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THE BACK HORN ライヴレポート

THE BACK HORN ライヴレポート

【THE BACK HORN ライヴレポート】 『THE BACK HORN 20th Anniversary 「ALL TIME BESTワンマンツアー」 ~KYO-MEI祭り~』 2019年2月8日 at 日本武道館

2019年02月08日@日本武道館

撮影:AZUSA TAKADA/取材:田山雄士

2019.02.13

結成20周年のアニバーサリーツアー『THE BACK HORN 20th Anniversary「ALL TIME BESTワンマンツアー」~KYO-MEI祭り~』を昨年10月から行なってきたTHE BACK HORNが、そのファイナルを飾る東京・日本武道館公演を2月8日(金)に実施した。

“胸がいっぱいです。もう人生の半分以上をTHE BACK HORNと歩んで、いろんなことをTHE BACK HORNとみんなに教えてもらって、人としてちゃんと生きていこうという力をもらってる気がします。20周年を祝ってもらってるけど、俺たち自身もみんながここまで生きてこられたことを祝福するような、そんなライヴをやっていきたいです。これからもよろしく!”。ライヴ後半、山田将司(Vo)が素直にそう胸の内を明かすと、堪え切れない涙をタオルで拭うファンの姿がビジョンに映った。それがなんだか今も印象深い。何の脚色もなく真っ直ぐに、この夜が素晴らしかったと伝えていた瞬間だったからかもしれない。

THE BACK HORNにとって、武道館ワンマンは今回で3度目。ツアーの途中、松田晋二(Dr)が右手人差し指を5針縫う怪我を負い、12月の福岡でのライヴが延期になってしまうアクシデントもあったものの、1月には振替公演を無事開催。予定通りにこの大舞台で千秋楽が迎えられること、メンバーはもちろん、ファンもひとしおの喜びだと思う。客電が落ち、20年分のアートワークなどが投影されたアニバーサリームービーを挟んで、いよいよ4人が登場。大きく手を叩きながら先頭を歩く菅波栄純(Gu)は早くも胸の高ぶりを抑え切れない様子で、今日を誰より楽しんでやろうと意気込んでいる感じがうかがえた。

集大成を飾る1曲目は「その先へ」だった。バンドを結成した1998年当時の衝動を、生きていく意志を、武道館というステージで確かめつつ、未来を切り開こうとする姿勢。そして、ズーンと重心の低い音塊、《鳴らせ 君の声「その先へ その先へ」 闇を突き抜けて「共にゆこう 共にゆこう」》と奮起させる山田の熱い歌声に引っ張られないわけがない。MVで燃えていた炎は火柱に変わり、4人の前でぼうぼうと噴き上がっている。

「ブラックホールバースデイ」みたいな曲でポジティブへ巻き込むあたりも最高にTHE BACK HORNらしく、これまで共鳴してくれたファンを真摯に想っての粋な曲順に思える。東の花道へ駆け出す菅波。岡峰光舟(Ba)のベースがキレキレにうねり始め、山田のヴォーカルは天井の日の丸へ立ち上るかのよう。アウトロでは松田を中心に最初のカオスパートを迎えた。赤い照明の下、メンバー4人がリリース当初には想像できないほどの楽しげな表情すら覗かせたメジャーデビュー曲「サニー」も実に逞しい。20周年を祝うために全国各地より武道館へ集まった大勢のお客さんが、彼らをプレッシャーから解放させ、互いに心を引き寄せ合っていく。

“待ちに待った日本武道館、ようこそお越しくださいました。どうもありがとうございます! 今日はいろんな想いを持ってきてます。みんなもいろんな想いを持って集まってくれてると思います。それをここで充満させて、最高の夜にしましょう!”とリーダーの松田が挨拶したあと、「罠」「ジョーカー」とダークサイドへ傾倒。山田がギアをまたひとつ上げると、呼応して菅波、岡峰、松田も激しくのめり込む。特別な場所だからこそ、あくまでいつも通りの全力で臨み、自分たちらしいライヴを観てもらいたい。そんな意欲が強く感じられるパフォーマンスが続く。

今回のツアーはインディーズから現在までの楽曲を組み込み、全カ所セットリストを変えてきた彼ら。やってくれたらと密かに期待していた、メンバーの思い入れが深い「ひとり言」、武道館で満を持して披露されました。熾烈に激突する各パート、その過熱ぶりでバンドの凄みをガツンと伝える姿に鳥肌が立つ。曲を噛み締めたあとに“20周年おめでとう!”の声が客席から数多く飛んだことも、「悪人」「雷電」の畳み掛けもいちいち頷ける。これぞ『KYO-MEI祭り』だし、ファンが求めるバックホーンらしさ。「悪人」では脳内裁判のくだりでド派手なタイポグラフィー演出も! 鬼気迫るテンションで生命力を表現するさまは、自ずとTHE BACK HORNの軌跡を雄弁に物語ってもいた。

「コワレモノ」が始まれば、菅波が観客を活気付け、山田はラップ調のヴォーカルへシフト。さらにはメンバー紹介を兼ねたソロ回し、ツアー各地で敢行してきた“神様だらけの?”“スナック!”のコール&レスポンスが決まり、“愛しきこわれもん”で埋まった武道館を今度は縦ノリでブチ上げた。いよいよ一体感が増す中、4人も一段と表情がほころぶ。

