曲にして響く幸せって、ちょっと不吉な予感が漂っている。

 今回のうたコラムでは、特別企画として“山崎あおい”דリリィ、さよなら。”の対談を第1弾~第3弾に分けてお届けいたします!同じ大学の同級生であり、アーティストとしてもお互いにリスペクトし合ってきたお二人に、作詞について、ルーツの音楽について、あの名歌詞についてなどなど、じっくり語っていただきました。本日は第2弾!

― 【第1弾】では、お二人とも歌詞が病んでいるとのお話が出ましたが、たとえばご自身の恋愛中にもあまりポジティブにはならないですか?

山崎:なかなかならないですねぇ。手放しで「大好きー!」みたいな感情は、本物の幸せじゃない気がしていて。曲にして響く幸せって、ちょっと不吉な予感が漂っているというか。たとえば私は“ハルカトミユキ”さんがすごく好きで。

僕の部屋には孤独があるし
君の部屋には寂しさがある
2人でいよう
ご飯を食べよう
全て忘れてしまえばいいよ
「アパート」/ハルカトミユキ

山崎:このフレーズが究極の幸せだと思うんですよ。一見、不幸なんですけど、でも結局は幸せって、こういうふうに脆くて、閉鎖的で、お互いに一対一しかないようなもので。それが歌われるべき幸せだったりするのかなって。

リリィ:100%同意。ディズニーの物語みたいに、みんなで歌って踊って、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ、っていうのは本当にファンタジーでしかないよね。僕もハルカトミユキさんの「アパート」は大学のときに山崎から教えてもらって、未だに心のテーマソングみたいな存在になっています。ハルカトミユキさんの歌詞は、とくに一定層の“幸せを幸せとしてストレートに受け取れないひとたち”にものすごく響く。僕も山崎もわりとそういう歌詞が好きだと思います。

山崎:うん。私たちは歌詞に対してグッとくるポイントはすごく似ているよね。マンガのセリフとかもそうだし。良いと思う言葉のチャンネルが近い。だから自分たちが書く歌詞も、お互い似たようなことを書いているわけじゃないんですけど、書きたいものの芯は似ているんじゃないかな。

リリィ:そうだね。出会ってから仲が良いとか悪いとかそういう時期はいろいろあるんですけど(笑)、良いと思うもののはいつでも一番合っている気がする。でも音楽を始めたルーツとかはそんなにシンクロしてないよね?

山崎:私は100%“YUI”さんでしたからね。私世代のギター弾いている女の子は大体、YUIさんきっかけ。映画『タイヨウのうた』を観て、始めたとか。本当にカリスマだと思う。YUIの次はもう出てこない。みんなああなりたかったし、私もなりたかったけど、やっぱりちょっと違った…。

リリィ:大学の頃「私、YUIがやっていること以外はしないから」って言っていたもんね(笑)。僕はもうちょっと病んでいる系のシンガーソングライターが大好きで。“宇多田ヒカル”と“鬼束ちひろ”と“矢井田瞳”。あとバンドは“Mr.Children”と“BUMP OF CHICKEN”と“RADWIMPS”。この6組の影響で育ってきたんです。でも一方で、ハッピーなことを嫌味なく伝えられるアーティストにも憧れてはいますね。たとえば“トータス松本”さんとか。「サムライソウル」なんて涙なしには聴けないもん。最近だと“sumika”さん。あたたかい表現が素敵だなぁと素直に思える。

山崎:あとさ“back number”さんは一見ポジティブに感じられるラブソングが、実はネガティブだったりするのが良いよね。どんなに幸せを歌っていても、別れた、もしくは死んでしまった、元カノの歌に聞こえちゃうんですよ(笑)。

リリィ:わかるー、back numberさんも大好き。あれ何が悲しく感じさせるんだろう。どうやって歌詞を書いてるんだろう。

― 以前、清水依与吏さんは歌ネットのインタビューで「幸せを切り取って歌にしたときに“なんだよ単なるノロケじゃねーか”って自分で思いたくないから、すごく言葉遣いとか表現方法に気を使う」とおっしゃっていました。

山崎:へぇー!たしかに「花束」とかもノロケには感じないですね。だって、付き合い始めの二人を描いていて、後ろ向きなことを歌っているわけでもないのに、いつか来る別れがスケスケじゃないですか。そっちの悲しさのほうが強くて、後味が爽快ではないところが好きなんですよね。

