NakamuraEmi

自分が汚い気がして、だから綺麗なものを見たかった。

 2020年2月5日に“NakamuraEmi”が『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST2』をリリースします。今日のうたコラムでは、そのリード曲として収録される新曲東京タワーをご紹介。みなさんには、何もかもうまくいかないとき、誰にも弱音を吐けないとき、それでもなんとか生きていくパワーがほしいとき、訪れたくなる大切な場所はありますか?

何もうまくいかなくって ドーナツが喉に詰まって
なんの味もしなくって 信号がぼやけて

ネガティブの地雷を踏んで 難なく消えてくハッピー
なんの音もしなくって 明日がぼやけて

無駄なことなんて無い それはわかってる
でも今は綺麗事に聞こえて 自分が汚い気がして
だから綺麗なものを見たかった
東京タワー」/NakamuraEmi


 この歌の主人公はまさに今、気持ちがドン底にある模様。きっと、経験上<何もうまく>いかないときだからこそ、とにかく食べてエネルギーにしなければと<ドーナツ>を頬張ってみたりもしたのでしょう。だけど胃のもっと深いところ、心から込み上げてくる“何か”のせいで、ドーナツは喉に詰まるし、味覚も嗅覚も感じなくなっております。
 
 また<ハッピー>なことを思い出して、自分を立て直したくとも、それを破壊する<ネガティブの地雷を踏んで>しまい“この先もずっと何もうまくいかないままなのかもしれない…”などと、想像上の負の未来に押しつぶされそう。聴覚まで鈍くなってしまうほどに。そこで、そんな“ぼやけた自分”をなんとかするため<私>は<綺麗なもの>を求めて、ある場所へと向かうのです。それが「東京タワー」です。

1人で来てる女は 私くらいだった
誰にも頼れない果てに ここに辿り着いた

てっぺんに着いたら 東京中の夜景に埋もれて
そうそうこれこれ これだよね なのに
板チョコみたいなビルが ビー玉みたいなヘッドライトが
ぼやけて見える

東京タワー 高い空から
如何かこんな事ちっぽけに思わせて
東京タワー 夜景の様に
如何かいっそ私のことも綺麗にして


 そして、たどり着いたのは「東京タワー」のてっぺん。目の前に広がるのは、求めていたはずの“<綺麗なもの>=<東京中の夜景>”でした。しかし心は<そうそうこれこれ これだよね なのに>です。求めていたはず“なのに”なんだか<板チョコみたいなビル>も<ビー玉みたいなヘッドライト>も<ちっぽけ>だったのではないでしょうか。
 
 <私>はそういう<東京中の夜景>に圧倒されたかったのだと思います。そうすれば<綺麗なもの>によって自分の悩みなんか<ちっぽけに思わせて>もらえる気がして。<私のことも綺麗にして>もらえる気がして。でも「東京タワー」の<高い空から>いくら景色を見ても、その心が満たされることはありません。さらに歌は次のように続いてゆきます。

何周も何周も回った 東西南北何周も回った
綺麗に負けてさ 笑顔で帰れる私を探してさ
でも綺麗なものを見れば見るほど
ガラスに映る自分の姿がダサくて
終いには つい出た
40歳近くにもなって「お父さん助けて」って
小さな声に
笑っちゃうよ 笑っちゃうよね
でも皆夜景に夢中だ 誰にも聞こえない
もう涙落としちゃえ せっかくの夜景が ぼやけて見える

 「東京タワー」の<てっぺん>を<何周も何周も>回れば回るほど“<綺麗なもの>=<東京中の夜景>”は“ダサい自分の姿”を際立たせ、逆効果に…。その結果<私>は、つい「お父さん助けて」と声が漏れてしまいました。涙までホロホロとこぼれ落ちてしまいました。ただし実は、これこそが正解だったのかもしれません。
 
 冒頭からずっと<信号がぼやけて>、<明日がぼやけて>、夜景も<ぼやけて>、泣きそうになりながらも涙を落とすのを堪えてきたであろう主人公。あのとき<ドーナツが喉に詰まって>しまったのも、おそらく心から込み上げてくる“涙”を無理矢理、飲み込んだせいです。同時に、泣けない苦しさで五感も、自分も、押し殺していたのでしょう。
 
 だけど本当に大切だったのは<綺麗に負けてさ 笑顔で帰れる私>を見つけることではなく、自分の悩みを<こんな事ちっぽけ>だと誤魔化すことでもなく、弱さにとことん向き合って、吐き出して、泣いて、その上で明日を見つめることだったのだと思います。

東京タワー ここに来たのは
変わらず変わらず綺麗だったから
東京タワー 白黒の日も 灯す光
目印みたい 強さ欲しくて
東京タワー 見上げてみたら
夜空に滲んだ朱色がまた綺麗で
東京タワー 東京タワー
今日のこと多分忘れないんだろう

 こうして幕を閉じてゆく歌。<私>が求めていた<綺麗なもの>とは「東京タワー」の<てっぺん>から見える夜景ではありませんでした。ここに来たのは「東京タワー」そのものの美しさに再会するため。街や人がどんなに変わろうと、変わらず<灯す光>で在り続ける強さ。どんなときでもそこに凛と立つ<朱色>の強さ。
 
 そんな“<綺麗なもの>=「東京タワー」”の綺麗な姿が、これからの<私>にとってのお守りのような存在になっていくのではないでしょうか。それゆえ、最後に<今日のこと多分忘れないんだろう>と歌う<私>は、どこか最初の“ぼやけた自分”よりもずっと生命力に満ちているような気がするのです。
 
 あなたも是非、心身が弱ってきたときには、自分にとっての特別な場所で、NakamuraEmi「東京タワー」を聴いてみてください。

◆紹介曲「東京タワー
作詞:NakamuraEmi
作曲:NakamuraEmi

◆New Album『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST2』
2020年2月5日発売

<収録曲>
1.BEST(新曲)
2.東京タワー(新曲)
3.ちっとも知らなかった
4.ふふ(新曲)
5.ばけもの
6.雨のように泣いてやれ
7.甘っちょろい私が目に染みて
8.相棒<Volkswagenコラボレーションソング>
9.Don’t
10.かかってこいよ
11.N
12.新聞<朝日新聞社 企業ラジオCM>
13.大人の言うことを聞け
14.メジャーデビュー
15.チクッ ※新録音
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