LIVE REPORT

ASIAN KUNG-FU GENERATION ライヴレポート

ASIAN KUNG-FU GENERATION ライヴレポート

【ASIAN KUNG-FU GENERATION ライヴレポート】 『25th Anniversary Tour 2021 Special Concert “More Than a Quarter-Century”』2022年3月13日 at パシフィコ横浜 国立大ホール

2022年03月13日@

撮影:山川哲矢/取材:本間夕子

2022.03.21

会場に入って真っ先に目に飛び込んできたのは、ステージ上に設けられた客席、”舞台上ライブ参加型鑑賞席”だった。メンバーの立ち位置後方に150席ほどだろうか、ひな壇状に組まれたその光景はなんとも不思議で、だけど、どんなステージセットよりASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)らしい気もする。このライヴが彼らの結成25周年を記念したものだと思えば、それはなおのこと。彼らの歴史、音楽は常にリスナーとオーディエンスとともにあり、また、彼らほど自覚的にそうあることを全力で希求してきたバンドもそういないだろう。決して迎合するのではなく、内面の写し鏡とも言うべき自身の音楽を通じて、目の前のひとりひとりと対等に向かい合う。たったそれだけの、けれど、実生活ではなかなかに容易ではないそのアティテュードを貫いてきた25年の歩み。

“気持ちとしてはステージも3階も2階も全部フルフラット、物理的な高低はあるけど、精神的な意味ではみんな同じ地べたにいて、一緒に音楽を作っていくイメージ。ひとりひとりの呼吸や“楽しい!”って思った時の身体の振動、そういうもので満たされた空間にできたらいいなと思って、こういうステージを組みました”

今回のこの演出について、MCで後藤正文(Vo&Gt)はそう意図を明かしたが、まさに会場全体がひとつの楽器となって歓喜の調べを奏でているかのような一体感に包まれた夜だ。

3月12日と13日の2日間にわたり、神奈川県・パシフィコ横浜 国立大ホールにて開催された『ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 Special Concert “More Than a Quarter-Century”』。それは昨年11月に行なわれたツアー『25th Anniversary Tour 2021 “Quarter-Century”』の追加公演にしてアニバーサリーの集大成であり、そしてタイトルに掲げられた“More Than”、すなわちこの先に続くアジカンの未来に一層の期待が募る至高かつ至福のステージだった。

最終日となった3月13日は前日同様、「センスレス」によって幕開けられた。昨年11月のツアーを踏襲するようにサポートメンバーを伴わない4人だけの編成で登場するや、堂に入ったプレリュードセッションを轟かせる彼ら。いきなりイントロを奏でることはせず、じわじわと演奏に熱をはらませては太いグルーブの渦へと徐々にオーディエンスを引き込み、一気に興奮を沸騰させる見事な手腕。ライヴとは生演奏による単なる楽曲の再現ではなく、その日その瞬間の温度や空気感を取り込みながら、演者や聴き手、それぞれの感情をも相乗させ、毎回異なる表情を描き出すもの。それこそが醍醐味なのだと最初に教えてくれたのはアジカンではなかったか。

この曲が世に放たれて16年、当時のヒリヒリとした焦燥は今なお鮮やかで、けれど重ねた年月の分だけ奥行きと包容力も増した。そうして今、より心に響くのは《世界中を悲しみが覆って/君に手招きしたって/僕はずっと/想いをそっと此処で歌うから/君は消さないでいてよ》と歌い上げられる大サビだ。コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、絶えず起こる自然災害や犯罪、SNSなどによるいさかいや断絶はもはや日常茶飯事。きっと殊更な事件がなかったとしても悲しみはいつだって隣り合わせで、生きている限り逃れることはできないのだろう。そんな出口の見えない暗闇の中でも、アジカンは自らの想いを音にして奏で、歌い繋いできた。そうすることで私たちに手を伸ばし続けてくれていたのだ、ずっと。今までだって何度となくその手に救われてきたはずなのに、ここにきて改めて気づかされようとは、これもアニバーサリーの魔法だろうか。

のっけから心揺さぶられ、そのまま「Re:Re:」「アフターダーク」と畳みかけられるキラーチューンの数々にひたすらに胸を熱くたぎらせた前半戦。デビュー初期の代表曲「ループ&ループ」や「リライト」「君という花」などが連なるブロックの筆頭を担うのが2017年リリースの24thシングル「荒野を歩け」だというところに、いわゆるファンサービス的なヒットメドレーのみに甘んじないバンドの矜持を感じてニヤリとしてしまう。常に新たな扉を開け、自らの進む道を切り開いてきたASIAN KUNG-FU GENERATIONの現在地。横浜の同じ大学サークルで出会い、バンドを結成した彼らが、25年後にこうして横浜の大きなホールに立っても変わらず4人で音を鳴らすことができているのは、やはり尽きぬ音楽的好奇心と果敢なトライアルの積み重ねがあってこそだろう。もちろんお互いへのリスペクトと信頼も。喜多建介(Gu&Vo)がリードヴォーカルを務める「シーサイドスリーピング」の洒脱で軽やかなアンサンブルにつくづくと思う。

