期待はしない。でも諦めもしない。

2021年10月27日に“西片梨帆”が自身初となるフル・アルバム『まどろみのひかり』をリリースしました。今作には、先行配信曲「そのままでいてね」「愛は4年で終わる」を含む珠玉の11曲が収録されております。時にやさしく寄り添い、時に鋭利に迫る歌詞の魅力に加えて、爽快なギターロックや、胸に沁みるミドルテンポ、HIPHOP等、サウンド面でもバラエティに富んだ作品が完成!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“西片梨帆”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第2弾。今作『まどろみのひかり』収録曲から「なりたい」「そのままでいてね」「耐えがたいアイロニー」のセルフライナーノーツを綴ってくださいました。自分の可能性に否定的になってしまうとき、相手に変化を求めてしまうとき、皮肉ばかりの世界が生きにくくなったとき、この歌詞とエッセイが届きますように。



こんにちは。西片梨帆です。アルバム『まどろみのひかり』発売記念に歌ネットさんにて2回目の連載、ありがとうございます。今回は、アルバムの中から、3曲。「なりたい」「そのままでいてね」「耐えがたいアイロニー」のセルフライナーノーツです。よろしくお願いします。
 
 
 
ある人と下北沢の駅で待ち合わせしたとき、その人の髪がふらっと風に揺れて、わたしの肩に触れて、なぜか羨ましくなりました。わたしが髪を伸ばしても、その人にはなれないとは分かっているのに、それから伸ばしてみたり。
 
去年の秋に一緒に京都へ旅行したとき、紅葉色の葉っぱを指差して、「あの葉っぱ欲しい~」と、その人が呟くと、葉っぱが風にふらっと舞って、手のひらにポツンと落ちたんです。映画の主人公みたいだなと思いました。「それいつまで持ってるの?」と聞くと、「飽きるまでかなぁ」と答えるその人をみて思ったことがあって。
 
わたしは何に対しても、なれないなと否定的に捉えてしまうことばかりで。だけど、本当に何かを欲しいと望めば、その人の手のひらに葉っぱが落ちたみたいに、ちゃんと欲しい人のもとにやって来るんだと思ったのです。確信したような瞬間でした。
 
夢なんて 叶えられなくても
花瓶に水をやるだけの 人生で 毎日で
わたしは 今 幸福よ
 
いろんな人が、夢は?目標は?と、ビジョンを聞きたがるけど、大それたものじゃなくても、明日が今日より楽しくなればいい、あの人に会えたらいい。そんな小さな幸せだけで、わたしには充分だと思いました。
 
 
 
 
相手に変わって欲しいと求めることは、エゴな気がして、そう思うことをやめました。それは、諦めとは違う何かで、前向きではあるけれど、代わりになる考え方をずっと探していて。見つけた言葉が「そのままでいてね」でした。この言葉を相手に伝えるまでにとても長い時間がかかった気がします。
 
変わってほしいとは思わないから
あなたはそのままでいてね
 
この言葉が、二人の関係にとって、いちばんの愛情表現になればいいと思っています。恋人以外にも、人と人との関わりには色んなことがあると思います。優しいだけで何かを与えてくれるわけではない人もいるし。みんな疲れているし、これ以上傷つかないように過ごしている。
 
その中で、自分の価値観を押し付けるのではなく、自分が動き出すことでその人たちも後に続くように力を貸してもらえたらいいなと思うようになりました。期待はしない。でも諦めもしない。大人にも、もう子どもにもなれないわたしが見つけた一つの答えです。
 
 
 
 
ライブもなく、アルバムも少しずつ延期になっていき、今後の予定が不透明なときを過ごしていた時間。不安に飲まれるまいと、映画や小説をみて、思考を意識的に止めていました。考えると怖くなってしまいそうだったからです。物語は没頭できるし、綺麗だなと思いながらそこに入り込んでも、実体はありません。でも、架空であるということに気づいてしまえば、知らないふりをしていた孤独や不安に向き合わないといけない気がしました。
 
その中で気づいたのは、世の中は皮肉ばかりだということです。物語の主人公みたく、意思を突き通し、自分の正義を持つこととは反対のことを現実世界では求められているように感じました。生きるのが下手だからこそ、音楽で表現をしていても、人としてのまともさを求められたり。いつか終わる人生なのに、誰かの意見に合わせないといけなかったり…。
 
そんなときに祖父が亡くなり、ひとりの人生の終わりを知りました。お葬式の帰り道、原宿の竹下通りを通って帰ると、色んな人が過ぎ去っていって、この人たちは同じ時代を生きているけど、みんな、いつか自分を終えてしまうということは一緒なんだと思うと、どうしようもできない無念さを感じました。
 
たぶん、わたしがわたしを終えたあとも、何も特別なことはなく、普通の“ある日”なのでしょう。主人公とは違うところは、いつかは人生が終わることなのです。その考えに行き着いたとき「皮肉ばかりならせめて、好きなように過ごしたい」と、そう思いました。
 
なんでもない日にそっちへ行くね my mom
 
それをうたった詩です。

<西片梨帆>

◆紹介曲「なりたい
作詞:西片梨帆
作曲:西片梨帆

そのままでいてね
作詞:西片梨帆
作曲:西片梨帆

耐えがたいアイロニー
作詞:西片梨帆
作曲:西片梨帆

◆フルアルバム『まどろみのひかり』
2021年10月27日発売
COCB-54327 ¥3,300(税込)

<収録曲>
1. まちのなか
2. 白昼夢
3. ゆるゆる
4. なりたい
5. そのままでいてね
6. 水槽の脳
7. 耐えがたいアイロニー
8. まどろみのひかり
9. 愛は4年で終わる
10. 夜を捧げる
11. 桜上水で