「好き」と言う勇気

 2023年6月21日に“ゆいにしお”がMajor 1st Single『ワークライフアイランド』をリリースしました。今作は新曲3曲を通して“社会人女子の夏”を描くコンセプチュアルな作品になっており、さらに「ゆいにしお presents summer 2man tour "DAILY ISLAND"」は今作のリリースをひっさげたツアーとなっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“ゆいにしお”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回が最終回です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「アイスコーヒー」にまつわるお話。自分にとっての「好き」を、誰かに伝える一歩がなかなか踏み出せないあなたへ。このエッセイと歌詞を受け取ってください。また今回も音声版がございます。本人の朗読でもエッセイをお楽しみください!


ゆいにしおの朗読を聞く

大学生の頃、映画館でバイトをしていた。そこで、「好き」と言う勇気を持ったことで、充実した日々を送ることができた。
 
なんだか、告白してバイト内で恋人ができたかのような書き方となってしまった。実際のところは、好きな音楽を打ち明けたことで、同志を見つけただけのことだ。
 
映画館での業務はおもに、お客さんが出た後のシアター内の清掃。映画を観た後、ポップコーンの空き容器を回収してくれる人を見かけたことがあるかもしれないが、あの役割だ。
 
お客さんが出てくるまで、私たちは劇場の扉の外で待機をする。その待機時間は、もっぱらバイト同士で雑談する時間だった。「大学どこですか?」「サークル入ってますか?」など、他愛のない世間話の中にも、私を苦しめる質問があった。
 
それが「音楽なに聞きますか?」だった。
 
「メインカルチャーばっかり通ってきてるわけじゃないんで…」というスタンスで生きてきたひねくれこじらせサブカル(死語)には答えづらい質問だ。前までは、その質問に出会うたびに、自分の好きなテイストに近い、メジャーシーンで活動するアーティストの名前を出していた。
 
だけど、ある時急にその質問をされて、勇気を持って「はっぴいえんど」が好きだということを言ってみたのだった。そうしたら、質問をしたその人ははっぴいえんどについて知っていた。それだけでなく、じゃあティン・パン・アレーは?とか、吉田美奈子は聞く?とか、たくさん話を広げてくれて、さらには私が好きであろうアーティストの音源を貸してくれた。勇気を持って「好き」と伝えたことで、思わぬ扉が開いた瞬間だった。
 
その後も、その人伝いに私が音楽好きなのを知り、映画館の中の音楽好きが話しかけてくれるようになった。Apple Musicのアカウントを教え合って聞いている音楽を知ったり、業務の合間に「森道市場行きますか?」「ミツメのエスパー聞きましたか?」とか雑談したり。そのうち、映画館の音楽好きたちは、私のライブにもきてくれるようになった。軽音サークルでもないのに、自分の好きな音楽を思うままに話せるコミュニティができるとは、思ってもみなかった。
 
6月21日にリリースした『ワークライフアイランド』に収録されている「アイスコーヒー」。夏に泣くぐらい印象に残る恋愛がしたいのなら一歩踏み込む勇気を持ってみては、という曲だ。
 
私が映画館で勇気を持って伝えた「好き」が思わぬ扉を開いたように、このままでは何にもならない関係に一区切りをつけられるのではないでしょうか。
 
<ゆいにしお>



◆紹介曲「アイスコーヒー
作詞:ゆいにしお
作曲:ゆいにしお

◆Major 1st Single
『ワークライフアイランド』
2023年6月21日発売
 
<収録曲>
1.We Are Girls Forever!
2.SUMMER TUNE
3.アイスコーヒー