どらやきと手紙とFamily。

 2025年10月8日に“ゆいにしお”が新曲「Family」をリリースしました。同曲は、TVアニメ『父は英雄、母は精霊、娘の私は転生者。』エンディングテーマ。家族愛”をテーマに、大切な人を改めて大切にしたくなるような温もりにあふれた一曲。優しくも開放感のあるサウンドにゆいにしおの伸びやかな歌声が重なり、聴く人を優しく包み込むような雰囲気に仕上がっております。
 
 さて、今日のうたではそんな“ゆいにしお”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、新曲「Family」にも通ずる、“あのどらやき”と、眉間に皺寄せながら書く手紙と、家族にまつわるお話です。ぜひ、歌詞とあわせて、エッセイを受け取ってください。



きちんと包装がかけられた3つの箱を並べる。ひとつはにしおFamily(父と母)に、ひとつは夫のFamilyに、ひとつは兄のFamilyに。中身はぜんぶ、浅草にある「御菓子司 亀十」のどらやき6個入り。
 
Familyの誕生日が近づくと、わたしは1年に1度だけ浅草に足を運ぶ。
あのどらやきをはじめて口にした時の感動はなかなか忘れられない。手のひらを覆うほど大きく、ずっしりとした重み。ふわふわなのに、口に入れた後もあんこをがっつりとホールドしてくれる口当たりのいい皮に、甘さ控えめで小豆をしっかり感じられる餡。大きさを忘れるほどぺろりと食べられてしまうおいしさだ。おいしいものを各Familyにも贈りたくて、亀十の巡礼が最近の恒例行事となりつつある。
 
開店からまもない時間に亀十に行くと、すでに店の前の通路にはずらっと人が並んでいた。待っているあいだ、どらやきをいくつ買うのか、あずきと白あんの内訳は何個にするのか考える。もちろん我が家へのプライベートお土産も決して忘れない。
内訳が決まったら、もたつかないように頭の中で何度も唱えて、注文のリハーサルをする。
そうして無事に6個入りのどらやき3箱と我が家のお土産を購入した。二重にした大きな紙袋を抱え込んで、晴れた浅草を歩く。こんなに買い込むのは観光客くらいだと思われたのか、人力車からの営業がアツい。かわしながらようやくカフェに辿り着いた。
 
サンマルクカフェでアイスコーヒーとチョコクロを注文し、テーブルにつくやいなや、3つの箱にそれぞれつける手紙を書く。
手紙を書くのは大好きだけど、Familyたちに書く手紙は、友達への気軽な手紙とは違い、つい手紙の前で眉間に皺を寄せてしまう。そんなに悩まずとも、「手紙 例文」などと検索すればいくらでも文章は出てくるし、AIに要点を伝えて失礼のないプレーンな文章を書いてもらうことだってできる便利な時代になった。
 
だけど私は、眉間を限界まで皺寄せて、できるだけ自分の言葉で書きたい。文法や話法がへんてこでも、その人の口から飛び出そうな言葉が並んだ手紙が好きだからだ。自分の思ったままの言葉を書けば、読んだ人に文字を介して話しかけられるものだと信じている。歌だってそうだもの。
そうして、アイスコーヒーが底を尽きるころにメッセージカードは文字いっぱいになった。
 
手紙をようやく書き終わって、ボロボロこぼしそうだから控えておいたチョコクロをかじる。よりわたしらしい言葉を選ぶために使った脳に甘さが染み込んだ。
 
わたしの言葉のまま、どらやきがやさしい甘さを保ったまま、それぞれのFamilyに無事に着くことを願う。
 
<ゆいにしお>


◆紹介曲「Family
作詞:ゆいにしお
作曲:ゆいにしお