―終点―

 2023年10月3日に“saji”がNew Digital Single「Magic Writer」をリリースしました。同曲はTVアニメ『とあるおっさんの VRMMO 活動記』オープニングテーマ。sajiとしてはTVアニメ『かげきしょうじょ !!』に次ぐ2作品目のアニメOP曲であり、夢を諦めかけている大人の背中を押してくれるスウィング・ロックとなっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“saji”のヨシダタクミによる歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、新曲「Magic Writer」にまつわるお話です。大人になるってどういうこと? その質問の答えはきっと子どもと大人で異なるけれど、ひとつ共通する部分も…。今、夢を追いかけているあなたへ。ぜひ歌詞と併せて、このエッセイを受け取ってください。



小さい頃は誰しも色々な夢を持っている。
怪獣、ヒーロー、警察官、スポーツ選手
憧れと願望がイコールで結ばれていたあの頃
 
やがて自分という存在を強く認識し
現実というものを見つめるうちに、自分自身の値打ちを考えるようになっていく。
 
等身大の幸せというやつが大人になるにつれ
社会に於ける存在意義、存在価値に置き換わっていくような気がして、種の保存(群選択)とやらを感じざるを得ない。
 
大人になるってどういうこと? と
子どもに質問すれば、恐らく彼らは
「やりたいことやできることがもっと増える」と答えるだろう。
 
しかし同じ質問を大人にぶつければ
「自立し社会に適応すること」と答えるだろう。
 
この二つの答えは置き換えれば
子どもが描く大人=自由になること
大人が描く大人=不自由を知ること
 
であると僕は思う。
ただ、この問いかけの本質はそこではなく
双方が自分のことを不自由だと思っていることにある。
 
子どもたちは大人になったら
自由になれると思っているし、
大人たちは子どもは自由でいいなあと思って生きている。
この感覚のスイッチの入れ替わりこそが人生のモラトリアム期であり、
クリエイターとしては最も不安定で輝かしい黄金期だと思う。
 
子どもにも大人にも成りきれないどこにも属していない存在だからこそ、
夢や希望といった類への感覚が今の僕らとは違う。
夢や希望や愛といった言葉が一番嫌いな時期でもある。
 
言い換えればこの時期こそが
本当の夢を見つける子ども時代最後の
タイミングとも言える。
 
大人になってからの夢と
子どもの頃に描いた夢はまるで違う。
 
大人の描く夢には飛び立つための滑走路が必要だし、子どもの夢には翼が要る。
 
大人は叶える為にはどうすれば良いかを
考え、子どもはなった後のことを考える。
 
この言葉を聞いて 
はっとした人はいないだろうか。
 
大人には道が必要なのだ。
自らが歩いて来た道や、
ここから先進むための標が。
 
子どもの頃の僕らは、目的地さえ分かれば
それで良かったはずなのだ。
出来る出来ないではなく、
なりたいものが夢であり未知こそが夢だった。
 
 
昔のポケモンのEDテーマで小林幸子さんが歌う「ポケットにファンタジー」という曲がある。
 
僕が今長々と書いてきたことの全てがこの曲に詰まっているので、
知らない人は是非歌詞を見ながら聴いてみて欲しい。
 
今回描いた新曲「Magic Writer」も
まさにそういうテーマを歌った曲であり、
子どもの頃の夢と大人になった自分
 
大人であることで得た幸せもあれば、
今の暮らしに不満がある訳でもない。
それでも、あの頃の夢は何処に行ったんだろうか
という事を紡いだ歌詞になっているので
大人になった全ての人に届いて欲しい。
 
僕は音楽を続けていく中で 10代、20代と
それぞれ同じテーマを歌った曲を書いてきた。
そして今回新たに描いた
この「Magic Writer」という歌を通じて
僕自身どのような感覚で今を生きているのかも改めて自覚できた気がする。
 
僕はまだ夢を叶えられていないし、
夢をまだ見続けられているのかも分からない。
 
ただ、このトンネルがどこに繋がっているのかを見たいんだ。
 
<saji・ヨシダタクミ>



◆紹介曲「Magic Writer
作詞:ヨシダタクミ
作曲:ヨシダタクミ