だが、彼らの本領が真に発揮されたのは中盤戦以降、その歴史に折々で携わってきたゲストミュージシャンたちを迎えての一連の流れだろう。最初に呼び込まれたフジファブリックの金澤ダイスケ(Key)は、2010年から2011年にかけて全国70公演(予定では75公演)というアジカン史上最多公演を記録したツアー『Tour 2010-2011 VIBRATION OF THE MUSIC』に帯同し、音楽性の上でも精神的な面でも大きく彼らを支えた、言わば戦友と呼ぶべき存在だ。ホーンやストリングスなどが加わり、これまでのバンドサウンドから進化を遂げた革新的アルバム『マジックディスク』を携えて金澤と一緒に回った本ツアーは充実とともにアジカンにとって大きな転機となったに違いない。「夕暮れの紅」「ケモノノケモノ」でひさびさに披露された息の合った共演はブランクをまるで感じさせることなく、彼らを音楽的成熟へと導いた、その発端をも垣間見させるかのようだ。ツアー『VIBRATION OF THE MUSIC』は東日本大震災の影響により5公演を残したまま完遂されずに終わったが、ここで培われた意志は次の音楽へと継がれ、結実する。金澤を見送ったあと、再び4人だけで演奏された「夜を越えて」は日本中が塞ぎ込む中で必死に自身を奮い立たせながら紡ぎ上げられた一曲であり、「センスレス」と同様に今の状況にも呼応して聴く者を鼓舞するエネルギーを宿した楽曲に育った。

続いては、今やアジカンのライヴにおいて欠かせない“第5のメンバー”として約9年間、彼らを支え続けている“シモリョー”ことthe chef cooks meの下村亮介(Key)が登場し、「迷子犬と雨のビート」「エンパシー」から本編ラストまで全曲をサポート。現在もダイハツ『タント』のCMソングとしてオンエアされている「触れたい 確かめたい」ではそのシングルでも参加している羊文学の塩塚モエカ(Vo&Gu)を、9thアルバム『ホームタウン』収録の「UCLA」では同じく同曲に参加したHomecomingsの畳野彩加(Vo&Gu)をゲストヴォーカルに招いた。また、ニューアルバム『プラネットフォークス』の1曲目を飾る「You To You」ではROTH BART BARONの三船雅也(Vo&Gu)を呼び入れて、三者三様の個性でオーディエンスを魅了する。

ゲストがステージにやってくるたびに心底嬉しそうな笑顔を浮かべ、ハイタッチに握手にと大歓迎するアジカンメンバーたちのなんと無邪気なことか。外部との関わり合いで生まれる化学反応、個性と個性が交わることでもたらされる変化を恐れず、むしろ率先してそれらを取り込んでは自らの音楽へと昇華させてきたASIAN KUNG-FU GENERATION。バンドは自家中毒に陥ることを極端に嫌い、いつも新しい出会いを求めていた。もちろん自身の成長を望み、そのための刺激を欲する気持ちもあったからでもあろうが、結局、そうしてみんなで鳴らすのが楽しいからというのが何よりの理由ではないだろうか。弾き語りだって音楽はできるし、それもそれで素晴らしい。バンドになればよりパワフルな音像を作れるし、バンドという塊でこそ放てる鋭さもあるだろう。一方で、鳴らす音が増えれば増えるほど豊かに膨らむものもある。現にこの日のこの場がそうであったように。例え新型コロナウイルスの感染予防対策のため観客はマスク着用を義務づけられ、歓声や合唱が禁じられていようとも、拍手はできるし、身体を動かすこともできる。マスク越しでも笑顔になれば、少しの空気の振動は全員分の波動となって空気を震わすだろう。それはまさしく共鳴であり、みんなで鳴らすかけがえのない音楽なんだと「You To You」で後藤と三船が重ねる歌声、連なる言葉の一語一句をオーバーラップさせながら、その喜びを噛み締めた。

“音楽を始めた頃の自分を考えるとずいぶん独りよがりだったなと思います。でも、やればやるほど音楽って人との関係性なんだなって。みんなで努力して曲を作って、それを持ってツアーに出かけて、こうしてライヴをやる時、ここにも関係性があります。全然別の場所から来たみんなの糸がそれぞれ織り重なって布になるような、そういうものだと思います。コロナのパンデミックで声を出せないっていう制限はあるけど、みんなが楽しんでるかどうかはよく分かるし、伝わってきます”

ライヴの終盤、後藤はそうオーディエンスに語りかけ、改めて感謝を口にした。同時に、この日のライヴの模様が全世界に生配信されていることにも触れ、画面の向こうにいるひとりひとりの想いにも寄り添う。そして、村田ストリングスによる総勢8名の弦楽器隊とTurntable Filmsから井上陽介(Gu)を迎え入れると「フラワーズ」を披露。ギターを持たず、ヴォーカルに徹する後藤の歌声が壮大なアンサンブルに融けて客席の隅々にまで染み渡っていく。《さあ 終わりじゃなくて始まりさ》《綺麗に忘れても/未だ どこかで笑っていて》——一抹の寂しさや痛みを抱えてなお、柔らかに大切なあなたの明日を願う、しみじみとした希望感が全身に広がる。本編ラストの「海岸通り」で涙腺はあえなく決壊した。