どう思う?これから2人でやっていけると思う?
んんどうかなぁでもとりあえずは
僕は君が好きだよ
「花束」/back number

リリィ:最後のフレーズとかさ、相手に「どう思う?」って訊いたとき、僕は「とりあえず好き」って言われたくない~。

山崎:照れ隠しなんだろうけどね。ただ、歌詞では女の子のほうが<最後は私がフラれると思うな>って伝えているけど、きっと男の子のほうがいずれフラれるんだと思う。「とりあえず」とか言って、余裕ぶっていたけれど、結局は自分がフラれて、あぁ…あんな時期もあったんだなって「花束」を歌っている。…という設定で聴いています(笑)。聴き手がいろいろ想像できる歌詞って良いよね。

リリィ:そういう意味だと、YUIさんの「Good-bye days」も好きだなぁ。あの歌詞って<だからいま 会いにゆく そう決めたんだ>って始まるじゃん。もう最初の<だから>でそれまでのストーリーを誰もがイメージできる。僕は自分の「約束」という曲の始まりが<でも、もし生まれ変わったらその時は探すからね。>なんですけど、その<でも>の使い方は、完全にYUIさんから影響を受けたものですね。

― YUIマニアとして、あおいさんイチオシの曲というと?

山崎:そうだなぁ…。YUIさんは歌詞単体というより、メロディーと併せてのフレーズの使い方がすごいなぁと思っていて。めっちゃ好きなのは「Blue wind」という曲。サビの終わり前まで、わりと高いキーで歌っていたのに、ラストオチのところで<もっと気のきいたこと言ってよ>とひと言入れるのが、上手い~!って。

YOU あなたが言った 神様はきっと見てるよって
YOU 初めて笑えた もっと気のきいたこと言ってよ
「Blue wind」/YUI

山崎:いつも締めが洒落ているんですよ。たとえば「I will love you」という曲も、ずっと<I will love you.>って歌っているんですけど、最後だけ<I love you>なんです。おいしいぜ~!って思います(笑)。

リリィ:良いよねぇ。さっきの「Good-bye days」も最後だけ<かっこよくない優しさがそばにあるから>じゃなくて<かっこよくない優しさに会えてよかったよ>って歌うじゃん。たまんない。そういうフルで聴いて最後の最後でキュンッ!ってなる歌詞は良いねぇ。

― では、お二人にとっての【平成の大スター】を一人だけ挙げるとすると、どなたが浮かびますか?

リリィ:えぇ~難しいけど、平成にデビューして活躍してきたすべてのアーティストとなるとやっぱり…宇多田ヒカルさん?

山崎:まぁそうなるよね。すごいなって思います。落ち込む。どんどん新しいことをやって、どんどん進化していくから、追いつくことを諦めるよね(笑)。

リリィ:未だに揺るぎないもんな。宇多田ヒカルさんは英語詞のイメージが強いけれど、実は日本語の短い言葉数でものすごく突き刺さることを歌うんですよ。たとえば「Movin' on without you」なら<指輪も返すから 私のこころ返して>とか。あと「Be My Last」なら<いつか結ばれるより 今夜一時間会いたい>とか。刺さる~。最近リリースされた“キングダム ハーツ”主題歌の「誓い」もすごかったし。変な拍を取るんだよね、あれ。

山崎:そうそう。普通の職業作詞家だったら絶対に「うわ、やっちゃったな…」っていう譜割り。でも宇多田さんが歌うと、それが唯一無二の味となるからすごい。

リリィ:だから一番の【平成の大スター】といえば、宇多田ヒカルさんかな。もし彼女がいなかったら、もっとJ-POPって時代遅れなものになっていた気がします。なんかそういう1ジャンルを築いてしまうひとって本当にすごいなって。でも、だからといって僕が平成生まれのミスチル・桜井さんやバンプ・藤くんみたいになれるわけではないとすぐに気づいたので(笑)。そういうカリスマにはなれなかったけれど、それでも自分の音楽を聴いてくれるひとがいるという立場なりにやれることを、これからも考えていかないとなって思いますね。

【第3弾】に続く!


(取材・文 / 井出美緒)

◆紹介曲「アパート
作詞:ハルカ
作曲:ハルカトミユキ

花束
作詞:清水依与吏
作曲:清水依与吏

Good-bye days
作詞:YUI
作曲:YUI

Blue wind
作詞:YUI
作曲:COZZi

I will love you
作詞:YUI
作曲:COZZi

Movin' on without you
作詞:宇多田ヒカル
作曲:宇多田ヒカル

Be My Last
作詞:Utada Hikaru
作曲:Utada Hikaru

誓い
作詞:Hikaru Utada
作曲:Hikaru Utada

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