私、あなたの前ではずっと笑って、それ以外の顔出せなかった。

世の中のうまくいってるカップルや夫婦は
みんな相手を気遣ってるの。
それができる相手だから続いてるんじゃない。
(ドラマ『失恋ショコラティエ』より)

 ありのままの自分で愛されたい。気を遣わない関係が良い。恋愛においてそう考えている方、多いのではないでしょうか。でも、冒頭のセリフを受け、改めて考えてみると、もしかしたら【心地よさ】とは、お互いのさりげない気遣いによって出来上がっているものなのかもしれません。もちろん、無理をしているわけではなく自然に「そうしてあげたい」と思う気持ちがあるからこそ、続いているのでしょう。

 ただし、どちらかが相手の【心地よさ】に一方的に甘え続けている場合。または、どちらかの【気遣い】に限界がやって来てしまった場合。やがて二人の関係は終わりを迎えることになります…。今日のうたコラムでは、そんな恋の終焉を描いたラブソングをご紹介。2018年3月14日に“緑黄色社会”がリリースした1st Full Album『緑黄色社会』に収録されている楽曲「またね」です。

私 あなたの前ではずっと笑って
それ以外の顔出せなかった
寝息が途切れないように
そっとドアを閉めた
「またね」
「またね」/緑黄色社会

 このように幕を開ける歌。きっと<私>もまた<あなたの前ではずっと笑って>いつも【心地よい】居場所を作り続けてきたのでしょう。好きだから。ずっと一緒に仲良くしていきたいから。いつも笑っていてほしいから。自分がそうしたいと思えたから。泣いたり怒ったりわがまま言ったりせず、うまくやってきたのだと思います。でも、ついに【気遣い】に限界がやって来てしまった…。そして今日、自ら終止符を打ったのです。

雲が見えたのはずっと前
雨は降らないでいてくれる
空はとても優しいのね
気づかないフリをしてる
「またね」/緑黄色社会

 おそらく限界は、突然にやってきたものではありません。二人の関係に<雲が見えたのはずっと前>のこと。少しずつモヤモヤが<私>の心に広がっている様子が伝わってきます。だけど、いつまでも<雨は降らないでいてくれる>優しい空。これは<あなた>のことを表しているのかもしれません。関係の曇りも<私>の笑顔の下の本音も<気づかないフリをしてる>のです。このままでいい、と。まさに【心地よさ】に寄りかかっている状態ですね。

私 あなたの前ではずっと笑って
それ以外の顔出せなかった
別に無理をしていたわけじゃないのに
あなたがいない場所であなたを想うと
いつの間にか涙がこぼれて
この恋がニセモノだって やっと気づいたの
「またね」/緑黄色社会

 そのうちに<私>は<別に無理をしていたわけじゃない>はずの色んなことが変わっていったのでしょう。ずっと笑っていたいというポジティブな気持ちが<それ以外の顔>を出せない苦しみになってしまうほど。心の<雲>はもう<あなたがいない場所であなたを想うと>涙の雨になってしまうほど。また<この恋がニセモノだって やっと気づいたの>というフレーズは、同時に、これまで“本物”だと信じてきたものがあることも含んでおります。

“いつか”なんて言葉はいつも
口に出したらすぐに消える
それを全部叶えていたら
変わっていたのかも
「またね」/緑黄色社会

期待したい気持ちはもう捨てて
これ以上は前に進めない
「またね」/緑黄色社会

 たとえば<“いつか”なんて言葉>は<あなた>の口癖だったとも、<私>から<あなた>に対する願望や期待であったとも考えられます。どちらにしてもそれを信じてきたからこそ、ここまで進めたのでしょう。でも、何もかも叶わない<ニセモノ>だと気づいてしまった…。だからこそ、二人ではもう<これ以上は前に進めない>と、決意をしたのです。ひとことで言えば<私>はもう“疲れてしまった”のではないでしょうか。

抜け殻に気づいたなら
私を探して
もう戻らないのだろうと
少し焦って
寂しくなってほしい
それだけ感じてほしい

私 あなたの前ではずっと笑って
それ以外の顔出せなかった
別に無理をしていたわけじゃないのに
これが最後だからいいよねと
笑顔を崩して起き上がる
寝息が途切れないように
そっとドアを閉めた
「またね」
「またね」/緑黄色社会

 そして歌の終盤、いつだって愛する人のために笑顔を絶やさず【心地よさ】を作ってきた<私>が、今は<あなた>に<少し焦って 寂しくなってほしい>と願っております。そこには、自分がいなくなったことで失ったものの大きさを感じてほしいという痛切な想いが込められている気もします…。その想いにこそ、これまで出せなかった<それ以外の顔>が表れているように思えるのです。
 
 一方で、最後の最後まで【心地よさ】を作ろうとするのも<私>の姿です。眠っている<あなた>を起こしてしまわぬように、そっとドアを閉めること。「さようなら」ではなくて「またね」と告げること。まだ愛のぬくもりが残っているからこその行動ですよね。

 そんな<私>が次に出会う恋人は、どうか、笑顔以外の顔も見せられるような相手でありますように。お互いささやかな【気遣い】を忘れず、うまくやっていける相手でありますように…。そう願わずにはいられない、この歌。是非、歌詞をじっくりよみながら聴いてみてください。

◆1st Full Album『緑黄色社会』
2018年3月14日発売
レーベル:HERE, PLAY POP

<収録曲>
01. Re
02. 始まりの歌
03. 大人ごっこ
04. キラキラ
05. Alice
06. 君が望む世界
07. 恋って
08. regret
09. 真夜中ドライブ
10. またね