本当は未来なんかよりも瞬間の方が欲しいです

Flower
本当は未来なんかよりも瞬間の方が欲しいです
出会いからずっと心に広がってきた夕焼けを言葉に還す (堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』より) こちらは歌人・堂園昌彦の一首。ずっと心に広がってきた夕焼け。誰かへの確かな愛が、音も立てずに、熱を高めながら胸の内を占めてきた様子が伝わってきますね…。さて、今日のうたコラムではそんな“夕焼け”を“歌”に還した新曲をご紹介いたします。2019年1月23日に“Flower”が配信リリースした新曲「紅のドレス」です。 そうやってあなたはまた 旅立つの 私はあなたを ただ見送ります 男は未来だけを 追いかけて 女はその未来を 待ち続けている 「紅のドレス」/Flower 冒頭では、遠くを見つめ、ひっそり独り言を呟くかのような歌声が響きます。その声が、どこか沈んで聴こえるのは<あなた>が夢を追って<また>旅立ってしまうから。さらに、今の彼の瞳に映っているのは<未来だけ>で、その背中を“ただ見送る私”を振り返ってもくれないから。 <また>ということは、彼女はそんな状況を何度も越えてきたのでしょう。それは<あなた>や“あなたが追いかけている未来”に敬意があるからこそです。歌詞全体が“敬語”で綴られているところからも、その想いは伝わってきます。ただし<私>が淋しさを堪えて<その未来を 待ち続けている>のは100%が彼のためではありません。 広がる夕焼け…紅 それをドレスに仕立て 見てよ見てよ私を忘れずにいてくださいと 素肌に羽織ってせめてもの笑みを浮かべて 手を振るわ 早く早く あなた帰ってきて 本当は 未来なんかよりも 瞬間の方が欲しいです 逢いたくってたまらない時間は淋しすぎるんです 孤独がシクシクと痛む寒い夜長は 涙がしゅるるしゅるり濃黒の闇を流れてしゅるる 「紅のドレス」/Flower <あなた>が夢を叶えたらなら、追いかけ続けているその<未来>を捕まえたなら、ずっと<瞬間>を一緒に過ごせる<未来>がやってくるはず。つまり彼女が望んでいるのは<あなた>が見つめている<未来>と同じであるようで、そうではない部分もあるのです。応援はしたい、支えもしたい、だけど何より<私を忘れずにいて>ほしいのです。 だからこそ“ただ見送る私”を振り返ってもくれない<あなた>の瞳にちゃんと映る<広がる夕焼け>に想いを託しているのでしょう。ちなみに【紅】とは【工(こう)】と同じ響きを持ち【かがり火】を意味する漢字があることから【火のようにあかい色】を連想させる文字。これに【糸】を組み合わせて【あかく染めた布】を表現するんだとか。 まさに「紅のドレス」ですね。このドレスの<紅>には、彼女の愛情、たぎる情熱、彼を待つために生きている心身の血、様々なものが滲んでおります。情念とすら言えるかもしれません。また、敬語ではない<見てよ見てよ><早く早く あなた帰ってきて>といったフレーズには、理性を抑えきれない強い感情が表れているかのようです。 「花の色は うつりにけりな」と 私は空に詠むたび 愛されている証が 欲しくてたまらなくなる 永遠誓うには 頼りなくってくちびるを噛んだ 「紅のドレス」/Flower 「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」これは小野小町の有名な一首。「桜の花はむなしく色あせてしまった。長雨が降っていた間に。私の容姿もむなしく衰えてしまった。暮らしの中で思い悩んでいる間に」という意味の和歌です。きっと「紅のドレス」の<私>もまた「花の色」が移ろってゆくことを不安に思っていたのでしょう。この恋が、あなたの愛が、私の容姿が色あせてゆくことを。 本当は 未来なんかよりも 瞬間の方が欲しいです 逢いたくってたまらない時間は淋しすぎるんです 孤独がシクシクと痛む寒い夜長は 涙がしゅるるしゅるり濃黒の闇を流れて… 本当は どんなときでさえ あなたとふたりでいたいです ひとりで泣きじゃくるくらいならいっそ傷つきたい 叶わぬ恋になるなんて…それだけは嫌 月夜をしゅるるしゅるり彷徨い続けてあなたに逢いたい 「紅のドレス」/Flower すべてのものは移ろってゆく。それゆえに、やっぱり本当は<瞬間>を一緒に重ねたい。<本当は どんなときでさえ あなたとふたりでいたい>。本当は永遠を誓いたい。それがこの歌に込められている本心です。でも、それを口にすることはできず、紅のドレスを引きずって歩くように、真っ赤な想いを引きずりながら生きることしか、今はできないところが切なく苦しいですね…。 夢を追う恋人を待ち続けているあなた。支えたいと思いつつも、本当は淋しくて孤独で痛くて寒くて仕方ないあなた。その想いを重ねながら、Flower「紅のドレス」を聴いてみてください…! ◆紹介曲「 紅のドレス 」 作詞:小竹正人 作曲:Hiroki Sagawa ◆オリジナルアルバム『F』 2019年3月27日発売 仕様A AICL-3688~3689 ¥4,800(税込) 仕様B AICL-3690~3691 ¥4,200(税込) 仕様C AICL-3692 ¥3,000(税込)