一ぱいのお酒牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 千家和也 | 馬飼野俊一 | | 最初の一ぱいは 私につがせて あなたを誰かに 盗られないうちに お酒の楽しさを ふりまく人だから グラスのまわりに 陽だまりができる すこしでいいの 心の隅に 私の愛を 住まわせといて かたほうの眼で なにげなく 私の影を 追いかけて 最初の一ぱいは 私にのませて 信じて待ちわびた ごほうびのように 最初の一ぱいは 私にかえして あなたの名残を 独り占めしたい お酒のせつなさを 知ってる人だから かくれてひそかに 傷ついているわ いつでもいいの 気が向いたとき 私の愛を たしかめにきて かたほうの手で くりかえし 私の眉に 触れてみて 最後の一ぱいは 私にのませて やさしいおやすみの 口づけがわりに すこしでいいの 心の隅に 私の愛を 住まわせといて かたほうの眼で なにげなく 私の影を 追いかけて 最初の一ぱいは 私にのませて 信じて待ちわびた ごほうびのように |
花あかり ~ワルツ~牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 浜圭介 | 前田俊明 | 前田俊明 | 待たせるだけで あの日から いくつの季節が 流れたろ 夜が寒いと 花冷えの 肩が甘える めぐり逢い 思えば長い 冬の日も 色づきそだてた 夢ひとつ 逢いたかったと すがりつく しだれ桜の 花あかり あふれる愛を そそぐよに 空ければグラスに 充たす酒 酔って怨みを こめた目が 胸にせつない 花の宿 吐息もからむ 襟あしに 花びらふたつの こぼれ紅 恋いに生きたい 死にたいと むせぶおぼろ夜 雨になる むせぶおぼろ夜 雨になる |
夢おんな牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 徳久広司 | | 男らしさの あるひとならば だまって女房に してほしかった あれが死ぬほど 愛したひとか 世間の噂に 負けたひと 夢に泣いても 夢に生きたい 夢おんな 雨の夜更けを さまよいながら あなたの居そうな 酒場をのぞく 愛のかたちは どうでもいいの 別れちゃいけない ひとだった 夢は散っても 夢をまた抱く 夢おんな たとえこのまま 逢えなくたって わたしは一生 あなたを待つわ 愛のぬくもり 分けあえるよな ふたりの生活(くらし)が ただ欲しい 夢を欺して 生きてゆけない 夢おんな |
冬仕度牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 遠藤実 | 池多孝春 | あゝ肩を抱く 腕のちからで 冷えてゆく 心がわかる 近づく別れの足音に 背中が寒い 逃げないわ 逃げないわ 陽ざしは春でも これから私 季節はずれの こころは 冬支度 あゝ悲しみに なれていくよに 捨てるなら 時間をかけて ひとひら ふたひら 紅バラも 花びら散らす 追わないわ 追わないわ 別れのつらさに 負けないように 季節はずれの こころは 冬支度 あゝ汽車の窓 よせた笑顔も 沈む陽に 半分かげる 残りの少ない恋の日の 想い出づくり 泣かないわ 泣かないわ ひとりで生きてく 明日のために 季節はずれの こころは 冬支度 |
いち抜けた牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 阿久悠 | 穂口雄右 | | やってられない やってられない やってられない ここで私は いち抜けた あんた それほどいうのなら 少しゃ まごころ見せとくれ お前 ひとりと いいながら 今日の香水 また違う 春もうららと とび出して 三日四日も うろついて それで ごめんもないだろう 抱けばすむよな ことじゃない やってられない やってられない やってられない ここで私は いち抜けた あんた 今度はうそじゃない きれいさっぱり別れるよ 私 これでもまだ若い 違う世界を見つけるよ 春もうららと いいながら ポツリポツリと涙雨 思いなおせも ないだろう そんな目つきも もうごめん やってられない やってられない やってられない ここで私は いち抜けた |
夾竹桃牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 遠藤実 | 斉藤恒夫 | 風邪にたおれた おまえの寝顔 夢で泣いたか ひとすじ涙 外で男は 勝手なくらし ふり向くことも なかったか 馬鹿な男に 夾竹桃の 花がしみるよ ほんの初めは 雨やどりでも いつかつれそう 路地裏住い 俺がもすこし 器用に生きりゃ 苦労もせずに すんだろが 馬鹿な男に 夾竹桃の 花がしみるよ 熱があるのに また起きあがる 俺のためにと 夕げの支度 無理をするなと しかって抱いた 背中のうすさ 細い肩 馬鹿な男に 夾竹桃の 花がしみるよ |
姿見牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 千家和也 | 馬飼野俊一 | | 鏡に姿を うつしてみれば 不幸が着物を 着てるよう 涙にむせて 張り裂けそうな この胸この手で 押さえています 私どこから 間違えたのかしら 男と女の もつれた糸は 鋏(はさみ)でぷつりと 切りましょか できれば過去を 釦(ボタン)のように つけ替えられたら いいのでしょうが 私いつから 間違えたのかしら 躰が細ると 心もやせて 夢までちいさく しぼみそう しおれた花に 盛りの頃の 色艶(いろつや)問うのは 酷(むご)すぎますわ 私なにから 間違えたのかしら 私…… 間違えたのかしら |
