ハルカトミユキ

ボロボロにされた今がある。でも絶対に欲しいものがある。

 2019年5月29日に“ハルカトミユキ”が初のベストアルバム『HARUKATOMIYUKI BEST 2012-2019』をリリースしました。今作は、彼女たちの全キャリアから選曲されたフルボリュームの2枚組。さらに、YouTubeのみで限定公開し話題となった「どうせ価値無き命なら」、LIVEで披露されていたものに加筆して完成した「LIFE 2」の初スタジオバージョン、書き下ろし新曲「二十歳の僕らは澄みきっていた」という新録3曲も収録。そんな過去と未来を繋ぐ全32曲入りの作品です。

 さて、今日のうたコラムでは、そのベストアルバムに収録される新曲「LIFE 2」をご紹介いたします。今回は第1弾第2弾に引き続き、最終章・第3弾としてハルカトミユキの“ハルカ”さんが歌詞エッセイを執筆。第1弾では「二十歳の僕らは澄みきっていた」について、第2弾では「どうせ価値無き命なら」について綴ってくださいました。是非、歌詞と併せて、ご熟読を。

~「LIFE 2」歌詞エッセイ~

 彼女は多才だった。子供の頃から足が速くて、スポーツをやらせればある程度器用にこなせたし、学校のテストはどの教科もいつも90点以上をとった。何となく書いた絵は地域の展覧会で表彰され、おまけに歌も上手かった。くりっとした大きな瞳で屈託のない笑い方をする子で、誰からも可愛がられる容姿をしていたが、その生まれ持った才能のせいで彼女を妬む子達も少なくなかった。
 
 小学生の頃の水泳大会で、スイミングスクールに通っていた友達に勝ってしまったとき、彼女に向けられたのは賞賛ではなくある種の諦めに似た視線で、負けた友達はそれからその子を避けるようになった。それ以来、彼女は自分の才能を隠し、何をするにもわざと手を抜くようになる。

 彼女の家庭は恵まれているとは言えなかった。学校が終わると小さな団地の一室に帰って行き、そこには誰も待っていなかった。あるとき彼女は、歌手になりたいと言った。歌うことが好きだった。どうしたら歌手になれるのかわからぬまま、本屋さんで見つけたオーディション雑誌に載っていた住所に自分の写真を送った。
 しばらくして、あるファッション雑誌に読者モデルとして小さく彼女の写真が載るようになる。到底自分では買えない可愛らしい洋服を身にまとい、同世代の華やかな女の子達に囲まれて、彼女はあの頃と同じ笑顔で笑っている。雑誌でその姿を見かけてから数年が経った頃、ある深夜番組に数人の女の子が出演していて、その中に懐かしい顔があった。彼女は水着姿で、男性タレントの卑猥なギャグに手を叩いて笑っていた。

 彼女が歌手になることはなかった。その子が一番欲しかったものは何だっただろうか。その子を妬んでいた子供達が一番欲しかったものは何だっただろうか。今大人になって、あの頃の子供達と、そして私自身が、手に入れたものは何だろうか。


 人生は、「あるもの」と「ないもの」でできている。「LIFE」という言葉について考え続け、最終的に私がたどり着いた結論はそれだった。どんなに考えたってそれ以外のことは何もわからない。幸せがどんな形であっても、そこにあるのは「あるもの」と「ないもの」だけだ。邪魔なのに捨ててしまえないもの。欲しいのに手に入らないもの。生きていて悩むのはいつだってこの二つのことについてだった。
 だからそればかり繰り返し繰り返し歌ってきた。人生、命、生活、という意味の言葉を前にしたとき、自分自身はあまりにも小さく無力で、そこにあるものとないものをひたすら羅列していくしかできないと思った。そしてそれをどうしたって、希望として書きたかった。

 私は彼女の人生と自分の人生を、何故だか重ねてしまう。妬んでいたのは自分だったか彼女だったか、妬まれていたのが自分だったか彼女だったか、わからなくなるときがある。恵まれた才能を持ちながら何にもなれなかったのは私かもしれない。最後に一番欲しいものを手に入れて幸せに暮らしているのは彼女かもしれない。二人の人生がパラレルワールドのように存在しては、どこかで交差して入れ替わっては戻ったりを繰り返す。

 人生で何よりも欲しいと願ってきたものを、私はまだ手に入れていない。それを後からきた誰かがいとも簡単に手にして「こんなもの別にいらないんですけどね」と涼しい顔で笑っている。他人にあるものとないものを数え、羨み、時に蔑んで、自分にもあんなに才能があったはずなのにと、苦しくてたまらなくなる。
 
 でも結局私たちにできるのは、今自分にあるものとないもので生きていくことだけだ。それなら。私にはまだやりたいことがある。ボロボロにされた今がある。でも絶対に欲しいものがある。まだまだ見たい景色がある。あるものがこんなにある。そう言ってやりたい。ほらまだ全然、時間があるじゃないか。

<ハルカトミユキ・ハルカ>

◆紹介曲「LIFE 2
作詞:ハルカ
作曲:野村陽一郎

◆『BEST 2012-2019』
2019年5月29日発売
初回盤 AICL-3703~3705 ¥4,500(税込)
通常盤 AICL-3706~3707 ¥3,200(税込)

<Disc-1: Honesty>
1.17才
2.世界
3.光れ
4.どうせ価値無き命なら (新録)
5.ヨーグルト・ホリック
6.シアノタイプ
7.春の雨
8.Vanilla
9.夜明けの月
10.ドライアイス
11.肯定する
12.宝物
13.感情七号線(フラワーカンパニーズカバー)
14.種を蒔く人
15.手紙
16.LIFE 2 (新録)

<Disc-2: Madness>
1.二十歳の僕らは澄みきっていた (新録)
2.ニュートンの林檎
3.振り出しに戻る
4.Hate you
5.インスタントラブ
6.マネキン
7.その日が来たら
8.Pain
9.奇跡を祈ることはもうしない
10.絶望ごっこ
11.わらべうた
12.バッドエンドの続きを
13.DRAG & HUG
14.近眼のゾンビ
15.青い夜更け
16.終わりの始まり

<Disc-3: Early Years>
※初回限定盤のみ
1.夏のうた
2.僕達は(from 1st DEMO)
3.アパート
4.空
5.水槽
6.僕達は(from 2nd DEMO)
7.マゼンタ
8.MONDAY
9.POOL
10.385
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