手をとった時、その繋ぎ目が僕の世界の真ん中になった。

名を奪われると
帰り道が分からなくなるんだよ。
(映画『千と千尋の神隠し』より引用)

 このセリフ、印象に残っている方も多いでしょう。これは逆に言えば【名前】さえあれば、帰り道は分かるということですよね。きっと【名前】って、軌跡のスタートの印なんです。その始まりから、何度も誰かに呼ばれ、何度も誰かを呼んで、わたしたちは軌跡を作ってゆく…。さて、今日のうたコラムではそんなセリフにも通ずる新曲をご紹介します。

名前ひとつ 胸の奥に 鞄とは別に持ってきたよ
声に出せば鳥になって 君へと向かう名前ひとつ

伝えたい事 言えないまま
消えたらと思うと怖くなって
出来るだけ頑張るけど
どうしていつまでも下手なんだろう

雨が降っても それが止んでも 君を最初に思い出すよ
「Spica」/BUMP OF CHICKEN

 2018年11月14日に“BUMP OF CHICKEN”がリリースしたニューシングル『話がしたいよ / シリウス / Spica』に収録されている新曲「Spica」です。この歌の冒頭にも<名前ひとつ>の持つ力が描かれておりますね。生活に必要なものも、夢も勇気も決意も全て<鞄>に入れて持ってきたとして、そこに<僕>は<名前>だけはしまわなかったのです。

 たとえ何もかもが入った<鞄>を奪われたとして、ただ<胸の奥に>しまっておいた<名前ひとつ>さえ残っていれば<鳥になって 君へと向かう>ことができるから。つまり<君>への帰り道が分かるから。そして、自分の“帰りたい場所”そのものだと言えるほど大切な<君>にだからこそ、100%<伝えたい事>を届け尽くしたいと思うのでしょう。

 しかしどんなに頑張っても、想いを100%言語化するのはなかなか難しいもの。ほんの半分も伝わらないことだってあります。それでは満足できなくて<僕>は<どうしていつまでも下手なんだろう>と落ち込むのです。ただその姿からは、幸でも不幸でも<雨が降っても それが止んでも>、どんなときでもいかに丁寧に真摯に<君>と向き合おうとしているのかが伝わってきますね。

手をとった時 その繋ぎ目が 
僕の世界の真ん中になった
あぁ だから生きてきたのかって
思えるほどの事だった

どこからだって 帰ってこられる
「Spica」/BUMP OF CHICKEN

 サビでは<君>の存在の大きさを、いっそう深く噛みしめるかのような歌声が放たれます。一人では<生きてきた>理由もよくわからなかった。世界はまるで半欠け状態。でも、手と手の<繋ぎ目>ができたとき<僕の世界>はやっと完成したのではないでしょうか。わからなかったことも、自分が持ってないものも、欠けた半分も、<君>の存在によって満たされたのです。

 そうして<世界の真ん中>が生まれたから、何のために生きればいいのか、何を中心に自分の世界は回っているのか、もうはっきりとわかったのだと思います。さらに<僕>は<世界の真ん中>を見失うことはありません。ちゃんと胸の奥に<君へと向かう名前ひとつ>をしまってあるから、迷うことなく<どこからだって 帰ってこられる>のでしょう。

思い出が 音が 光が 命のいたずらに奪われても
名前ひとつ 胸の奥に 君へと向かう名前ひとつ
「Spica」/BUMP OF CHICKEN

汚れても 醜く見えても 卑怯でも 強く抱きしめるよ
手をとった時 その繋ぎ目が
僕の世界の真ん中になった

どこからだって 帰ってこられる
いってきます
「Spica」/BUMP OF CHICKEN

 また、比喩ではなく、無情にもひとの身体からは<思い出が 音が 光が 命のいたずらに奪われて>しまうようなこともあるでしょう。それに心が汚れたり、醜く見えたり、卑怯だったりするときも。でも、それでも、五感も何もかも超えて<君へと向かう>と<僕>は誓います。それだけ、胸の奥の<名前ひとつ>は強いのです。<僕の世界の真ん中>になった<繋ぎ目>は固いのです。

 ラスト、何にも負けない<いってきます>のひと言で幕を閉じてゆく歌。迷わぬ心、信じる心、愛する心を教えてくれるのが、BUMP OF CHICKEN「Spica」という楽曲です。是非、あなたにとっての<君>を強く思い描きながら、この歌を聴いてみてください…!

◆紹介曲「Spica」
作詞:藤原基央
作曲:藤原基央

◆ニューシングル『話がしたいよ / シリウス / Spica』
2018年11月14日発売
初回限定盤 TFCC-89665 ¥1800+税
通常盤 TFCC-89666 ¥1200+税

<収録曲>
01. 話がしたいよ
02. シリウス
03. Spica