終わりのない青さが、僕を小さくしていく。

スピッツ
終わりのない青さが、僕を小さくしていく。
2019年10月9日に“スピッツ”が3年ぶりとなるニューアルバム『見っけ』をリリースしました。今日のうたコラムでは、今作に収録されている新曲「花と虫」をご紹介いたします。この歌は、退屈のなかを過ごしていた、とある<虫>が主人公。ずっと同じ毎日が続くのだろうか…。そんな気持ちに埋もれている方に、聴いていただきたい1曲。 おとなしい花咲く セピア色のジャングルで いつもの羽広げて飛ぶのも 飽き飽きしてたんだ 北へ吹く風に 身体を委ねてたら 痛くても気持ちのいい世界が その先には広がっていた 「花と虫」/スピッツ まず<セピア色のジャングル>とは<僕>の故郷です。懐かしく愛おしい思い出がたくさん沁みている場所。だけどもう、鮮やかな色味も新しい刺激も感じられない場所。そして、そこに咲いている<おとなしい花>も、きっとまた<僕>にとっては“ともに月日を重ねてきたからこその情と退屈”を抱く存在だったのではないでしょうか。 では、そんな<おとなしい花>は<僕>の何なのでしょう。たとえば、かつての<僕>の“仕事”の象徴。つまり<いつもの羽広げて>飛んで、花から蜜や花粉を運ぶ、毎日その繰り返し。それに<飽き飽きしてた>けれど、誰も何も<僕>を傷つけないし、それなりの安定があったから、冴えない日々をボンヤリとやり過ごしていたのだと考えられます。 また、いつも静かに笑っているような優しい“恋人”や“仲間”を意味するものなのかもしれません。その存在はやはり<僕>を安心させてくれたことでしょう。同じ場所で。変わらない温かさで。しかしついに<僕>は“退屈”に耐え切れなくなりました。だって自分には、どこにでも行けるはずの<羽>があるから。そして<北へ吹く風に 身体を委ねてたら>、思いがけず<痛くても気持ちのいい世界>の広がりに出逢ったのです。 終わりのない青さが 僕を小さくしていく 罪で濡れた瞳や 隠していた傷さえも 新しい朝に怯えた 「花と虫」/スピッツ その世界を飛びながら<僕>が感じたのは<終わりのない青さ>です。これまでの自分の軌跡も<罪で濡れた瞳や 隠していた傷さえも>小さく感じられるくらいの青さ。そんな“無限の可能性”を『見っけ』たのでしょう。怒りも泣くことも忘れていたような人生で、ずいぶん久しぶりに<新しい朝に怯え>、魂を震わせることができたのでしょう。 それは夢じゃなく めくるめく時を食べて いつしか大切な花のことまで 忘れてしまったんだ 巷の噂じゃ 生まれ故郷のジャングルは 冷えた砂漠に呑まれそうだってさ かすかに心揺れるけど 終わりのない青さの 誘惑に抗えずに 止まらなかった歩みで 砂利の音にこごえて 新しい朝にまみれた 「花はどうしてる?」つぶやいて噛みしめる 幼い日の記憶を払いのけて 「花と虫」/スピッツ こうして<痛くても気持ちのいい世界>に飛び出した<僕>。ときには<生まれ故郷>に関する良くない噂が入って来たり、ふと<大切な花>のことを思い出し“懐かしさ”や“愛おしさ”を噛みしめたり、過去に<かすかに心揺れる>ことも多々…。それでも、それ以上に、今<新しい朝>のなか輝きたいのです。何度でも新しく怯えて、新しい希望にまみれて、もっともっと<終わりのない青さ>を求めたい気持ちが伝わってきます。 終わりのない青さは 終わりがある青さで 気づかないフリしながら 後ろは振り返らずに 終わりのない青さが 僕を小さくしていく 罪で濡れた瞳や 隠していた傷さえも 新しい朝に怯えた 爽やかな 新しい朝にまみれた 「花と虫」/スピッツ もちろん、いくら<終わりのない青さ>だと感じていても、それは<終わりがある青さ>だと、心のどこかでは気づいています。ひとの心や体には必ず“リミット”があるものだから。また、自分次第でいくらでも終わってしまうものだから。でもだからこそ、今は<気づかないフリしながら 後ろは振り返らずに>先へ先へ<僕>は飛ぶのです。 終わりのない青さが、自分を小さくしていく。世界が大きくなってゆく。そんな限りない希望を描いたのが、スピッツ「花と虫」でしょう。また一方で、<おとなしい花>を“恋人”や“仲間”だと考えると、今度は<花>目線の歌も聴いてみたくなりませんか? 羽を持たない<花>は、自分が知らない世界へ飛んで行った<虫>をどんな気持ちで見つめていたのか…。是非、いろんな解釈でこの歌を楽しんでみてください…! ◆紹介曲「 花と虫 」 作詞:草野正宗 作曲:草野正宗 ◆ニューアルバム『見っけ』 2019年10月9日発売 <収録曲> 01. 見っけ 02. 優しいあの子 03. ありがとさん 04. ラジオデイズ 05. 花と虫 06. ブービー 07. 快速 08. YM71D 09. はぐれ狼 10. まがった僕のしっぽ 11. 初夏の日 12. ヤマブキ