LIVE REPORT

THE PINBALLS ライヴレポート

THE PINBALLS ライヴレポート

【THE PINBALLS ライヴレポート】 『THE PINBALLS 15th Anniversary Oneman "Go Back to Zero"』 2021年11月24日 at Zepp DiverCity(TOKYO)

2021年11月24日@

撮影:白石達也/取材:山口智男

2021.11.30

2回のアンコールを含め、2時間にわたって全33曲を演奏したTHE PINBALLS史上最長および、最大キャパのライヴは、これまで筆者が観てきた彼らのライヴの中でベストと言えるものになった。いや、筆者に限らず、本公演を観たファンなら誰しもがTHE PINBALLS史上最高と思ったに違いない。もっとも、活動休止前の最後のライヴなのだから当たり前と言えば、当たり前。彼らだって、それぐらいの覚悟で臨んでいたはずだ。

メンバーのシルエットを映し出した紗幕を文字通り切って落として、「片目のウィリー」からライヴはスタート。中盤、“(活動休止は)未来に進むための決断です。諦めて辞めるわけじゃない”と語った古川貴之(Vo&Gu)が、“めちゃくちゃなヴォーカルによくついきてくれた“とメンバー3人に感謝の言葉を述べながら涙ぐむ場面はあったものの、この日、THE PINBALLSは「片目のウィリー」「ママに捧ぐ」「ヤードセールの元老」「アダムの肋骨」と彼ららしいガレージ・ロックンロール・ナンバーをたたみかけた序盤から、ただならぬ凄みを漂わせながら、観客の気持ちをグイグイと鷲掴みにしていった。

もっとも“これが最後じゃないと思ってステージに立ったことはない。いつだって最後だと思ってライヴしてきた。俺たちは何も変わらない”と古川が語ったように、最初から最後まで渾身の演奏という意味では、これまで通りのTHE PINBALLSらしいアクトだったのだが、この日は一曲一曲に込めた気迫が比べものにならないくらい凄まじかった。たぶん、どの一曲を切り取っても、この日のTHE PINBALLSは最高だと思えたんじゃないか。

もちろん、そんな気迫を感じさせたのは、感情に突き動かされる自称めっちゃくちゃなヴォーカリスト、古川だけにとどまらない。軽やかにステップを踏みながら、ギターを轟音で唸らせる中屋智裕(Gu)が序盤から、お立ち台の上でエビ反りになってソロをキメると、“いつもはクールな中屋がそこまでやるなら俺だって負けられない”と思ったのか、“最高にかっこよく生きようぜ!”と雄叫びを上げた森下拓貴(Ba)はベースアンプに飛び乗るガッツとともに最後のライヴに懸ける情熱をアピールした。そして、タイトにリズムを刻むことに徹しながら、そんな3人がどこかに行ってしまわないようにつなぎ止めていた石原 天(Dr)は終始、冷静に振舞いながら、アンコールに応え、バンドが再びステージに戻ってきた時、“重大事件が発覚!”と古川が明かしたところによると、感極まって、いつの間にか人知れず泣いていたという。

この日、THE PINBALLSは15年の活動に、いったん終止符を打つのだから、“たくさんの美しい思い出をいっぱいもらって嬉しいです”と語った古川をはじめ、メンバーたちの感情が極端に振れたのも大いに頷ける。しかし、前述した通り、演奏そのものはあくまでもアグレッシブというところが、いろいろな魅力を持つ曲をレパートリーに持ちながら、ロックンロールを掲げてきたTHE PINBALLSらしくていい。