アンコールに応えて再度4人というオリジナルスタイルでステージに戻ってきたメンバーたち。“これだけは言おうと思って来たんだった”と切り出した後藤は、25年間、自分たちを支え続けてくれたスタッフへの感謝を告げ、オーディエンスに拍手を求めた。コロナ禍でなかなかライヴを開催することができず、チームとしてもきっと苦しい事態を強いられたことだろう。それでも状況は少しずつ好転の兆しを見せつつあり、前述の『プラネットフォークス』リリース後には実に3年振りとなる全国ホールツアーも控えている。

“このチームでみんなの街に行って、強ばった体とか空気を少しでも緩めたり和らげたりできるよう、活動を続けていくので、これからも応援よろしくお願いします。そして何より、こんなタフな時代を一緒に生き抜いてくれてどうもありがとう”

山田貴洋(Ba&Vo)の図太いベースが唸りを上げる。一瞬にして客席に電撃が走る。曲はもちろん「遥か彼方」だ。2003年にインディーズでリリースされ、その後、現在所属するメジャーレーベルから異例の再発売となった1stミニアルバム『崩壊アンプリファー』のオープニングナンバーにして、アニメ『NARUTO -ナルト-』の第2代オープニングテーマに抜擢されたことでアジカンの存在をワールドワイドに知らしめた、始まりの曲とも言える。衰えを知らぬ疾走感、20数年を経てなおいきいきとした躍動感は今もこの曲が彼らの背中を押し続けている証かもしれない。そして、それは次世代、次々世代にも確実に受け継がれ、もつれる足をもっと遠くへと一歩、踏み出させる原動力となっているはずだ。それってなんて素敵なことなのだろう。

冷めやらぬ興奮をさらに底上げするのは伊地知潔(Dr)が打ち鳴らすフロアタムのビートだ。オーラスは「今を生きて」だった。初めて全員の名が作曲者としてクレジットされたこともあり、彼らにとっても思い入れの深い楽曲であるのは間違いないだろう。だが、それを差し引いても、肉体の躍動、生のフィーリングのまばゆさと得難さをこれほどまでに朗々と歌い上げたこの曲ほど25周年のアニバーサリーを締めくくるに相応しい音楽もないのではないか。

振り返ればこの日の前半、後藤は言った。“俺はへそ曲がりなのかもしれないけど、丸ごと音楽みたいな感じでいいと思ってさ。ほんと茶畑からひょっこり顔を出した、みたいな感じ(後藤、山田は静岡県出身だ)で今ここにいるんですよ。気持ち的にはそこから、ずっとつながっていて。だから、音楽丸出しみたいなのでいいかなと思っちゃって”と。なるほど、最新技術を駆使すれば、例えば配信画面の向こうにだけでもバーチャルなカッコ良い空間を観せることはできたかもしれない。いや、このライヴそのものをより未来的にソフィスティケートされた演出にすることだって可能だったはずだ。でも、彼らは“音楽丸出し”を選んだ。ステージ上に客席を組み、この上なく生身な空間を構築した。つまり、この場で感じる肉体の躍動や生のフィーリングがひとりひとりに刻まれること、それによって何かしらいいものが生まれるに違いないと信じたからだろう。少なくともアジカンの25年間はそうやって作られてきたのだと思う。

また、後藤は“俺たちは基本的には通じ合えないじゃん?”とも問いかけた。街中でいきなり見知らぬ誰かとハグし合うこともないし、そこらの居酒屋で喧嘩が起きるくらい、いろんなところでいざこざがある、とも。それを踏まえて“でも、考え方の違いや趣味の違いを乗り越えて、一瞬だけでも気持ちが通じ合う瞬間を音楽は体現できる気がして。そういう可能性を証明できるような夜になったら、そんな瞬間が作れたら”と言葉を続け、彼らはここまで演奏を紡いできたのだ。そして、またオーディエンスも彼らに応えた。声はなくとも弾けるクラップ、突き上がる拳、心地良く揺れて波打つ客席、全てが肉体の躍動で生のフィーリングだった。

肩を組み、深く客席に向かって深く一礼すると、満面の笑みでステージを去った4人。26年目の未来はもう始まっていた。

撮影:山川哲矢/取材:本間夕子

ASIAN KUNG-FU GENERATION

アジアン・カンフー・ジェネレーション:1996年、大学のサークルにて結成。02年にUNDER FLOWER RECORDSより発表したミニアルバム『崩壊アンプリファー』で注目を集める。そして、03年に同作をキューンレコードから異例の再リリース。その後も音源のリリース、ツアー、主催イベント『NANO-MUGEN FES.』と精力的に活動を展開。エモーショナルでポップ、詩情的かつメロディックなギターサウンドで多くのロックファンから高い支持を受けている。

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