中盤のMCはそれぞれがゆったり言葉を交わすシーンも。自身初の武道館公演(2008年)ではこの会場にちなんで“柔道の話をしたね”と岡峰&菅波が振り返り、“3回も武道館でワンマンできるバンドなんだね”“もちろん、みなさんのおかげです!”と語れば、山田も“ありがたいよね。今日は全国からお足元が悪くなる...1日前で良かったね!(※翌日の東京は雪予報) 持ってるね、俺たちは”と笑う。松田はいつも通り律儀に感謝の言葉を述べつつ、ファンの想いを代弁してくれた。“みんなの中でいろんなTHE BACK HORNとの出会いがあったと思います。どの楽曲やアルバムで知ったとか、どんな精神状態だったとかね。20周年のタイミングで集まってくれた人もいるだろうし、本当に嬉しいです。あの曲を聴いてた時はこうだったけど、昔よりは誇らしく生きられてる。そんなことを実感したりしながら、一緒に時間を過ごしていきましょう”と。

松田が話した通り、ここに集まったお客さんの多くはそれぞれのタイミングでTHE BACK HORNと出会い、いろんな局面で彼らの楽曲に救われ、行き場のない気持ちや心の隙間を埋めてきたのだと思う。曲を聴けば当時の記憶が蘇るし、背中を押してもらったことも忘れられない。久しぶりにライヴへ来た人も、きっと変わらぬ包容力と安心感が味わえたのではないだろうか。絶望から希望を、闇から光を見出すように、「初めての呼吸で」以降は胸に突き刺さるばかりでなく、染み込む音も増えてくる。

レゲエ色の濃い「ヘッドフォンチルドレン」は山田のピアニカソロ、岡峰の口笛パートもさることながら、やっぱりオーディエンスの合唱が重なる部分がたまらない。武道館の空間で聴くと格別だった。繊細なアンサンブルのまま、続いては「美しい名前」。孤高かつ異端でありつつも深いやさしさを感じさせるTHE BACK HORNの音楽性が、山田の絞り出す声で極まっていく。このあたりになると、歌い手と聴き手がより一対一で向き合う様相に。「未来」の後半、ハンドマイクに代えて全身全霊で歌い切る山田の姿を食い入るように見つめてしまったのは自分だけじゃないはず。気付けば辺りが大きな拍手で沸いていた。

冒頭に記したグッとくるMCを経て、ライヴは後半へ。“『KYO-MEI祭り』まだまだいこうぜー!”という山田の呼びかけで始まった炎越しの「Running Away」、スクリーンに勇壮な“THE BACK HORN”のロゴが浮かび上がってバクパイプ音とともに突っ走った「グローリア」と、クライマックスに並ぶ近作がキャリアの充実を証明している。しかしながら、バンド20年の道のりはもちろん平坦なものだったわけじゃない。「Running Away」の歌詞通り、今が《思いがけない未来》なのも間違いない。そう言えば、「グローリア」の歌い出しも《人生どう転がるか分からない それを楽しんだもん勝ちだ》だった。THE BACK HORNの生き様を曲が伝えていくこの感じ、思わずゾクゾクしてしまう。もうひとつ付け加えるなら、2番の《友達よ つらかったね 話してくれてありがとね 今夜は涙が止まるまで しょうがねえって言ってやる》。これってTHE BACK HORNの楽曲の在り方そのものだし、リスナーへの寄り添い方さえ言い表わした一節のようでもある。

絶望的状況に光を差すような「シンフォニア」でさらに高まり、本編ラストは4人の凛々しい表情に痺れた「コバルトブルー」、ファンの雄叫びも狂い咲く「刃」の弾丸コンボ!! 全開の照明の中、《立ち上がれ 死んでも譲れないものがある 振り向くな 後ろに道は無い 突き進め》という歌詞、屈強なサウンドに乗せて放たれる金銀の紙吹雪がまた独特の美しさで、改めて唯一無二のバンドであると思い知らされたのだった。

アンコールでも名曲「冬のミルク」、小説家・住野よるとのコラボ曲「ハナレバナレ」と、生きる証を刻んだ人間の愛おしさが滲むナンバーを最後まで4人だけで届けたTHE BACK HORN。そして、山田が“また生きて会おうぜ!”と約束し、松田のパワフルなカウントから「無限の荒野」へ。《我 生きる故 我在り》をタフに体現して、20周年の祭りは盛大に幕を閉じた。

撮影:AZUSA TAKADA/取材:田山雄士

THE BACK HORN

ザ・バックホーン:1998年結成。“KYO-MEI”という言葉をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けている。01年にシングル「サニー」をメジャーリリース。17年には宇多田ヒカルとの共同プロデュース曲「あなたが待ってる」が話題に。結成20周年となる18年、3月にメジャーでは初となるミニアルバム『情景泥棒』を、10月にはインディーズ時代の楽曲を再録した新作アルバム『ALL INDIES THE BACK HORN』を発表。また、ベストセラー作家・住野よるとのコラボレーション企画もスタートし、注目を集めている。

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