あなたに「暇か?」と聞かれたら、私はいつでも暇になる。

他人からは充分壊れているようにみえても
本人は結構それなりに生きていることはあるものだ。
(穂村弘『本当はちがうんだ日記』より)


 これは恋愛においても然り…。今日のうたコラムでは、まさにそんな【他人からは充分壊れているようにみえる】関係を描いたラブソングをご紹介いたします。2018年3月21日に“瀬川あやか”がリリースした2ndアルバム『センチメンタル』収録曲の「ご都合よし子と足りてる男」です。タイトルからすでに意味深ですが、この歌の主人公の<私>は、いわゆる都合のよい女。そして<あなた>は恋愛に不自由ない“足りてる男”なのです。

今声が聴きたいな なんて思ってるときやってくる
タイミング良いあなたからの電話
気まぐれを恨んだ夜がないとは言い切れないけど
話す2秒後 どうでもよくて
「ご都合よし子と足りてる男」/瀬川あやか

 すべての“ご都合よし子”のみなさん。もう冒頭のフレーズから思わず「あるある!」と頷いてしまいませんか…? 足りてる男が電話をかけてくるのは、いつも<気まぐれ>で、自分が暇になったときだけ。早朝だろうと深夜だろうと「今大丈夫?」と気にかけてくれたことはありません。でも、それでも、良いんです。何故なら、彼女の時間は<あなた>の都合だけで回っており、脳内はどんなときも<あなた>でいっぱいだから。
 
 だから別に<あなたからの電話>もタイミングが良いわけではないのでしょう。きっと<私>は一日中<今声が聴きたいな>と思い続けており、ずっと彼の<気まぐれ>コールを待っていただけなのです。けれど、連絡が来た瞬間に<タイミング良いあなたからの電話>と舞い上がってしまうところも、恋を都合の良いほうに考える“ご都合よし子”の特徴なのかもしれません…。

17cm切った髪 アクション映画も観たわ
苦手な小説も読んでみるのは全部あなたのためよ

あなたに「暇か?」と聞かれたら
私はいつでも暇になる
ご都合よし子は
あなたの足りないところで息をしていくから
Up to you いつも
「ご都合よし子と足りてる男」/瀬川あやか


 さらに“ご都合よし子”は、衣食住も趣味も何もかもを<あなた>の好みの都合に合わせてゆきます。でも、曲を聴いていると、不思議とそこに苦痛や無理は感じないんですよね。むしろ、美容院で<17cm>も髪を切っている間も、彼の好きな<アクション映画>を観ている間も、<苦手な小説>を読んでみる間も、いつだってそこには<あなたのためよ>という恋心が高揚しており、どの時間からも幸せが伝わってくるんです。

ヒールで擦りむいた小指 夜はサラダだけにした
今度がいつでもいいのは待ってる時間も好きだから

みんなに「やめな」と言われても
出来てたら苦労してないし
ご都合よし子は
あなたの足りないところで息をしていくから
Up to you いつも
「ご都合よし子と足りてる男」/瀬川あやか


 また、続く歌詞には【他人からは充分壊れているように】みえそうな、痛々しいフレーズも綴られております。誰だって、親しい友達がそんな恋に陥っていたら「やめな!」「異常だよ!」と叱りたくなるでしょう。でも、本当に本人は【結構それなりに生きている】もの。その恋が異常なことくらい自分が一番よくわかっていながらも、どんな時間も<好きだから>仕方ないのです。今はそれが<私>にとっての幸せで、他の誰に理解してもらえなくたっていいのです。

バカみたいだと笑われても これも言わばひとつの恋で
ご都合よし子は
あなたの足りないところを埋めるためかけていく
今日も 明日もUp to you いつも
「ご都合よし子と足りてる男」/瀬川あやか


 そうして<あなたの足りないところを埋めるためかけていく>彼女は、今日も明日も“駆けて”いきながら、少しずつ自分が“欠けて”いくのでしょう…。だけど、歌詞にもあるように<これも言わばひとつの恋>です。正解も間違いもありません。いつか後悔する日がやってくるとしても、こんなにも誰かにとっての“ご都合よし子”になることができた恋は、人生の大切な記憶となるのだと思います。
 
 今“ご都合よし子”として“足りてる男”との恋愛をしている方。「こんな恋、早くやめなきゃ…」「でも出来てたら苦労してないし…」とネガティブに陥るよりも、瀬川あやか「ご都合よし子と足りてる男」のように、もはやどこか開き直ってその恋を楽しんでみるのもよいのではないでしょうか…!

◆紹介曲「ご都合よし子と足りてる男
作詞:瀬川あやか
作曲:瀬川あやか