真新しいし、いっそのこと売ってしまおうかとも思ったけれど、それもどうかと思う。

いや、何より億劫なのは、捨ててもいいか確認の連絡をすることなのだ。いくら他人同士に戻ったとは言え、一度は二人しか知らない恥部まで共有してしまったような相手と、どういう顔で連絡を取るのが正解なのだろう。

ごちゃごちゃと考えるのが面倒臭くなって扉を閉め、そしてまたしばらく忘れる。その繰り返し。相手から連絡をしてきてくれたことに内心ホッとしながら、「ああ、あったかも」と短く返信する。

スニーカーだけなら、まだいい。私の家の本棚には、自分で買った覚えのない本が何冊もある。買ったはずの本が見当たらないこともまた、ある。明らかにサイズの大きい男物のTシャツが、引き出しの奥からくしゃくしゃに丸まって出てくることもある。

自分のものではなかったはずの“異物”は、いつの間にか生活の中に紛れ込んで、景色に馴染んで、気づかないうちに私という人間の一部になっている。

本を一冊ずつ仕分けることはできても、一緒に買った家具を真っ二つに割ることはできないし、勧められて好きになった映画を今更嫌いになることもできない。誰かと長く一緒にいるというのは、そうやって相手と自分の境界線が曖昧なグラデーションになっていくことだ。それをもう一度別々に引き剥がすという作業は、ものすごく痛い。

だから、物を借りたり貸したりするのがやっぱり苦手だ。本当はずっと返さなくたってよかった物が、返さなければいけない物になったとき、それは「さようなら」を意味するから。たとえ互いの荷物が綺麗さっぱりなくなっても、自分の一部になってしまった誰かと本当の意味で“別れる”のはきっと無理なのだと思う。

連日のように記録的な猛暑が続いている。今朝見た天気予報には、夕方から雨マークが付いていて、玄関に溜まったビニール傘の中から一本を手にしてドアを開けた。その傘は、私のものだったかあの人のものだったかもうわからないけれど、もう全てが、今の私の一部だ。

<ハルカトミユキ・ハルカ>

4thアルバム『明日は晴れるよ』
2021年8月25日発売
QAIR-10178 ¥3,000(税込)

<収録曲>
1. RAINY
2. 鳴らない電話
3. 夏にだまされて
4. 言えたらいのに
5. TIME
6. 君に幸あれ
7. あの場所で
8. 約束
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