雨上がりの園庭。

 2022年6月22日に“saji”が2nd Full Album『ユーリカ』をリリース!今作には、「星のオーケストラ」(TVアニメ『かげきしょうじょ!!』OPテーマ)や「ハヅキ」(TVアニメ『SHAMAN KING』第3弾EDテーマ)、「灯日」(TVアニメ『トモダチゲーム』EDテーマ)とアニメタイアップ曲を余すことなく収録。さらに、最新曲「クロスオーバー」(ABCテレビ他『部活ピーポー全力応援!ブカピ!』OPテーマ)ほか新録曲にも注目です。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“saji”のヨシダタクミによる歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第1弾。綴っていただいたのは、今作の収録曲「クロスオーバー」にまつわるお話です。この曲の芯となっている自身の部活の実体験とは…。今、何かを投げだしたい、何かから逃げ出したいと思っているあなたへ。この歌詞とエッセイが届きますように。


文部科学省の統計によると、
中学生の運動系の部活に所属している割合はおよそ80%で、
都道府県別で云うと
僕らの地元である北海道は69.7%と全国ワースト
トップは岩手県の90.1%だそう。
北海道の所属率が低いのは
やはり雪のせいなのだろうかとも考えたが、
東北の岩手がこの数字である事を見ると、
単純に県民性の差なのかもしれない。
道産子はよくのんびりしていると言われるが、
確かに僕を含めマイペースな人間が多いと思う。
 
小学生の頃からバスケを始めて、中学でもそのままバスケ部へ入部した。
うちの中学校はやんちゃな人間が多く、
特に僕の世代と一学年上の世代はいわゆる不良だらけで、
ゲームセンター=不良パイセン達の溜まり場で
下手に彷徨こうものならすぐに大人数に囲まれた。
 
中学生にとって学校は世界の総てであり、
そこで居場所を失えば、
人生そのものが否定されてしまうような
そのくらい学校生活というのは大変であり、
人間関係はとても重要で、この頃に性格が歪んでしまう人は多い気がする。
 
かく云う僕も似たようなものであり、
一時期部活をサボって遊び回っては
ろくでもない日々を送っていた。
まさしくスラムダンクの三井状態。
 
部活をサボった事のある人には分かるかもしれないが、
行かなくなる日がある程度続くと謝るきっかけを失ってもう行けなくなってしまうのだ。
 
後悔した所で、もはや遅きに失した過日の如く。
 
 
だが数ヶ月も経ったある雨の日
親父に乗せられた車の中で、こんな事を言われた。
 
「人生の選択肢は無限にあるが、その選択肢は自分次第でどんどん減っていく」
 
部活を続けるかどうかはお前の好きにすればいい。 
と前置きをした上で、そんな言葉を送られた僕は
 
「ああ、気まずいまま終わりたくないな。」
と思い、その日に顧問の元に出向いた。
 
最初は相手にしてくれなかったが、
何回か足を運ぶうちに
明日部活に来いと言われた。
 
半年ぶりのバスケ部。全員集合をかけた顧問が、
「今日はシャトルランしかやらない。何時までやるかも言わない。終わりだと言うまでやれ。」
 
それだけ言って体育教師室に篭ってしまった。
 
僕から皆へ謝罪する機会はなく、軽い沈黙の中
突然に始められたウォームアップ。
 
後輩も同級生たちも思う所はあれど、誰も口を開くことはなく、ただひたすらに身体を動かしていく。
 
そうやって始められたシャトルランは、
一列に4、5人の間隔で配置され
ただ延々と20mの旅を続ける。
決められた時間、終わりのない苦痛は肉体的にも
精神的にも僕らを追い込んでいき、
怒りにも苦しみにも似た感情の渦の中僕は心の中で詫びることしかできなかった。
 
ブランクのある身体では到底ついていけない程の過酷さだったが、
僕を唯一支えていたのは
「ここで泣きを入れたらもう何にもねえ」
という最後の意地だけであった。
死んでも良いからこれだけはやり遂げる。
その思いで走り続けた。
 
終わった時には精も魂も尽き果てて
まさに満身創痍の状態であったが、
その姿を見た同級生や後輩達が受け入れてくれて、
僕はバスケ部へ戻ることを赦された。
 
あの時の経験がなければ、
僕は音楽すらもやめて
ひょっとしたら人生すらも棄てていたかもしれない。
大きな心の財産になった出来事。
 
 
今回僕らsajiが書いた新曲の中に「クロスオーバー」という曲がある。
これは全国の部活少年、少女たちの
背中を押すような応援歌として
書き下ろした楽曲なのだけれど、
歌詞の中に出てくる言葉のいくつかは
この僕の実体験を基に書いている。
 
苦しくて苦しくて逃げ出したい、寝転んで楽になってしまいたい瞬間は誰にだってある。
 
でもそんな時、最後の最後までやり抜いた先には
後人生きっと大きな心の支えになる。
自分にはできる。自分ならやれる。
だから負けるな。
 
気がつけば僕の人生、一番長く続けているものが音楽になっていた。
そして今もそれが僕を支えてくれている。
あとどのくらい続けていけるかは
分からないけれど、歌える限りは全力で駆け抜けていこうと思う。
 
この道が続くことが誰かの未来になると信じて。

<saji・ヨシダタクミ>


◆2nd Full Album『ユーリカ』
2022年6月22日発売
初回限定盤 KICS-94065 ¥4,950(tax in)
通常盤 KICS-4066 ¥3,300(tax in)
 
<収録曲>
M1:スターフライヤー
M2:フォーマルハウト
M3:アスファルトと水風船
M4:星のオーケストラ
M5:Apricot
M6:ハヅキ
M7:クロスオーバー
M8:灯日
M9:After the Rain
M10:ゆりかご
M11:どうぶつのうた