この日、彼らが披露したのは、過去の代表曲を再レコーディングした15周年記念のメモリアルアルバム『ZERO TAKES』からの曲も含め、ベスト選曲とも言える新旧のレパートリーの数々だ。いきなり序盤で観客の気持ちを鷲掴みにした彼らがそこにつなげたのが、ディレイをかけたギターリフとツチドチと鳴るダンサブルなドラムが印象的な「ニードルノット」、横ノリの16ビートが新境地を思わせた「マーダピールズ」、跳ねるリズムと中屋のスライドギター、そして古川のやさしい歌声が胸に染みる「SLOW TRAIN」、“踊ろうぜ、ベイビー!”と古川が観客に声をかけたTHE PINBALLS流のディスコナンバー「ダンスパーティの夜」、フォークパンクの「重さのない虹」など、前述したいろいろな魅力を持つ曲の数々。「沈んだ塔」と「あなたが眠る惑星」は、アコースティック・セルフ・カバーアルバムと銘打った『Dress up』のアレンジを経たせいか、バンドサウンドにもかかわらず、曲が持つジャジーな魅力がいっそう際立ってきたように感じられた。

“全員で最高のゼロに突き進むぞ!”(森下)

「蝙蝠と聖レオンハルト」からの後半戦は、再びガレージ・ロックンロールをたたみかけ、前半戦以上の凄まじいエネルギーを迸らせる。前のめりの変型シャッフルがタイトルにぴったりの「七転八倒のブルース」、異色のロカビリー「ブロードウェイ」、ディスコ・パンクの「carnival come」を聴けば、THE PINBALLSがリズムアプローチにも貪欲だったことが分かるだろう。

“みんな、15年間どうもありがとうございました。ロックンロールを好きでいてくれたみんなに思いっきり、こいつはロックンロールだったと思ってもらえるように心を込めて歌いたいと思います”(古川)

本編の最後を飾ったのは、「ニューイングランドの王たち」。THE PINBALLSなりのロックンロール賛歌を思わせる歌詞のみならず、古川の弾き語りに順々に中屋、森下、石原が演奏を重ねるアレンジは、THE PINBALLSというバンドそのものを象徴しているようにも思えた。『ZERO TAKES』の再レコーディングバージョンに加えられていたストリングスを、同期で控えめに鳴らしたところも彼ららしい。

15周年記念でもあると同時に、最後のライヴでもあるこの日の最後を締め括るにはぴったりだった。しかし、じっくりと曲を聴きいらせた状態のまま観客を帰すにわけにはいかなかった。観客だって、最後にもうひと盛り上がりしたかったはず。

2度のアンコールに応え、さらに5曲披露したバンドが最後にダメ押しで渾身の演奏を見せつけたのが「真夏のシューメイカー」。魂を震わせる何かを求め続ける気持ちを歌ったこのロックナンバーが最後の最後に印象づけたのは、“俺たちはやるんだ!って気持ちでいる。全然諦めていない”と語った古川ら、メンバーの4人の新たな決意だったのだと思う。

この日、古川は観客の前でライヴできることが“気持ち良い”と何度も言いながら、自分たちの活動休止がファンに悲しい思いをさせたことを“申し訳ない”とも言ったが、最後の最後にバンドの最高の姿を記憶に焼きつけてもらったことに対しては、悲しい思いをしているファンもありがとうと言うべきなのだろう。

ありがとう、THE PINBALLS。15年間、お疲れ様でした。

撮影:白石達也/取材:山口智男

THE PINBALLS

ザ・ピンボールズ:2006年埼玉で結成された4人組ロックバンド。『SUMMER SONIC』など数々のフェスやイベントにも出演し、アニメ『ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン』第3話エンディングテーマ『劇場支配人のテーマ』が大きな話題に。17 年12 月のミニアルバム『NUMBER SEVEN』をもってメジャー進出。収録曲「七転八倒のブルース」はTV アニメ『伊藤潤二『コレクション』オープニングテーマとして抜擢。18年11月には待望のメジャー1stフルアルバム『時の肋骨』をリリース。20年12月に満を持してメジャー2ndフルアルバム『millions of oblivion』をリリース。21年2月よりワンマンツアー『millions of memories』を敢行する。ガレージともロックンロールとも形容しがたい独自ロックサウンド、荒々しくも歌心あふれる古川貴之のハスキーヴォイスとキャッチーで勢いのあるメロディー、物語のようなファンタジックで印象的な詩世界でロックシーンを揺らす。