友禅流し牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 乙田修三 | 斉藤恒夫 | 雪はまだ 河原に白く 指を切る 水のつめたさ 加賀の金沢 浅野・犀の流れ 明日をさがして さまよう恋に いのち華やぐ 夢染めて 春を呼ぶ 春を呼ぶ 友禅流し 露草で 描いた恋の 行くすえは 水に流れる これがさだめか 紅殻格子[べにからごうし] 慕う女の こころのように ゆれて揉まれる 絵模様の かなしくも 美しい 友禅流し 城下町 肩先さむく ひとり行く 水のたそがれ かすむ白山 夕山ざくら 夢も望みも ぼかした恋に せめて小さな 幸福の 春を呼ぶ 春を呼ぶ 友禅流し |
みちづれ牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 遠藤実 | 斉藤恒夫 | 水にただよう 浮草に おなじさだめと 指をさす 言葉少なに 目をうるませて 俺をみつめて うなづくおまえ きめた きめた おまえとみちづれに 花の咲かない 浮草に いつか 実のなる ときをまつ 寒い夜更けは お酒を買って たまのおごりと はしゃぐ姿に きめた きめた おまえとみちづれに 根なし明日なし 浮草に 月のしずくの やどるころ 夢の中でも この手をもとめ さぐりあてれば 小さな寝息 きめた きめた おまえとみちづれに |
夫婦きどり牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 遠藤実 | 斉藤恒夫 | 抱けばそのまま 腕の中 とけて消えそな あゝおまえ 夫婦みたいに 暮らしたい せめて三日でもねえという おまえに うそはつけない 爪をかむくせ その癖も いつか忘れた あゝおまえ 買った揃いの お茶わんに 夢がさめなけりゃねえという おまえの 顔がまぶしい 肩で甘えて ついてくる 白いうなじの あゝおまえ 襟をあわせて 寂しそに 雨になるかしらねえという おまえの 声が泣いていた |
あなたの妻と呼ばれたい牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 遠藤実 | 京建輔 | お酒のしずくで つづけて書いた おなたの苗字と わたしの名前 愛しても 愛しても 愛したりない 女ごころは うるさいですか 今は夢でも いつかあなたの 妻と 妻と 呼ばれてみたい あなたがうしろを ふりむくときを 今日まで待ったわ 爪かみながら これからも これからも 邪魔をしないで ついてゆきます 嫌わないでね 愛はひとすじ いつかあなたの 妻と 妻と 呼ばれてみたい 指輪もお金も ほしくはないが かなえてあげたい あなたの夢は つくすだけ つくすだけ どうぞわたしの 今の生き甲斐 うばわないでね 何もいらない いつかあなたの 妻と 妻と 呼ばれてみたい |
雨月夜牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 三木たかし | | ひとりぼっちと 思うなと この手に残した 部屋の鍵 あなたのこころが 今しみる 迷い悩んだ 季節のはてに やっと迎えた 雨月夜 男ごころが とけないで 手さぐりしていた 長い春 日蔭になじんだ 一輪草 すぐに日向(ひなた)に 咲けないわけが 眉をくもらす 雨月夜 いいの? 私で いいのねと 追いかけ追いつき 問い返す 恋紅ほのかな 薄明り せめて幸せ 逃げないように 祈る思いの 雨月夜 |
赤提灯の女牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 矢吹光 | 真木陽 | 早川博二 | さいはての 赤提灯に 身を寄せる 明けくれの わびしい暮らしに 負けそうな 気がつきゃここまで 落ちていた 裏窓に むせび泣くよな 汽車の汽笛 母さんが 私の心を 呼び返す 涙になるから 呼ばないで 酒の味 吐いて覚えた きのう今日 お客さん 男の話は 聞かないで 何処にもあるよな 話です |
樹氷の宿牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 相原旭 | 斉藤恒夫 | 明日の別れを 知りながら 命のかぎり 燃える女 ほのかに香る 湯あがりの 肌の白さに 匂う月 ああ みちのく 樹氷の宿 酒のぬくみも 凍てついた さだめの雪は とかせない ほろりと酔えば 死にたいと 弱い女に また返り ああ 君泣く 樹氷の宿 無理に微笑って 朝の日に そむけた顔の いじらしさ 女のそんな まごころに 何も酬いて やれぬ身が ああ せつない 樹氷の宿 |
室生寺牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 水木かおる | 三木たかし | 前田俊明 | どうしていいのかわからぬままに すがりに来ましたみ仏に 教えてください室生さま 女のかなしみ曳きずって 朱塗りの橋を渡ります 愛してしまえば燃えつくさずに おかない火の蝶恋の蝶 いとしさ憎さの繚乱舞い 夏にはみ寺のシャクナゲも 一期は夢と咲いてます 妻子を捨てさせ愛する人も なくして五重の塔の下 救けてくだせさい室生さま 深山のしぐれは罪ぶかい 女の頬を叩きます |
月洩るる窓の下で牧村三枝子 | 牧村三枝子 | 荒木とよひさ | 浜圭介 | | 月洩るる窓の下であなたを待てば 愛しても 愛しても心は遠く TAXI の止まる音が裏切るたびに ひとつずつ ひとつずつ涙がふえる ああ 何故 恋に ああ 何故 女に ああ 何故 人の世に 抱かれても 抱かれても また抱かれたい あなた あなたあなたに… 花冷えの 指の寒さあなたは何処に 逢いたくて 逢いたくて心が走る 電話さえ せめて鳴れば着替えも出来る 口紅を 口紅をときめく色に ああ 何故 愛に ああ 何故 男に ああ 何故 まぼろしに 抱かれても 抱かれても また抱かれたい あなた あなたあなたに… ああ 何故 恋に ああ 何故 女に ああ 何故 人の世に 抱かれても 抱かれても また抱かれたい あなた あなた あなたに… |