10年を告げる時針

 2023年12月13日“Thinking Dogs”がバンドとして初めてのアルバム『FAQ』をリリースしました。今作には、4月から毎月配信してきたシングル曲に新曲3曲を加えた全13曲が収録されております。さらに12月22日にはアルバム発売記念のワンマンを代官山UNITで開催決定!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“Thinking Dogs”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾。執筆を担当したのはJun(Gt.)です。綴っていただいたのは、自身が作詞を手掛けた収録曲「キャパクラ」にまつわるお話。今までの「言えなかったこと」を楽曲にぶつけてみたとき、出てきた想いは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



今年もすっかり、コーンポタージュ缶の季節だ。学生時代、校内の自動販売機で買っていた少し熱めの缶。手のひらで転がしながら、コピーバンドの練習をしていたことを思い出す。
安いギターに、錆びかけの弦。少しかじかんだ手で鳴らす6本の弦は、最高に良い音がした。
 
振り返れば、結成10周年間近。
 
「多分、いや、絶対勝つ。」
そう意気込んだイナズマロックフェスのオーディションも、約10年も前の話。
本当に、早い。結果を待つ心臓の鼓動を、今も覚えている。
結果は、準グランプリという、輝かしくももどかしい距離に、焦りと苛立ちを感じた。
今思えば、贅沢な後悔だ。
実力と夢がチグハグだった。だけど心の底から、覚悟が決まった瞬間でもあった。
あの日、世界は終わらなかったのだ。
そして、僕達のはじまりにピリオドを打ち、4人のエキストラからThinking Dogsが誕生する。
 
昔話はこの辺にして。
 
今回「キャパクラ」という曲の歌詞を書いた。メンバーそれぞれが、腹の内をぶちまけようという企画の一環である。今までの「言えなかったこと」を無理矢理消化するのではなく、楽曲にぶつけてみよう、と。
ふざけた曲名にしたのは、多分自分の中の黒い感情を、少しでもポップにしたかったからだ。
 
自分たちの新しい可能性を探る、といえば聞こえはいいが、ほぼほぼグチである。さらにその曲たちを集めてアルバムにするらしい。気が短いヤツらの、最高に暗く尖った話だ。どうかしているぜ。念の為付け加えると、実在の人物や団体とは関係ありません。多分絶対。
 
僕は、存在しないモノ、ファンタジーをカタチに落とし込むのは得意ではない。どちらかといえば、切り貼りするちぎり絵のように、自分の「今」を書く。1度バラして、また組み立てて。
そうすることで、それは等身大のフィクションになる。近くで見ると粗も目立つが、全体像はなんとなく伝わっていると信じたい。
 
この曲のテーマはまさに、その時の「今の自分」だった。昔は、日頃こんなに悩むことになるとは想像していなかった。人生なんとかなると思っていたし、事実、なっていた。
身の程を知るというのは、かくも恐ろしい。昔なら、嫌な気持ちはリフの余韻と一緒に消えていった。それが今や、ネックを握る手すら重い時もある。
 
すがる気持ちで吐き出した言葉。せめてこの辛い時間を無駄にしないために。カタチにすることで、価値を与えることで、こんな自分も肯定できる気がして。正直、本当に世に出るとは思っていなかった。だからこそ、ここまで書いたと言ってもいい。あまりにストレートな内容だったし、スパイスの効いたワードも入っていた。よくGOサインが出たなぁ、と他人事のように思う。
 
過ぎ去ってしまえば、「あんなに辛かった時間」も一瞬だ。こうして歌詞を眺めれば、あの嫌な感情がよみがえるが、それと同時に、「やっぱりなんとかなったな」と楽天家が顔を出す。
 
経験とは、自信だ。
 
経験とは、指針だ。
 
これからも、苦しい時は必ず来る。カフェインに祈り、アルコールで心の傷を洗う日もある。
 
そんな時でも、この暗い歌詞があれば、きっと大丈夫だ。きっとなんとかなる、そう思い出すだろう。最高に暗く尖ったエールを肴に、またグチをこぼしながら、ギターを歪ませるだけのことなのだ。
 
ということで、僕は今、元気です。
 
それだけの話です。
 
<Thinking Dogs・Jun(Gt.)>



◆紹介曲「キャパクラ
作詞:Jun
作曲:綿引裕太

◆ニューアルバム『FAQ』
2023年12月13日発売

<収録曲>
1.I xxxx YOU
2.多分絶対
3.エレメント
4.オートクチュールな愛を
5.ダレカ
6.キャパクラ
7.棘
8.サンクション
9.KODONAism
10.燃やせ
11.メメントモリ
12.深海魚(FAQ ver.)
13.Possibility≠0