微笑んでいるのか涙ぐんでいるのか分からなかったよ。

竹原ピストル
微笑んでいるのか涙ぐんでいるのか分からなかったよ。
己の今日を吠えろ 届けろ明日に 声を オーバー・ザ・オーバー 超えろを超えろ オーバー・ザ・オーバー 超えろを超えろ 「オーバー・ザ・オーバー」/竹原ピストル 2018年4月4日に“竹原ピストル”がニューアルバム『GOOD LUCK TRACK』をリリース。昨年は「よー、そこの若いの」で紅白に初出場を果たし、アツい歌声が多くの視聴者の魂を揺さぶりました。その結果【紅白歌合戦を観て好きになった男性アーティスト】の調査では1位に!さて、そんな彼の楽曲といえばやはり、人間臭く泥臭く全身全霊のメッセージが込められているイメージが強いのではないでしょうか。 冒頭でフレーズをピックアップした今作の収録曲「オーバー・ザ・オーバー」然り。その他「よー、そこの若いの」「Forever Young」「俺のアディダス~人としての志~」「RAIN」といった代表曲も【生きてゆく】ことがテーマになっており、まさに“超えろを超える”ための力がみなぎっているんです。ただ、今日のうたコラムでご紹介したいのは、また異なる魅力が心にじんわり沁みる「月光の仮面」という新曲です。 駐車場を縁取る縁石におしりを落ち着けて 夜露にきみのスニーカーがうっすら汗をかいていた とっておきの冗談を披露したけれど きみはただそっとそっと側にいてくれただけ 「月光の仮面」/竹原ピストル この歌は、まばゆい月明かりの下の二人を描いたラブソング。竹原ピストルの楽曲としてはちょっと意外ですよね。しかし、彼の歌詞の魅力は“人間味”の濃さです。アツい代表曲たちとテイストは違えど、「月光の仮面」の主人公と<きみ>からも、十分に心身の温度が伝わってきます。何より、聴いていてあたたかい気持ちになるのは、二人の間に静かだけれど確かな信頼関係が築かれているからでしょう。 お酒を飲まずにはいられない夜に お酒を飲まずにいられるのは きみと一緒にいるときだけさ 一番自信のあるモノマネを披露したけれど きみはただそっとそっと側にいてくれただけ 「月光の仮面」/竹原ピストル 一緒に<駐車場を縁取る縁石におしりを落ち着けて>いられる。何か<お酒を飲まずにはいられない>ようなことがあった夜でも<きみ>といれば大丈夫。その居心地のよさが、明日も【生きてゆく】ためのささやかな力になるのではないでしょうか。また、主人公は、どちらかに負の出来事が起こったときこそ、わざと<とっておきの冗談>や<一番自信のあるモノマネ>を披露して、気分を上げようとする性分である気がします。 時に、その饒舌さは無理した空元気から生まれているのかもしれません。だけど一方の<きみ>は、おそらくそんな彼の性分も、本当の気持ちも、ちゃんとわかっているんです。その上で<ただそっとそっと側にいてくれた>のです。そして<きみ>がわかってくれていることを、主人公もわかっている…。だからこそ、お互いに幾千の言葉を交し合うよりもずっと、信頼を深める時間であるように思えますね。 さよならの言葉を交わすことさえ 忘れ合えてしまうくらい忘れ合えたらなぁ 唐突にこの歌を披露したけれど きみはただそっとそっと肩を揺らしてくれただけ きみ 月光の仮面を被ってて どんな顔をしていたのか分からなかったよ きみ 月光の仮面を被ってて 微笑んでいるのか涙ぐんでいるのか分からなかったよ きみ 月光の仮面を被ってて。。。 「月光の仮面」/竹原ピストル でもこの歌は、ただあたたかくじんわり沁みるだけのラブソングではありません。曲全体にずっと切なさが漂っているんです。それは<さよならの言葉を交わすことさえ 忘れ合えてしまうくらい忘れ合えたらなぁ>というフレーズの捉え方ひとつでもいろんな解釈ができるでしょう。いっそ<忘れ合えたら>と思うくらいに愛情が募っているのか。それとも、もうすべてが“過去形”で、二人は別れてしまったからこそ<忘れ合えたらなぁ>と思っているのか…。 また<きみはただそっとそっと側にいてくれた>けれど、その感情や本音を露にすることは少なかったのでしょう。それゆえに主人公は心のどこかで「自分は何も分かってあげられなかったなぁ…」という反省と後悔を抱いているようにも感じられます。自分は<きみ>という存在に、あんなに救われたのに、こんなに救われているのに。その想いが<きみ 月光の仮面を被ってて。。。>というフレーズに表れているのです。 余談ですが「月光の仮面」という曲名から、覆面ヒーロー【月光仮面】を思い出しました。誰かがの正義が挫けそうなときに、登場して助けてくれるけれど、仮面を付けているから誰もその正体を知らない…。それが【月光仮面】です。もしかしたら「月光の仮面」の主人公にとっての<きみ>もそのような存在だったのかもしれません。自分がしんどいときに、助けてくれるけれど、月明かりの眩しさで<きみ>の心の正体は分からない…。 そんなもどかしさが、この歌の切なさとして息づいているように思います。竹原ピストルの新たな魅力にじっくりと浸ることができる「月光の仮面」。是非、歌詞を味わいながら曲を聴いてみてください。 ◆ニューアルバム「GOOD LUCK TRACK」 2018年4月4日発売 初回限定盤 VIZL-1352 ¥3,300+税 通常盤 VICL-64979 ¥2,900+税 <収録曲> 1.ぼくは限りない~One for the show~ 2.Here we go !! 3.ゴミ箱から、ブルース 4.どーん!とやってこい、ダイスケ! 5.月光の仮面 6.のらりくらり 7.本庄のド根性 8.いくぜ!いくか!いこうよ! 9.I miss you... 10.名も無き花 11.ドライブトライブ ~初代機材車、二郎号に捧ぐ~ 12.オーバー・ザ・オーバー 13.Amazing Grace 14.狼煙(朗読) ~~Live at京都大作戦 2017~