あの日の私に伝えたらどんなに驚くだろうな。

西野カナ
あの日の私に伝えたらどんなに驚くだろうな。
女性にとってひとつの恋が 一遍の長編劇画だとしたら 男性にとってのそれは 四コマ漫画の集まりみたいなものではないか (中略) 作中の世界像が全くちがっている。 (角田光代/穂村弘『異性』より引用) こちらは恋愛エッセイ『異性』に綴られていた言葉です。たとえば、恋人との初対面。男性の場合は、脳内で「出会い」というひとつの物語の起承転結が出来上がっております。そして、月日を重ねながら、その時々の【四コマ漫画】がいくつも生まれてゆくのでしょう。しかし女性は違うのです。彼女たちにとって「出会い」とは、長編ストーリーのなかで「今ココ」の“章”にたどり着くまでに欠かせない、始まりのワンシーン。 それは「出会い」に限らず、あらゆる出来事に対して言えそうです。つまり女性は、全てが繋がっているということ。なおかつ、ふと「あのシーン」を思い出し、ページをさかのぼってみたりすることも多々アリ。ゆえに男性より鮮明に、その時々のシチュエーションや相手の言動、自分の抱いた感情まで【世界像】を細やかに覚えているのだと思います。さて、今日のうたコラムでは、そんな女性ならではのラブソングをご紹介! 正直最初はそうでもなかった いい人だけどなんだかなぁ そういう昔話をするたびに キミはスネるけど イケてない地味なファッション 卵みたいな丸い顔も 結局今ではたぶん 私の方が好きだと思う 「アイラブユー」/西野カナ この歌は、2018年4月18日に“西野カナ”がリリースしたデビュー10周年の第1弾シングルのタイトル曲。映画『となりの怪物くん』主題歌として書き下ろされました。ちなみに、映画のあらすじをチェックしてみると、ヒロイン(土屋太鳳)もお相手(菅田将暉)の第一印象は<正直最初は>…という気持ちだった模様。しかし、そこから徐々に徐々に心を通わせてゆく二人のストーリーが、まさに「アイラブユー」の歌詞に重なるのです。 また「アイラブユー」の<私>もやはりこの恋を【一遍の長編劇画】としていることがわかりますね。まず歌の冒頭では「出会い」の章を思い出しているのです。彼女にとっては、大切な起承転結の“起”でしょう。初めて会ったときの<イケてない地味なファッション>や<卵みたいな丸い顔>が鮮明に浮かび、その時の<いい人だけどなんだかなぁ>という気持ちもしっかりと覚えております。ただ、一方の<キミ>は、そんな昔に終わった話をどうして今頃…。と感じて<スネる>のではないでしょうか。 あたりまえに 帰り道アイスクリームはんぶんこしたり あたりまえに 今日も隣で笑ってるけど 「アイラブユー」/西野カナ 派手にこぼした Black Coffee バカだなって笑ってくれる ダメな時はちゃんと叱ってくれる存在 不思議だよね 言おうと思ったら先に言われたり お見通しね 食べたい物も つらい時も 「アイラブユー」/西野カナ さらに「出会い」の章から始まったこの歌には、これまで二人が歩んできたいろんなシーンが綴られてゆきます。コーヒーを派手にこぼした瞬間。ちゃんと叱ってくれた瞬間。通じ合えているなと感じた瞬間。なんでも<お見通し>だなと思った瞬間。帰り道にアイスをはんぶんこした瞬間。隣で笑っている今日この瞬間。まるでページが次々とめくられているかのよう。そんなふうに一瞬一瞬を積み重ねながら<私>は<キミ>と、この恋物語を紡ぎあげてきたことがじんわり伝わってきますね。 やっぱり私はキミでよかった キミをずっと好きでいてよかった キミを知るたびに 気持ちが熱くなった I love you あの時諦めずに I love you 向き合ってくれて 本当にありがとう 今、ふと思った 「アイラブユー」/西野カナ そして、これまでのシーンを振り返る描写があったからこそ、サビの<やっぱり私はキミでよかった>というフレーズが際立ちます。この<やっぱり>という言葉には【変わらないこと】と【予想したとおりになったこと】二つの意味が込められているのでしょう。きっと<私>は何度も<キミでよかった>と感じてきた。そしてずっと<キミでよかった>と思い続けることが出来ると信じてきた。だからこその<やっぱり私はキミでよかった>なのです。 あの日の私に伝えたら どんなに驚くだろうな この人が運命の人だよって やっぱり私はキミでよかった キミをずっと好きでいてよかった キミも今同じ気持ちだったらいいな I love you いつも私の側で I love you 笑っていてくれて 本当にありがとう キミに出会えてよかった 「アイラブユー」/西野カナ この歌を聴くと、もしかしたら今そばにいる<いい人だけどなんだかなぁ>な誰かが<運命の人>なのかも…!?とワクワクした気持ちにもなりますね!すでに大切な人がいる方は、自分の【長編劇画】の様々なシーンを振り返りながら。まだ運命の人に出逢っていないという方は、恋物語の始まりのシーンを楽しみにしながら。西野カナ「アイラブユー」を聴いてみてください!
























