最後のサヨナラは他の誰でもなく、自分に叫んだんだろう。

 ニュースで頻繁に目にする<自殺>というワード。最近では、24歳の女性新入社員の自殺について様々な意見が飛び交っていますよね。「死ぬくらいなら、その場から逃げ出してしまえばよかったのに…」と思う方もたくさんいるでしょう。昔、野島伸司の脚本ドラマ『リップスティック』にこんなセリフがありました。「ほんと、僕らにはよく分かんないよな。今の子たちはどうしてそんな簡単に死のうとするのか」…。しかしそれに対する答えは次のようなセリフでした。

「簡単じゃないですよ。(中略)
死ぬことはいつだって怖いんです。
けど、それしか方法はないと思い詰めちゃうんです。
純粋だから、汚されてまで生きられないんです。」

 この言葉のとおり、きっと“自殺”という道を選んでしまった人のほとんどは「逃げ出す」という選択肢がなくなってしまうくらいまでに追い詰められてしまったのでしょう…。ただ、ニュースをみるとその死んでしまったという事実だけが強調され、ネットではその原因や犯人探しがはじまります。もう亡くなってしまった一人の人間が“たしかに生きていた時間”というところにはあまり目が向けられないのではないでしょうか…。

 しかし、そんな世の中の反応を含め、自殺してしまった人の“たしかに生きていた時間”をもまっすぐに見つめて切り取った歌詞が届きました。女性シンガーソングライター・あいみょんの「生きていたんだよな」という楽曲です。尚、彼女は、来たる11月30日に今作でメジャーデビュー。今日のうたコラムでは、リリースに先がけて歌詞の先行公開がスタートしたこの新曲をご紹介いたします。

二日前このへんで
飛び降り自殺した人のニュースが流れてきた

血まみれセーラー 濡れ衣センコー
たちまちここらはネットの餌食

「危ないですから離れてください」
そのセリフが集合の合図なのにな

馬鹿騒ぎした奴らがアホみたいに撮りまくった
冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない
赤さが綺麗で綺麗で

泣いてしまったんだ
泣いてしまったんだ
何にも知らないブラウン管の外側で
「生きていたんだよな」/あいみょん


 冒頭、テレビから流れてきた衝撃的なニュースの様子が綴られます。亡くなったのは学生の女の子でしょう。血まみれのセーラー服、「SOSに気づけなかったのでは?」と自殺の犯人探しの標的になる先生、亡くなった場所に集まる野次馬たち、そして騒ぎ出すネット…。そんな残酷さや皮肉が描かれている中で、この歌の主人公は<冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない赤さが綺麗で綺麗で 泣いてしまったんだ>と歌うのです。見ず知らずの女の子のために涙が流れた。それはどうしてでしょうか…。

「今ある命を精一杯生きなさい」なんて
綺麗事だな。
精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ
鳥になって 雲をつかんで
風になって 遥遠くへ
希望を抱いて飛んだ

生きて生きて生きて生きて生きて
生きて生きて生きていたんだよな
新しい何かが始まる時
消えたくなっちゃうのかな

生きて生きて生きて生きて生きて
生きて生きて生きていたんだよな
最後のサヨナラは他の誰でもなく
自分に叫んだんだろう

サヨナラ サヨナラ
「生きていたんだよな」/あいみょん

 それは主人公が、亡くなった女の子が飛び降りる寸前までの“生きていた時間”に目を向けたから。<生きて生きて生きて生きて生きて 生きて生きて生きていたんだよな>…何度も繰り返されるこのフレーズからは、“それしか方法はないと思い詰めちゃう”までとことん生き切った女の子の切実な命が伝わってきます。そして彼女が最期の瞬間に、自分自身に向けて叫んだ<サヨナラ>。その孤独な声にあいみょんが答えるかのように、曲のラストは同じ<サヨナラ サヨナラ>という言葉で終わってゆくのです。
 
 また先ほど、この「生きていたんだよな」にインスパイアされ制作された映像作品が完成しました。時間によって変化する“リアルタイム・ツイートムービー”というものです。なんとTwitter内から「死ね」というキーワードが含まれるツイートを約4分ごとに読み取り、ほぼリアルタイムにムービーへと反映する世界初の映像表現だそう。ネットに溢れる「死ね」という言葉、それに対して「生きること」に対する強いメッセージを放つあいみょん…。その人間の“生”を楽曲から、映像から、何度も感じてみてください。

◆紹介曲「生きていたんだよな
作詞:あいみょん
作曲:あいみょん

◆メジャー1stシングル「生きていたんだよな」
2016年11月30日発売
WPCL-12398 ¥1,080(税込)

<収録曲>
M.1 生きていたんだよな
M.2 今日の芸術
M.3 君がいない夜を越えられやしない