ハルカトミユキ

命を半分透き通らせながら、彼は今も生きている。

 2019年5月29日に“ハルカトミユキ”が初のベストアルバム『HARUKATOMIYUKI BEST 2012-2019』をリリースします。今作は、彼女たちの全キャリアから選曲されたフルボリュームの2枚組。さらに、YouTubeのみで限定公開し話題となった「どうせ価値無き命なら」、LIVEで披露されていたものに加筆して完成した「LIFE 2」の初スタジオバージョン、書き下ろし新曲「二十歳の僕らは澄みきっていた」という新録3曲も収録。そんな過去と未来を繋ぐ全32曲入りの作品です。

 さて、今日のうたコラムでは、そのベストアルバムに収録される新曲「どうせ価値無き命なら」をご紹介いたします。今回は第1弾に引き続き、第2弾としてハルカトミユキの“ハルカ”さんが歌詞エッセイを執筆。前週の第1弾では新曲「二十歳の僕らは澄みきっていた」について綴ってくださいました。是非、歌詞と併せて、ご熟読を。

~「どうせ価値無き命なら」歌詞エッセイ~

 とある7月の真夜中、しつこい電話で下北沢に呼び出された。適当な格好で渋々出かけて行き、指定された店の暗い階段を降りると、すでに呂律の回っていない友人が数名ふにゃふにゃ笑いながら飲んでいた。来てみたはいいものの、全員がそこそこに酔っ払っていてまともな会話にならず、私は来てしまったことを早速後悔しながらビールを数杯飲み、まだ居座るとゴネる友人を半ば強引に外に連れ出してタクシーまで送り届けることにした。軽く酔いが覚めるまで、もうすぐ夜が明けそうな国道沿いをしばらく歩く。

 彼とは共通の知り合いが多く、たまになんとなく一緒に飲むような仲だった。いつも酔っ払っている適当な奴に見えていたが、気兼ねなく話せる人当たりの良さがあって憎めなかったし、みんなに慕われているようだった。「今度さ、味噌汁作ってよ。あったかいやつ、飲みたいなー」と彼はふざけたことを何度か言って、私は眠い頭のままでそれを適当に聞き流しながら空車の文字を探した。まだ話し続けている彼を諭しながらやっとタクシーを捕まえると、意外にも素直に乗り込み、相変わらずにやにやした笑顔で「じゃ」と手をあげて去っていった。

 それが彼との最後の会話だった。突然の訃報を聞いた日、LINEのトーク画面を探して引っ張り出してみると「明日のライブ遊びに行くよ!」という数ヶ月前の会話で終わっていて、そこに何を送ろうとも、もう永久に既読がつくことはないということを、もう真夜中に酔っ払って呼び出されることがないということを、悪い夢でもみているかのようにぼんやりと考えた。強面なくせにシャイで、一人で帰っていく背中にどこか優しい淋しさをまとっている人だった。

 私には友人と呼べる人が少ない。一緒に遠くまで遊びに行ったり、月に何度も飲みに行ったり、しょっちゅう連絡を取ったりする人がいない。ただ、生きてさえいてくれればいいと思う人が何人かいる。そう思う人を私は勝手に友人だと思っているが、「生きてさえ」という最低限の願いも、度々、叶わないことがある。

 だから半年に一回くらい、生存確認のように連絡を取り合って、決して元気じゃなくても「元気だよ」と言い合う。嘘でもそう言えるならいいのだ。みんな大抵会えば普通で、くだらないことばかり言っていて大事なことは何にも語らないけれど、そういう人が突然いなくなることも知っている。誰かが出した些細なサインを私たちは簡単に見逃すし、それはきっと見逃してしまいやすくできている。

 大学時代仲の良かった友人は、文通かと思うくらいLINEの返信が遅く、何ヶ月も既読にすらならなかったと思えばある日突然全く関係のない話題が送られてきたりする。昔から、命が半分透き通ってしまっているような人だった。明日いなくなってしまってもおかしくないような人だった。
 
 彼を見ていると自分の平凡な器用さが酷くつまらなく思えて、私はどこかで彼を羨ましいと思っていたのかもしれない。「歌詞が書けない」と久々にLINEを送ったとき、「歌詞が書けないときだけ連絡してくるな、君は」と笑われた。命を半分透き通らせながら、彼は今も生きている。生きてさえいてくれればそれでいい。

 世間は色々と大げさで、死にたい若者がどうとか自殺率がどうとか言っている。そんなことはよくわからないけれど、いつも通り玄関を出て行くように、夜中に笑って電話を切るように、「じゃ」とタクシーで去っていくように、「それ」はすぐ近くにあって、何かの拍子にうっかり触れてしまうことだってあるということを、忘れてはいけないと思う。そういうことがわからない人とは、そっと距離を取っていい。

 私は今も時々、「味噌汁作ってよ」という彼の笑顔を思い出す。そして、もう作れないじゃんばーか、と思っている。

<ハルカトミユキ・ハルカ>

◆紹介曲「どうせ価値無き命なら
作詞:ハルカ
作曲:ミユキ

◆『BEST 2012-2019』
2019年5月29日発売
初回盤 AICL-3703~3705 ¥4,500(税込)
通常盤 AICL-3706~3707 ¥3,200(税込)

<Disc-1: Honesty>
1.17才
2.世界
3.光れ
4.どうせ価値無き命なら (新録)
5.ヨーグルト・ホリック
6.シアノタイプ
7.春の雨
8.Vanilla
9.夜明けの月
10.ドライアイス
11.肯定する
12.宝物
13.感情七号線(フラワーカンパニーズカバー)
14.種を蒔く人
15.手紙
16.LIFE 2 (新録)

<Disc-2: Madness>
1.二十歳の僕らは澄みきっていた (新録)
2.ニュートンの林檎
3.振り出しに戻る
4.Hate you
5.インスタントラブ
6.マネキン
7.その日が来たら
8.Pain
9.奇跡を祈ることはもうしない
10.絶望ごっこ
11.わらべうた
12.バッドエンドの続きを
13.DRAG & HUG
14.近眼のゾンビ
15.青い夜更け
16.終わりの始まり

<Disc-3: Early Years>
※初回限定盤のみ
1.夏のうた
2.僕達は(from 1st DEMO)
3.アパート
4.空
5.水槽
6.僕達は(from 2nd DEMO)
7.マゼンタ
8.MONDAY
9.POOL
10.385
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